BBB MAGAZINE

  • MotorCycleDays

    2015.06.23 / Vol.22

    バイク旅行家の本棚①

CREDIT

    • ライター
    • 執筆

    藤原かんいち

    • 撮影

    藤原かんいち

バイクで世界を旅するようになってからあまり買わなくなったバイクの旅本だが、旅の資金稼ぎをしている時期はよく世界を旅した人たちの本を読みながら、まだ見ぬ未知の風景に思いを馳せていた。また「バイクで世界を走りたい!」と思うきっかけになったのも、一冊の本だった。そんな訳で本は溜まる一方、先日、旅の本の重さで本棚が歪んできたことをきっかけに、大切な本を残してほかは全部古本屋へ出した。だからいま本棚にある本はどれも思い出のあるものばかり。本はその人の歴史と言われている。ということで今回は、僕の本棚に並んでいるバイク旅の本を紹介したいと思う。気になる本があった人はぜひ、アマゾンなどで探してみよう。

「青春を山に賭けて」

「青春を山に賭けて」植村直己。最初に買ったものはなくなってしまいこれは2冊目。発行は文集文庫に変わっている。

書籍名:青春を山に賭けて
著者:植村直己
発行所:毎日新聞社
発売日:1971年

20代の僕を世界の旅へと誘った貴重な本が2冊ある。1冊はバイクの旅本ではないのだが、僕の生きる道標となった本なので、特別にぜひ紹介させて欲しい。それは冒険家の植村直己さんが書いた「青春を山に賭けて」という本。この本を読んだのはおそらく24歳の時だったと記憶している。
植村直己さんは世界初の五大陸最高峰登山や犬ゾリによる単独北極点到達など、数々の快挙を達成、国民栄誉賞も受賞している日本を代表する冒険家だ。この本はその植村さんの初著書で、本格的な登山を始める大学生の頃から、山登りが好きになり、世界放浪の旅をしながら世界の頂を目指すまでのストーリー、まるで映画のいち物語のように描かれている。
本の中で一番刺激を受けたのは、その生き方。特に印象に残っているのは大学生時代。元々飛び抜けた体力や技術がないままで登山部に入部したら、周りのペースに付いていけず落ちこぼれになってしまった。小さなころからすごい才能を持った人ではなかったことに驚き、親近感を覚えた。どちらかというと周りに劣等感を持っている人で、そんな思いに打ち勝とうと登山に熱中。諦めずに努力を続けることで、登山家としての実力を高めて行き、さらに破天荒な行動力と純朴で飾りのない人柄が周りの人を惹きつけ、協力者を得られるようになっていった。
この本を読んだ当時の僕は、小さな会社に就職したものの、同じような毎日の繰り返し。このまま何事もなく人生は進んでいくのだろうか? 学生の頃は「自分には人にできないような、何かができるんじゃないか?」「もしかしたら秘めたスゴイ才能が隠れているんじゃないか?」そんな風に思っていたが、社会に出るとすぐに自分の小ささを実感した。 世界をバイクで旅したいという夢があったが、どこか自分に自信が持てず、足踏みをしていた僕は植村さんの生き方に強く共感。もしかしたら僕にもできるかもしれないと思うようになっていった。失敗してもいい、それより大切なのは後悔をしないことなのだ。この本から大きな勇気をもらった。この本に出会わなかったらおそらく今の僕はないと思う、それ位この本との出会いは大きかった。

「どこだって野宿ライダー」「オーストラリアンストックルートを求めて」

「どこだって野宿ライダー」寺崎勉。表紙
「どこだって野宿ライダー」寺崎勉。裏表紙
2002年著者の寺崎さんに会ってサインをもらった

書籍名:「どこだって野宿ライダー
「オーストラリアンストックルートを求めて」
著者:寺崎勉
発行所:山海堂(現在は廃業)
発行日:1984年11月(昭和59年)

僕の人生を変えたもう一冊がこれ。これも「青春を山に賭ける」と同じ頃、1986年頃に出会い購入すると、引き込まれるように読んだ。バイクで日本一周を果たした後、さらにもっと広い世界を見たい。自分の想像を越えるような海外へ行ってみたい。死ぬまでに一度でいい、360度の地平線をバイクで走ってみたい。そんな思いが湧き上がっていた時だった。
当時の日本はオーストラリア旅行が大ブームだった。しかしバイクで走るとなると別問題で、何をどうすればいいのか? 具体的なことはよくわからなかった。インターネットもない時代、頼りになるのはバイク雑誌と本だけ。そんな時、この本と運命的な出会いをした。
表紙には赤土の大地。英語の道路標識、その横には荷物満載のビックタンクのオフロードバイクXL25S。フロントにはスペアタイヤ、リアにはガソリンタンクが積まれている。これぞ正真正銘のアドベンチャーツーリングだ。ページを開くとそこには壮大な地平線、赤土の砂漠、水没したバイク、骨になった牛の死骸、エアーズロック、広い空...ワクワクする世界がぎゅうぎゅう詰めになっていた。
本の内容は北海道出身26歳(当時)の寺崎勉さんが自分のオフロードバイクを船でオーストラリアへ輸送。そのバイクでオーストラリアのダートロードを一周&縦横断を果たした36000km、6カ月の旅の記録。旅は苦労の連続。毎日テント生活でバイクもなぜかよく壊れた。さらに、深い泥沼にバイクがはまって動けなくなったり、激しい洪水に流されて溺れかけたり、パンクやトラブルでは現地の人に助けられたり。日本では想像のできないスケールの大きな出来事が次々に襲ってくる。オーストラリアの自然の大きさと厳しさ、そこに住むオーストラリア人の優しさに支えられながら旅は続いて行く。寺崎さんの器用ではない素朴な人柄が伝わってくる内容で、ひとつひとつのエピソードが僕の胸に突き刺さった。
さらにこの本には装備品リスト、整備手帖、費用の内訳、渡航手続きの方法など、僕が欲しいと思っていた情報が全て書かれていた。 本を読み終えると、見てはいけないすごい世界に触れてしまった気がした。「こんなこと僕にもできるのかな?」という不安はあったが、それ以上に「僕もこんな風景の中を走ってみたい」という憧れが、全身を駆け巡った。よし、僕も走ってやる。待っていろよ、オーストラリア!と湧き上がった。
一度しかない人生、やりたいことをやらなければ絶対に後悔する。どんなに小さくて弱い人間でも無限の可能性があり、夢を叶えることができるのを教えてくれたのが、「青春を山に賭ける」だった。その時の僕がやりたいことは狭い日本を飛び出して、広い世界を走ることだった。いまの自分では想像もつかないような壮大なスケールの世界へ飛び込んで行きたい。そんな思いを実現の世界へと導いてくれたのが、寺崎勉さんの「どこだって野宿ライダー」だった。 この2冊との出会いは、旅行家・藤原かんいちの原点。もし出会わなかったら、ほかの人生を歩んでいたかもしれない。それくらい大きな存在だった。誰にでもきっと自分の人生観を変えてしまう本との出会いがあるはず。いや、もしかしたらこれから出会うのかもしれない、いまなら本以外にも、ブログやYOUTUBEという可能性もある。もしそこにある大きく心が動く何かを感じたら、そこへ向かって動いてみよう。考えすぎたら何もできなくなる。とにかくチャレンジ。後悔とは、やらなかったことなのだから。

さすらいの野宿ライダーになる本

「さすらいの野宿ライダーになる本」寺崎勉。表紙。
「さすらいの野宿ライダーになる本」寺崎勉。裏表紙。

書籍名:さすらいの野宿ライダーになる本
著者:寺崎勉
発行所:山海堂(現在は廃業)
発行日:1984年09月(昭和59年)

前の2冊は心を未知の世界へと導く本だったが、これは完全な実用書。寺崎勉さんのように自由にどこへでも行けるオフロードバイクに乗って、野山でテント泊をしながら、さすらいの旅をする。そんな野宿ライダーになるためのノウハウが詰まっている。 内容は「1.どこにどうやってテントを張るか」「2.めしをつくろう」「3.寝る」「4.朝」「5.旅の一日」「6.何を持っていこうか」「7.ライディングウエア」「8.どんなバイクで旅に出ようか」「9.何をどうやって積むか」「10.季節、条件による装備の違い」「11.いろんな野宿があった」という構成になっていて、それぞれをたくさんのイラストや写真を使って紹介している。今も昔も「野宿」という題材をテーマした本はほとんどないので、これはかなり貴重な本だと思う。 どれも自身の体験に基づいた内容なので説得力がある。何が必要で、何がいらないのか? こんな時、現地ではどう判断するか? 読み物としても面白い。その中でも特に印象に残っているのが、野グソの仕方がイラストで描かれていること。穴を深めに掘ってその中にするとか、その後も土で埋めたり、落ち葉などを被せておくなど詳しく書かれていた。他にも快適な野宿地の探し方(見分け方)だとか、ある一週間の食事メニュー、たき火の作り方などもあった。当時は、マネしたこともあったし、これは無理だろーっと、話のタネになることもあった。実用書としても、読み物としても面白いことから、今 でも僕の本棚の一角に並んでいる。

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