BBB MAGAZINE
CREDIT
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- ライター
- 執筆
藤原かんいち
-
- 撮影
藤原かんいち
今年、還暦を迎えることになりました。自分がそんな歳になったという実感はまるでないのですが、これまでにやってきた様々な旅を振り返ってみると「まあ、確かにそうなのかな...」と納得します(笑)。
自動二輪免許を取得したのが20歳なのでバイクとの付き合いは40年になります。バイクと旅は僕の世界を広げ、人生を豊かにしてくれました。僕はこれまで日本一周を4回以上、世界一周も2回実現しました。これほど多くのバイク旅を体験している人は少ないと思います。
そこで、数々の旅が実現するまでのストーリーや思い出、実際のバイク旅での出来事、さらに40年間の世の中の変化など。僕の半生とバイク旅を年月をと振り返りながら、『バイクと旅した40年物語』として語り綴っていきたいと思います。ぜひお付き合いください。
第1回:「サイクル野郎」に憧れる自転車少年
両親と姉と妹の5人家族。父親は若いころ故郷の岩手県遠野市から上京、工務店の棟梁で大工の仕事をしていた。工務店には住み込みで働く弟子が10人近くいたので、母親は家族と共にその弟子の食事や洗濯など身の回りの世話をしていた。男は僕ひとりだけなので、お弟子さんから「よっ、跡継ぎ!」とか「二代目が来た!」とからかわれたことを覚えている。
父親は昔のアニメ「巨人の星」の星一徹のように、口数が少なく厳しい人だったが、旅行や温泉が好きだったようで家族をいろんな場所へ連れて行ってくれた。伊豆大島や佐渡島、日光、伊豆熱海、箱根などへ行った記憶がある。そんなわけで、夏休みが近づくと今年はどこへ連れて行ってくれるのか?ワクワクしていた。
中学校入学と同時に、当時流行っていたサイクリング車を親に買ってもらった。10段変速、ドロップハンドルのランドナー車。憧れていた自転車だった。当時住んでいたのは神奈川県相模原市。郊外の住宅地で行動範囲は近所の駄菓子屋から一気に30㎞以上離れた、相模湖やヤビツ峠へと広がっていった。
中学2年の夏休み。友人とふたりで富士五湖と伊豆半島を一周する3泊4日の自転車旅行を計画した。親も同行しない、子供たちの力だけで進んで行く、まさに自転車冒険旅行だった。自分たちで走るルートを決め、泊まる場所も予約した。ペダルを漕ぎ、いくつもの坂道を越えて行く。わずか4日の旅だったが、元々気が小さくて引っ込み思案な自分は、この旅を成し遂げたことが大きな自信になった。
長男の僕は家族や父親のことを考えて、建築科のある工業高校へ進学した。男子校で半分以上がリーゼントに長ランボンタン、鞄はペッタンコ。不良のたまり場のような学校だった。16歳になるとみんな校則を破ってバイクの免許を取得、教室はバイクと喧嘩の話題で持ち切りだった。そんな高校だったが僕は変わらず自転車一筋、バイクに興味が湧くことはなかった。
そしてもう一つ、夢中になっていたものがあった。それは週刊「少年キング」という漫画雑誌で連載していた『サイクル野郎』だ。ストーリーは高校受験に失敗した自転車屋の息子が自転車で日本一周を目指すというもので、道中の全国各地で起こる様々な出会いや体験がリアルに描かれていた。ある時は事件に巻き込まれ、ある時は出会った可愛い女の子と恋に落ち、ある時は男の友情が描かれていた。主人公の輪太郎に自分を重ね、夢中になって読んでいた。そんな漫画の影響を受けて、いつか日本一周をしたい!と思うようになった。
高校2年の夏休み、大きな旅を計画した。自宅の神奈川県から祖父母が住む岩手県まで走る自転車ひとり旅だ。荷物をたくさん積んだ自転車を漕いでいると、よくトラックドライバーが声をかけられた。ときどき僕が高校生で岩手を目指していることを知ると「うまいものを喰え」とお小遣いをくれたこともあった。また宿の女子大学生たちに「高校生がひとり旅なの、凄いわね!」と絶賛され、有頂天になった。とにかくたくさんの人たちが僕の行動を褒め、認めてくれた。勉強が苦手で成績の悪かった僕にとってそれは、とんでもなく嬉しいことだった。同時にひとり旅を最後までやり遂げたことは、かけがえのない貴重な経験になった。
高校3年。将来、父親の期待に応えて大工になった方がいいのはわかっていたが、18歳になっても大工になりたいと思えなかった。本当は小学生のころから絵を描くのが好きだったので、できればデザインの仕事をしてみたいと思っていた。本心をなかなか言い出せなかったが、ある日勇気を出して「卒業したらデザインの専門学校に進学したい」と両親に打ち明けた。母親は僕の様子を見て想像していたようだが、父親はかなり戸惑っていた。それでも最後は僕の気持ちを尊重して専門学校へ送り出してくれた。
デザイン専門学校2年生のとき、友人から「いらない原付があるんだけど乗らない?」と連絡が入った。すでに自動車免許は持っていたので、原付の運転はOKの状態。バイクへの偏見もなくなっていた。友人の家へ行き、初めてバイクに跨り、アクセルを開けた。勢いよく走り出すバイク。次に瞬間、脳天に電流が走った。「おーっ!なんだ、漕がなくても進む!」「すごい、これならどこまでも、永遠に走れるぞ!」味わったことにない感覚に大興奮した。
それから一気にバイクに熱中した。譲ってもらったパッソルで初ツーリング。道志道を通って河口湖を目指す。自転車の時はハァハァ息を切らして漕いだ峠道を、バイクはいとも簡単に登って行く。峠を越えたときの達成感や満足感はないが、風を切って走り抜けて行く爽快感は自転車にないものだった。
アクセルを開けて進んで行く。その感覚に魅了された僕は休日になるとパッソルであちこちに出かけた。走るのが楽しくてたまらない。その一方でもっとスピードの出るバイクにも乗ってみたい気持ちも芽生えてきた。当時、憧れていたのは、荷物を載せて広い大地のまっすぐな道をドドドドッと走り抜けて行くアメリカン。当時、原付のアメリカンで人気だったのがヤマハのRX50。原付とは思えない大柄な車格でパワーはスポーツバイク並み。乗るならこれだと思った。
それからアルバイトをして資金を稼ぎ。ある程度貯まったところで、足りないところは母親に頼み込んで借金、苦労の末、ついに憧れのワインレッドカラーのRX50を手に入れた。初めて乗るギア付きバイク。カシャカシャと足でシフトチェンジをしているだけで、大人の気分になった。一週間運転の練習をしただけで、リアに大型バックを載せて九州へ向かった。
初日が浜名湖、2目目は神戸に宿泊。念のために予備のガソリンを持っていた方が安心だろうと思い、ホームセンターへ入った。しかし、どの棚を探しても見つからない。店員に聞くと「ここにはないですよ、ガソリンスタンドへ行ってください」と苦笑。そんなことも知らなかった。
3泊目が広島、4泊目が山口。そして5日目に関門トンネルを通って九州に上陸した。大分の宿で、偶然RXで旅をしている関西人と仲良くなり、一緒に走ることになった。ベテランライダーで、そこで初めて2ストバイクはオイルの補充が必要なことを教えてもらった。残量をチェックするとかなり減っていて、もしその人に教えてもらっていなかったら...と思うと背筋が凍った。その後も出会ったライダーが延び切ったチェーンを見つけ、張ってくれたり、いろんな人が助けてくれた。
今考えるとあまりに無知で、無謀な旅だったと思う。それでも、何が起こるかわからない毎日が楽しくて仕方がなかった。初めて会った人と一緒に走ったこと、宿で出会った人と一緒に登山をしたこと、文通をしていた長崎の女の子とデートをしたこと、旅は自由が溢れていた。自転車の旅ではなかったが、バイクを走らせながら少しだけ憧れの「サイクル野郎」の主人公、輪太郎に近づけたような気がしていた。
つづく
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