BBB MAGAZINE
CREDIT
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- ライター
- 執筆
藤原かんいち
-
- 撮影
藤原かんいち
20歳のとき中型二輪免許を取得。今年60歳になるのでバイクとの付き合いは40年になる。4度の日本一周、2度の世界一周など、そのほとんどの旅を小さな原付バイクで実現してきた。バイクと旅は僕の世界を広げ、間違いなく僕の人生を豊かにしてくれた。
これまでの旅が実現するまでのストーリーや思い出、実際のバイク旅での出来事、さらに40年間の世の中の変化など。僕の半生とバイク旅を年代と共に振り返りながら、『バイクと旅した40年物語』として語り綴っていきます。
念願の原付バイクによるオーストラリア一周を果たした藤原。日本へ帰国すると新たな夢へ向かって歩み出した、それは原付バイクによる世界一周だった。
第7回:再びはじまった途方もない旅
オーストラリア一周&縦断を果たし、スタート地であるシドニーに6カ月ぶりに帰って来た。ほっとした気持ちはありつつ、さらに何かにチャレンジしたいという思いがくすぶっていた僕は、自転車の旅をしようと考えた、シドニーでギアなしの小さな自転車を購入。ニュージーランドへ飛んだ。南島の首都クライストチャーチを出発、マウントクック国立公園まで350㎞の旅。何十、何百㎞走っても何もない荒野がるオーストラリアと違い、町や民家が点在するニュージーランドの旅は命の危険を感じるピリピリ感は皆無。山や氷河など自然は雄大だったが、どこか物足りなさを感じる旅となった。
帰国した僕は、それまでとは違う別人になったような気がしていた。髭面の容姿もさることながら、本気で取り組めば大抵のことはできる、全ては自分次第だということ知ったからだ。また、過酷な旅を成し遂げたことも大きな自信になっていた。一皮むけた男になったという感じだろうか?(笑)。落ち着いたところで撮影済みのポジフィルムを持ってアウトライダー編集部を訪ねた。旅の出来事を編集長に熱く語ると、興味を持ってくれ「面白い、ぜひ連載にしよう!」と話が進んだ。文章など高校の国語の授業以来書いたことがない、かなり苦手な分野だった。上手い文章を書く自信は全くなかったが、伝えたいことは山のようにあった。撮った写真もたくさんの人に見てもらいたい。自信はなかったが、最後は勢いで、引き受けることにした。自分の旅行記と写真が読んでいた雑誌に掲載される、夢がまた一つ現実になった。
オーストラリアの旅では、途中で買った世界地図を毎晩のように眺めていた。海外を旅しているからか、サハラ砂漠、アマゾン川、北極圏... 世界のいろんな土地が、身近に感じるようになっていた。行こうと行けばどこへでも行ける、そんな気持ちになっていた。そして世界地図を眺めながら僕はひとつの決意をした。「次はもっとスケールアップ、よし決めた、次は世界一周だ!」。オーストラリアへ行く前は考えらない、自分になっていた。最も行ってみたい場所は地球最大の「サハラ砂漠」。オーストラリアを遥かに超える広大な砂漠を原付バイクで走ってみたい。想像すると胸が熱くなった。
しばらくしてから小さなデザイン事務所を面接。ぼさぼさ頭に髭面、柔らかな物腰で偉ぶらない社長が経営するデザイン事務所に就職することになった。再び資金稼ぎの日々が始まった。2年間で旅資金300万円を貯めようと意気込んだ。ところで、原付バイクで世界一周した人はいるのか?気になり調べてみることにした。だが当時はインターネットもなく情報源はバイク雑誌と単行本くらい。結局、見つからなかった。もしかしたら日本人で最初かもしれない、そう思うとテンションが上がった。また、どうせやるなら誰も実現していない困難な旅に挑戦しようと思い、国産バイクの中で最も小さい、23ccのモペット、ホンダのピープルでやることにした。
ピープルは小さな2ストエンジンをママチャリに装着したモペット型のバイク。ガソリンタンクは1リットルと小さく、最高速度は時速18キロと自転車並みだった。これでできたら夢があると思い、中古車を手に入れた。軽量化のためにハンドルやシートポストやペダルをアルミに変更、ドロヨケやチェーンカバーを外した。さらにサイドバックをつけられるようにキャリアを取り付け、ロングツーリング仕様にカスタマイズした。
仕上がってきたところで、一度長距離走行をしてみようと思い、自宅のある神奈川県から長野県松本市まで、往復400kmの試験ツーリングを実施した。キャンプ用品を積んで出発。エンジン全開にしても時速15kmが限界。車やバイクは当たり前だが、女子高生の自転車に抜かれるとさすがに精神的ダメージがあった(笑)。さらに登り坂になるとあっという間にスピードダウン。止まらないようにペダルを必死に漕ぎ、非力なエンジンを人力でアシストした。登り坂が続くとエンジンはついに焼き付き、動かなくなった。まさかの事態。帰路は完全に自転車状態、ペダルを漕いで帰る羽目になった。このツーリングの経験から、ピープルで世界一周は不可能と判断した。
旅はふりだしに戻った。原付バイクで次に小さなバイクを調べると、ホンダのモンキーというモデルだった。車のトランクに納まるほど小さいレジャーバイクだが、ピープルに比べると造りは遥かにしっかりしている。さらに嬉しいことに、モンキーには共通エンジンを載せたゴリラというモデルがあった。ゴリラはタンクが9リットルと大きく、リッター50㎞で計算すると満タンで450kmも走れることがわかった。ヘッドライトの上に小さなキャリアも付いている。僕は「ゴリラならできる!」と直感した。排気量はピープルの二倍。最大出力は4倍以上。急な登り坂も何とか登れる、エンジンが焼き付くこともないだろう。ゴリラなら完璧だ。
それでも世界一周、サハラ砂漠縦断などを考えると、無謀な冒険であることに変わりはなかった。砂漠の練習走行をしようと思い湘南海岸へ出かけた。砂浜の深い砂地に入るといきなりタイヤが動かなくなった。タイヤが空回りするのかと思いきや、非力でタイヤが回らず、ピタッと止まってしまった。うそだろー! 仕方なくバイクを降り、車体を押して何とか砂地から脱出した。サハラ砂漠へ行ったら、こんなことが毎日続くのか、えらい旅になりそうだな。自分がこれからとんでもない旅を始めようとしていることを実感した。
資金の目途が見えてきたところで「ゴリラで世界一周」の企画書を作り始めた。どんな形式で作ればいいのかわからなかったが、目的・使用車・期間と走行距離・装備・工程と日程などをワープロで打ち、B5サイズにまとめた。ルートはサハラ砂漠を縦横断の後ヨーロッパを一周、その後南米へ渡って北南米大陸縦断するという内容。訪問予定国は51か国。期間は2年半、走行距離は7~8万kmを想定した。
企画書を持って、オーストラリアの旅行記でお世話になったアウトライダー編集部を訪ねた。まさかの計画内容に驚きながら、前と同じように応援してくれることを約束してくれた。今回は企業にも協力を頼んでみようと思い、アウトライダーの編集部員と一緒に本田技研工業の広報部へ出向いた。大企業の人と会うのは緊張したが、それ以上の興奮があった。担当の方は旅の計画に興味を持ってくれ、交換部品を提供してくれることになった。正直なところ資金援助も期待していたが、実績がないためそこまでは難しいようだった。協賛は他にもアライからヘルメット、石井スポーツからテントとシュラフ、山本光学からゴーグルなど提供を受けられることになった。少しずつ着実に準備は進んでいった。
実は旅の準備と並行して育んでいることがあった。オーストラリアの後、デザイン専門学校の時代にお付き合いしていた女性(現在の妻ヒロコ)と再会。交際が続いていた。付き合いをしている中で、次の夢は世界一周だという話しもしていた。普通なら彼女を日本に残して2年半も世界を旅することなど考えらないが、僕がこの旅に強い覚悟を持って取り組んでいることを知っているヒロコは、理解を示してくれていた。それでも長い期間離れるのは事実。いつか結婚と思っていたので、世界一周が終わったら結婚しようと約束した。
それでも2年半は長いので、ヒロコもバイクの免許を持っているので、旅の途中のどこか一緒に走れないかと考えた。さすがにアフリカは無理だが、ヨーロッパなら走れるかもしれない。ヨーロッパだけでも一緒に周らないか?とヒロコに提案をした。しばらく考えた末、ヒロコは行くことを決めた。これで世界一周の楽しみがひとつ増えた。
世界一周に関してはオーストラリアと同じように、父親は理解を示さなかった。父親は10代から大工一筋でやってきた人、僕の行動が理解できないのも当たり前のだと思うようになっていた。ところが原付バイク世界一周が新聞に掲載されると「実は記事が載った新聞を友人に見せて自慢していたのよ」と母親がこっそり教えてくれた。まさかの展開。だがそれを聞いて、少しだけ安心した。
出発が近づくと、アフリカ用の予防接種がいくつも待っていた。黄熱病、肝炎、狂犬病、破傷風... こんなに予防接種あるとは知らなかった。これだけ多いと予防注射だけで病気になりそうだ(笑)。さらにアフリカの伝染病の代表、マラリヤの予防薬も買っておいた。これまでとは違う、覚悟が必要な旅であること実感する。さらにパスポート、国際登録証書、国際運転免許証、自動車カルネ、国際ナンバープレートとJマーク、海外旅行保険などなど、必要なものをひとつずつ揃えて行く。そして最後、ゴリラをオーストラリアの時と同じように木箱に梱包。横浜の運送会社からイギリス・ロンドンへと送り出した。
1990年3月。約3年ぶりに成田空港にやってきた。空港内に流れる英語のアナウンスが懐かしい。再び始まる長い旅。緊張感が一気に高まる。今回の旅は国境をいくつも越えて、何か国も渡り歩く世界一周の旅。その中にはサハラ砂漠、北極圏やアマゾンもある。そこを小さな原付バイクで走るのだ、正直なところ、下手したら死ぬかもしれない。こんな大変なこと、あえてやらなくていいじゃないかと思うこともあった。だがもう一人の自分が、大変なことは承知の上、だからこそ夢があるんじゃないか。いまやらなかった一生後悔するぞと囁く。どちらも本当の自分だった。ヒロコの顔を見ていると涙がこぼれてきた。心配をかけて申し訳ない。とにかく遠くから僕の旅を見守っていて欲しい。「行ってくる」溢れる涙をぬぐい、笑顔を作った。ヒロコの手を強く握り返し、僕は出国ゲートへと向かった。
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