BBB MAGAZINE
CREDIT
-
- ライター
- 執筆
藤原かんいち
-
- 撮影
藤原かんいち
20歳のとき中型二輪免許を取得。今年60歳になるのでバイクとの付き合いは40年になる。4度の日本一周、2度の世界一周など、そのほとんどの旅を小さな原付バイクで実現してきた。バイクと旅は僕の世界を広げ、間違いなく僕の人生を豊かにしてくれた。
これまでの旅が実現するまでのストーリーや思い出、実際のバイク旅での出来事、さらに40年間の世の中の変化など。僕の半生とバイク旅を年代と共に振り返りながら、『バイクと旅した40年物語』として語り綴っていきます。
さて、前回は初めての実現した海外の旅、原付バイクでオーストラリアを一周がスタート。360度の地平線を求め走り続け、ついにナラボー平原で理想郷へ辿り着きました。その後編です。
第6回:オーストラリアの旅・後編
感動のあまり動けなくなった僕は、見渡す限り何もない、360度の地平線のど真ん中にテントを張った。直径100㎞は人のいない無人の荒野にひとり。太陽が沈むと空は無数の星で埋め尽くされた。黒い地平線の向こう側に銀河が沈んで行く。ここにいるのは僕と地球だけ。この時生まれて初めて自分が星に立っていること、そして見ている星空は宇宙であることを実感した。
ナラボー平原を走り始めて4日目。地平線に民家が5軒だけの集落、フォレストに着いた。商店はなさそうなのでそのまま通過する。砂が深くないので、この調子で行けば、明日中には最も大きな集落(人口100人くらい)クックに着けだろう。ただ不安なのがここ数日バイクの調子が悪いこと。エンジンがなかなかかからない上、いまいちパワーが出ない気がするのだ。砂埃でエアクリーナーが詰まっているのかと思いチェックをしたが、特に問題はなさそう。オイルも特に変化はない。結局、不調の原因はわからずじまいだった。
平原横断5日目の夕方。東の地平線に明かりが見えてきた。クックだ。近づくと適当な間隔をあけて30軒くらい家が建つ、小さな集落だった。家の窓を開けたら見るのは地平線。どんな僻地でも人は住めるものだなと思う。空地にテントを張っていると好奇心旺盛な子供が集まってきた。男の子がバイクに乗りたいというので乗せてあげると大喜び。どこの子供も無邪気なのは同じだ。日が暮れるころ、さっきの男の子が戻ってきて、僕の家でシャワーを浴びていってと誘ってくれた。これはありがたい。7日ぶりのシャワー、全身の砂を洗い流した。
翌朝。想像以上に燃費が落ちていて、計算するといまのガソリンだけでは、ナラボー平原横断ができない(グレンダンボーまでいけない)ことがわかった。しかしクックにガソリンスタンドはない、さあ困った、どうしよう。昨日の少年の家で行き聞いてみると、どうやら商店で買えるらしい。喜び勇んで商店へ行くとドラム缶があり、ガソリンを売ってくれるという。やった。5リットル購入、これでグレンダンボーまで行けるぞ。 ってきた。男の子がバイクに乗りたいというので乗せてあげると大喜び。どこの子供も無邪気なのは同じだ。日が暮れるころ、さっきの男の子が戻ってきて、僕の家でシャワーを浴びていってと誘ってくれた。これはありがたい。7日ぶりのシャワー、全身の砂を洗い流した。
ナラボー平原横断7日目。ついに地平線の先に林が見えてきた、どうやらナラボー平原の核心部を抜けたようだ。しばらく進むと人がいたのでビックリ。無人の荒野のどこにいて、どこへ向かっているんだ? 手を振るとオーストラリア先住民、アボリジナルの人だった。しばらくすると林の中から現れたオンボロのトラックが現れ、そのトラックに乗り込むと、地平線の彼方へ消えていった。砂漠で暮らすアボリジナルの人たちは、どんな生活をしているのだろう? そんなことを考えた。
ナラボー平原横断9日目。1430キロのオフロードを走り切り、ついに大陸縦断道路にあるロードハウス、グレンダンボーに到着した。テントを張り、キャラバンパークのランドリーで洗濯をしていると2週間前にカルグリーで会ったニュージーランド人夫婦とまさかの偶然の再会。一緒にナラボー平原横断成功を祝ってもらった。
ナラボー平原横断で自信をつけた僕は、さらに困難なアウトバックルート、アボリジナル居住地区を通過する内陸縦断ルートを計画した。ポートオーガスタにあるアボリジナル事務局へ行き、通行許可証を申請。ところが本部はいま休暇期間中のため、許可書が発行されるまで2~3週間かかると言われてしまった。さすがに2週間も待つことはできない。そこで急遽、居住地区を通らないバーズビルトラック、タナミロードなどのロングダートを組み合わせた別の縦断ルートで行くことに決めた。
キャンプをしながらバーズビルトラックを北上する。このエリアが風の通り道なのか、連日の強風。さらに運が悪いことに向かい風だった。トップギアにすると止まりそうになるので、セカンドギアでノロノロ進んで行く。地平線の先に砂嵐の塊が現れた。まるで生き物のように不気味に移動している。あいつに巻き込まれたら、小さな僕などひとたまりもないと思い、バイクを止め過ぎるのを待つ。しばらくすると爆音を響かせ去っていった。ああ、よかったと胸をなでおろす。
ブーリアの町からドンヒューハイウェイへ向かう。この道は「4WD ONLY」と書かれているので、かなりの悪路が予想される。最初の150キロは問題なく走れたが、途中から急激に砂が深くなった。砂にタイヤのパワーを吸い取られ、どんどんスピードが遅くなる。一度止まったら砂から抜け出せなくなると思い、バイクから飛び降り、アクセルを全開にしてバイクを押した。ブォォォン!唸るエンジン。パウダーのような細かい砂を舞い上げる、全身砂まみれ。口や鼻に砂が入ってくる。地面には無数の轍が延びている、砂の浅い轍を探しながら進んで行く。格闘すること数時間、ついに「ウエルカムノーザンテリトリー」と書かれた看板が現れた。州境を越えると砂は一気になくなった。
久しぶりの大きな町、アリススプリングスでしばらく体を休ませる。ここから次に向かうのはタナミロード。800キロ以上のダートが続くストックルートだ。道は路面が締まっていて意外と走りやすい、これなら楽勝だと調子に乗っていたら、いきなりエンジンがストップ! オーストラリア初日の悪夢が蘇る。センタースタンドを立てエンジンを確認すると、何とドレンボルトが抜け落ち、オイルがなくなっているではないか。ピストンの焼き付き、これは致命傷だ。旅は続けられるのか? それより前に何とかして町へ行かなくては。しかし町まで70キロ以上もある... 僕は砂漠のど真ん中で呆然と立ち尽くした。
タナミロードを走り始めて1日半、すれ違った車は10台位だろうか。一日待っていれば車は必ず通るはず。そう思い、道のバイクから少し離れたところへテントを張った。横になるが「バイクは直るだろうか...」「僕に旅はここで終わるのか...」不安で眠れなかった。夜が明けると再び道に出て、車が来るのを待った、どれくらい時間が過ぎただろう、遠くから車のエンジン音が聞こえてきた。「ハロー ハロー、ヘルプミー!」車に向かって大きく手を振った。
100キロ先の鉱山へ向かう4WDだった。事情を話すと、親切にも鉱山にガレージがあるので、そこまで車でバイクを運んでくれるという。ありがたい。走り出すと1時間ほどで到着した。かなり大規模な鉱山で、設備が整ったガレージがあった。メカニックはドレンボルトの穴が削れ、なくなっているのを確認すると、工具で新しい溝を掘り、新しいボルトを捻じ込んだ。さすがプロは違う。最後に車用のオイルを注ぎ込む。後はエンジンが動くことを願うだけだ。
祈るような気持ちでキックスタータを蹴る。トトト...。奇跡的にエンジンは蘇った。良かった~。特に異音もなくエンジンもふけ上がる。大丈夫だ、これでまた旅が続けられる、涙が出そうなほど嬉しい。助けてくれた鉱員、メカニックに何度もお礼を言う。本当に運が良かった。ひとり旅と言いながらひとりではないもできない、いろんな人たちが助けられて僕の旅は続いている。改めてそう思った。
北部のダートロードを繋いで、東海岸のケアンズにやってきた。町でレストランを探しているとバイクに乗った日本人が声をかけてきた。話をすると旅行者でシドニーで同じシェアハウスに住んでいた西本君が同じアパートにいることがわかった。部屋に行くと久しぶりの再会。まさか再会できるとは思わなかった。西本君もバイクでオーストラリアを一周中、お互いのこれまでの出来事を夢中で語り合った。アパートには他にも日本人が2人住んでいて、おしゃべりをしているとまるで日本にいるようだった。
いろんな冒険をしてきたオーストラリア。最後の冒険として、北部最大の難関ルートと言われる本土最北端ケープヨークを目指すことにした。密林のジャングル地帯を走る片道約900キロの悪路ルートで、途中には川渡りがいくつもあるという。かなりの厳しそうな道だが、いまの僕なら行ける、そんな気がした。ケアンズからしばらくは走りやすいダートが続いた。小さなBARで休憩していると、気のいいオーストラリア人旅行者と仲良くなった。ビールを飲めというが僕は下戸なので断った。ジュースで割った酒なら飲めるんじゃないか?と言われ飲んでみたが、やっぱりまずい! その後、気持ちが悪くなり、しばらく動けなくなる。あ~も~、アルコールはこりごりだ。
ケープヨークルート最後の給油地、アーチリバーに到着した。ここから350キロは悪路の上、スタンドもない。道は洗濯板のようなデコボコ道になり、舌を噛みそうになる。しばらく進むと大きな川が現れた。偵察に入ってみると水深が1m近くあった。走って渡るのは不可能。困った。浅いところを探すが、見つからない。方法を考えていると、屋根にボートを載せた4WDが現れた。そこで閃いた。ボート貸してもらえないかと声をかけると、それより車にバイクを乗せた方が早いよと笑った。3人がかりで荷台にバイクを乗せると、一気に対岸へ渡った。
その後も汗だくになって砂の道を進んで行くと、ついにコバルトブルーの海が輝くケープヨークが見えてきた。やった、ついにケープヨーク制覇だ。喜んでいると突然エンジン音がバカでかくなる。何だ? 何だ? 後ろを振り返ると、マフラーが落ちているではないか。見るとサイレンサーを止める部分のステーが振動で折れているではないか。それだけこれまでの道程が厳しかったという証。ある意味旅の勲章だ。ボルトで仮止めをすると、何とか静かに走れるようになった。
ケープヨークに一番近い町バマガへ行くと、居住者のほとんどがアボリジナルの人だった。ストアの前に座ってコーラを飲んでいると子供たちが次々集まって来た。気が付くと20人くらいに囲まれていた。こんな僻地に来るアジア人が珍しいのだろう。「名前は?」「カンフーできる?」「ブルースリーは知っている?」「日本語を描いてみせて」質問とリクエストの嵐。好奇心旺盛な子供たち。名前を聞き、漢字で書いてあげると大喜び。「次は僕!」「私にも書いて!」と大変なことになった。その姿がなんとも純粋で可愛らしかった。その笑顔は、オーストラリア最後の冒険がくれた、最高のご褒美だった。
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