BBB MAGAZINE
CREDIT
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- ライター
- 執筆
藤原かんいち
-
- 撮影
藤原かんいち
20歳のとき中型二輪免許を取得。今年60歳になるのでバイクとの付き合いは40年になる。4度の日本一周、2度の世界一周など、そのほとんどの旅を小さな原付バイクで実現してきた。バイクと旅は僕の世界を広げ、間違いなく僕の人生を豊かにしてくれた。
これまでの旅が実現するまでのストーリーや思い出、実際のバイク旅での出来事、さらに40年間の世の中の変化など。僕の半生とバイク旅を年代と共に振り返りながら、『バイクと旅した40年物語』として語り綴っていきます。
前回はオーストラリアへ行こうと思ったきっかけや原付バイクで旅する理由などを綴りました。今回はいよいよオーストラリアに上陸、ついに海外の旅が始まります。
第5回:オーストラリアの旅・前編
シドニーでまさかの事態が起こった。船会社の現地代理店に電話をすると、大型のコンテナ船なのでモトラが引き取れるのは、早くて2週間後、下手をしたら1か月後になるというのだ。入港した数日後には受け取れると思っていたのに、いきなりこんなことになるとは、トホホホ... バイクがなければ僕の旅は始まらない。まずはできる限り宿泊費を節約しようと思い、日系新聞で見つけたシェアハウスへ移動した。一軒家を数人でシェアするようになっていて、そこにはワーキングホリディの日本人が数人滞在していた。それまでずっと英語だったので、日本語で話ができるのはかなりうれしかった。
15日後、代理店からようやく連絡が入った。ここまでの時間がかかったので、すぐには受け取れないだろうと思ったが、手続きは拍子抜けするほど簡単でその場で受け取ることができた。2カ月ぶりに会うモトラが懐かしい。持っていたガソリンを給油して、キックスターターを踏み下ろすと、すぐにエンジンは目を覚ました。やった、よし、これで旅ができる! それから2日後、シェアハウスの仲間たちの見送りをうけ、シドニーを後にした。
走り出した初日、再びまさかの事態が発生した。走行中にいきなりのバイクがストップ。何と、リアブレーキの故障しているではないか。メカ音痴なりに修理をしてみるが、直しきる前に日が暮れてしまった。仕方なく路肩に寝袋を広げ、野宿の準備を始める。まさか異国を走り始めた初日に、野宿とは想像もしていなかった。周りは車もほとんど通らないローカル道路。しばらくすると車がやってきた。事情を話すと、それなら俺の家に泊まれという。路上から一転、夕ごはんと寝床までお世話になることになった。ジェームスさんは牧場を営んでいて、家は賑やかな6人家族。夜は辞書を片手に盛り上がった。ベッドに横になりながら「本当に運が良かった...」心からそう思った。
6月のオーストラリアは想像以上に寒く、また毎日のように雨に降られた。南半球へ来たのはもちろん初めて。季節が日本と逆で、さらに南へ向かうほど寒くなるのがとても不思議だった。頭では分かっているのだが、なかなか慣れなかった。
シドニーから2週間、大陸縦断道路(スチュワートハイウエイ)と起点となるポートオーガスタの町に到着した。町を歩いていると、偶然自転車で旅をしている日本人男性に出会った。「坂本真一(愛称シン)」という名で世界一周の第一国目がオーストラリアだという。歳も同じとわかりすぐに意気投合した。さらにオーストラリアを一緒に自転車で走る相棒「かおる」も後から登場。自分と同じように人生を賭けて旅しているシン、初めて本物の仲間に会えたような気がした。それから3日間一緒に過ごした。昼は一緒に自炊。夜は川の字に並んで野宿、星空を眺めながら日本のことや未来の夢を語り合った。同年代とここまで熱く自分のことを語ったのは初めて。まさに運命的な出会いだった。
ふたりと別れるとスチュワートハイウエイへ突入。景色は一変、地平線が広がった。それまでの景色も広大だったが、さらに木は姿を消し、無人の荒野になった。地図では町の名前と名前の間隔が100㎞~150㎞は離れている。その間に町どころか家もない、やっと名前の場所に着いたと思ったら、ガソリンスタンドやモーテル、売店などの建物があるだけの集落(施設?)だった。ここは「ロードハウス」と呼ばれる場所で、水、電話、電気、トイレ、食料、ガソリン、宿泊施設、ガレージなど、自動車移動に必要なものはひと通り揃っていた。
ロードハウスで給油や食料調達をしながら北上、そしてついに地平線に大きな岩が見えてきた。世界一の一枚岩と呼ばれるエアーズロック(ウルル)だ。エアーズロックの周辺は野宿禁止のためキャンプ場のある「エアーロックリゾート」へ行く。ここは観光局向けの広大な施設で、砂漠のど真ん中にキャンプ場やホテルはもちろん、銀行、郵便局、スーパー、病院まであるという。
キャンプ場はたくさんのキャンピングカーとテントで賑わっていた。小さなモトラを見つけた好奇心旺盛な子供たちが次々僕のところへ集まってくる、持っていた日本のステッカーを上げると大喜び。しばらくすると親を連れて戻ってきた。東洋人のバイク旅人が珍しいのか、色々質問してくる。さらに僕とバイクの写真を撮ったり、ジュースをくれたり。地元に来たら家に泊まってと言って住所をくれる人もいた。その後も、あちこちのキャンプ場で声をかけられ写真を撮られまくり、僕はすっかりスター気分になった。
2日目にエアーズロック登山。30分くらいで登れると聞いていたので、軽い気持ちで登り始めたが想像以上に急勾配、くさりにつかまって登る崖もあり、心臓がバフバフ状態。モトクロスブーツで来たことを後悔した。頂上からの眺めは素晴らしく。360度の大パノラマが広がった。どこまでも続く地平線、雄大な景色にしばし時間を忘れた。
スチュアートハイウェイを北へ向かうほど木が増え、気温もどんどん上昇する。大陸の北端にある町ダーウィンに着くころには熱帯の景色になった。歩道に並ぶヤシの木がトロピカル。海を見に行くと白いヨットが並び、まさに南国の楽園だった。服装も半袖にショートパンツ。1か月前は寒さで震えていたのがウソのよう。オーストラリアの大きさを感じる。
ダーウィンからキャサリンへ引き返すと進路を西へ変えた。しばらくするとビクトリア州からウエストオーストラリア州の州境に到着した。これまでの州境は看板が立っているだけだったが、ここはチェックポイントがあり、係員が立っていた。病原菌の侵入を防ぐために州を越えての食品や植物などの持ち込みは禁止されている。こんな体験は初めてなので緊張したが、口頭で質問を受けるだけでバックを開けて調べられるようなことはなかった。
ウエストオーストラリア州に入るとすれ違う車も数えられるほど交通量は激減。走っている車は長期旅行者か輸送のトレーラーのどちらか。たまに反対車線からキャンピングカーが来ると嬉しくなって大きく手を振ると、車もクラクションを鳴らして応えてくれた。旅行者同士の絆を感じる。珍しくバイクと擦れ違うとUターンしてきた。ヘルメットを取ると日本人だった。僕と同じように日本からバイクを船で送り、オーストラリアを一周しているという。まさに同士。遠い地で友に出会えたような気分になった「旅での出会いは最高ですね!」と笑った。
旅も1か月を過ぎるとキャンプ場に泊まることはなくなり、ブッシュキャンプがメインになった。誰もいない荒野にテントを張り、星空と焚き火と一夜を過ごす。自分が地球の一部になっている気分。時々偶然出会った旅行者、特にリタイヤした年配夫婦と一緒にキャンプをすることが多くなった。独立した子供たちの話をしてくれたり、コーヒーやトーストをいただいたり。そんな時間がとても好きだった。
シドニーを出て2カ月半。大陸を半周してウエストオーストラリア州の州都パースに着いた。庭園都市と呼ばれるパースは美しく整備された、近代的な町だった。市街を歩きバイクに戻ると、そばに見覚えのある自転車が停まっていた。まさか!? それは何と2カ月前にポートオーガスタで別れた、シンの自転車だった。「おーーーっ!」「うそだろ」もう一度会えるとは夢にも思わなかった。固い握手をする。たった2カ月だが、なんだか一皮むけた感じになっている。そのまま一緒に安宿へ移動。夕飯を食べながらここまでのことを、堰を切ったように話した。僕がこれから向かうナラボー平原は、シンが走ってきたルート。シンがくれる情報は最新で信頼性が高かった。ここで会えたことは本当に幸運だった。
これから走るナラボー平原レイルウェイロードは全行程1400㎞に及ぶダートルート。オーストラリア屈指のアウトバックロードで、その間で食料が手に入るのは3か所のみ。いずれも人口100人にも満たない集落。またガソリンスタンドは1軒もないことがわかった。シンは横断ルートの入口となるカルグリーまで戻り、そこから北上するというのでカルグリーまで一緒に移動する。一緒といっても自転車と同じ速度では走れないので、シンは所々でヒッチハイク。夕刻になると合流、ブッシュにテントを張り、一緒にめしを食い、つまらない冗談を言い合った。
カルグリーを出たらシンとの再会はもうない。もし会えるとしたらシンの世界一周が終わる5年後の日本。その時はふたりとも30歳近くなっている、あまりに遠すぎて想像ができなかった。シンと別れて久しぶりにひとりになると、センチメンタルな気分になった。ナラボー平原を縦断するために30リットルのガソリンと7リットルの水を積載。路面状態にもよるが7~10日間あれば横断できるはず。走り始めると車体はずっしりと重く、思うようにスピードが出なくなった。それでも僕が見たい360度の地平線がナラボー平原なら見られる、そんな気がした。
ナラボー平原2日目。エミューとカンガルーが多く、バイクを見つけると驚き慌てて逃げて行く。その姿を見るとなんだか申し訳ない気持ちなった。3日目。民家20軒くらいの小さな集落に着いた。一軒ストアがあり、パンや米、ジャム、チーズなどを買った。しばらく行くと見渡す限り岩だらけ、地面から無数の岩が突き出している。最初は避けながら走っていたが、きりがないので途中で諦めた。時々岩にホイールを激突させながら進んで行く。パンクしないことを祈りながら、アクセルを開ける。
長い岩地獄を抜け出すと、土の大地に変わった。余裕ができたので、視点をふと上げると、見渡す限り360度の地平線に囲まれていた。「うおーーっ! スゴイ、スゴイよ!」感動と一緒に涙が溢れてくる。拭いても拭いても涙が止まらない。見たかった360度の地平線が本当に存在していたこと、そしてその場所へ自分がこられたことに感動した。ここまでの道程の中でいろんな壁があったけど、乗り越えて、ここの場所へ来ることができた。自分にも夢を叶えることができた。そう、全ては自分次第なのだ。その瞬間、僕に中にある見えない扉が開いた。
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