BBB MAGAZINE

  • 大人のたしなみとしてベスパに接してみよう!

    2014.12.26 / Vol.07

    ヒストリックモデル #02(PX125T5)

CREDIT

    • ライター
    • 執筆

    隅本辰哉

    • 撮影

    隅本辰哉

    • バイク

    Vespa

Vespa PX125T5

さてさてお待たせしました〜。ベスパを題材にした記事を同時展開させていこうという「大人のたしなみとしてベスパに接してみよう!」ですけど、今回は久しぶりのヒストリックモデル編となります!しかも年始ということでボリュームアップ増刊号としてお届けしちゃいます!!そしてそろそろ別企画もあれこれ始動させていきたいなと企んでいたりましますので、そういった意味でもますます目が離せなくなっちゃう予定ですからね。そーれーでー、どんなヒストリックモデルにスポットを当てるのかというと......角目です!
「え? 角目はもうやっただろ」なんていうのはちょっぴり早トチリってもんです。前回の角目モデル・180SSとはまた雰囲気の違う角目モデルとして、今回はPX125 T5に注目してみますからね!!

イタリアンを熱狂させた官能ユニット

Vespa PX125T5
エンジンだけがスペシャル仕様だったワケではなく、ボディまわりにも随所に専用パーツが使われていたり、PX125 T5用に独自設計が施されたボディワークだったりするのもスペシャリティ感満載ですね

1978年、まったく新しいベスパのカタチとして角張ったボディラインが採用されたP/PXシリーズがデビューしました。長らく"まーるい"印象だったベスパもモデルチェンジの度に少しずつ"角のあるデザイン"へと変化していましたが、ニューライン・ベスパと呼ばれたP/PXシリーズでは大胆なまでに角々っとしたルックスに様変わりを果たし、人々を驚かせたものです。
このラージボディと呼ばれる大柄ボディには200cc/150cc/125ccという3種のパワーユニットが用意されていましたが、1985年になると125cc版にだけ特別仕立てのスポーツバージョンが登場しちゃうんです。それこそがPX125 T5であり、通常モデルが搭載するエンジンとは完全に別物の新設計エンジンを採用していた点にファンは注目しました。ルックスも通常モデルと一線を画していて、80年代当時に流行したエッセンスを随所に盛り込んだシャープなデザインを採用していたんです。
しかもシリーズに存在するその他の排気量モデルには、こういったスポーツバージョンモデルの設定がなかったことも興味深いところです。あくまで推測ですけど、ピアッジオは「125ccだからこそ回し切ることが可能で、おいしいところを使いこなせる楽しさ」というものを提供しようとしたんじゃないでしょうか。
結果として、乗ればすぐに熱くなってしまう陽気なイタリアンたちを釘付けにしてしまい、官能的ですらあるスペシャルなパワーユニットがファンたちを熱狂させていったというところでしょう。

お宝-紙資料モノ

PX125 T5の写っているポストカードなど
オーナーズマニュアル等

ベスパに関する紙資料モノは本当に豊富です。そういうモノを集めることはカタチとして残せるだけではなく、資料としても有効だったりするため、やはり愛車に関するモノなら集めたくなってしまうオーナーさんも多いことでしょう。もちろん趣味の範疇として、車両は所有していなくてもモノ集めだけやっているという人も少なくないようです。たとえば世界中で目にする機会の多いポストカードには、それだけを収集している人もけっこういたりするみたいですね。以下はそういった紙資料などに関する紹介です。
PX125 T5の写っているポストカードとベスパクラブ・イギリスの会報。深緑のキーホルダーはリサイクルショップ、黄緑の走るおもちゃは駄菓子屋でそれぞれGET。右上はキーホルダーやネックレスとして使えちゃうオーナメント/イタリア・ピアッジオ社の生産するPX125 T5ですが、ほかに類似したルックスのモデルが存在するんです。かつてジャパンベスパの扱った台湾Vespa PX150E、そしてレッドバロンが扱ったLML-Vespa T5がそうで、後半にはこれらのインプレもありますよ〜

サービス・ステーション・マニュアル
PX125 T5のカタログ
使用説明書

左からオーナーズ・ワークショップ・マニュアルとチューニング・マニュアル。ともに社外品ながら内容の充実っぷりで、とくにオーナーズ・ワークショップ・マニュアルのほうは定番化してますね。それと純正のサービス・ステーション・マニュアルはセルフメンテ派なら必携でしょう/サブネームに「POLE POSITION」を関したPX125 T5だけに、カタログの表紙はレーシーなイメージとされていました/正規輸入車には純正パーツリスト、正規輸入元だった成川商会の用意した使用説明書が付属していました

全開域まで楽しめる

ここからはPX125 T5がどんなモデルなのかを掘り下げていくことにしますが、冒頭でも触れているようにP/PXシリーズのなかに突如出現したスポーツバージョンだったりします。 やはり前出ですけど、P/PXシリーズには3種のパワーユニット搭載モデルがラインナップされています。そして3種それぞれにキャラクター性を感じることができるので、どれが優れているというような差を見いだせないところも特徴だと言えそうです。
よく言われるのが150ccのバランスの良さ。パワーもあるし、回るので、2stらしさを堪能できてオールマイティに使えるところがポイントでしょう。 200ccは加速性能の向上やぶっ太いトルクの押し出し感など、やはり最強のユニットです。でもより振動が大きくなり、燃費も劣る分、少々乗り手を選ぶところもあったりします。 これが125ccとなると、数値的なパワーの劣る部分を回転数で補う必要があり、そこがまた2st特有のフィーリングを楽しめる要因だったりします。もちろん普段使いだったら、普通に回してやるだけで十分に走れるので、ちょっとだけスポーツライクな走りを楽しもうというときに限った話ですけどね。
まあ、こういったキャラクター性の通常モデルなんですけど、登場から7年目にしてPX125 T5というスポーツバージョンを設定するワケです。ベスパってじつはけっこう熟成と進化の歴史の上に成り立ったモデル変遷を重ねてきているので、P/PXシリーズともなると通常モデルであっても十分な性能を備えていたりします。そこへあえて登場させたPX125 T5ってことで、ピアッジオ側の「どうせ出すならやり切ってやろうじゃないか!」的なスタンスが見え隠れしちゃうところにグッときちゃうんですよ。
まずPX125 T5の"T5(ティーファイブ/5 transfer portsの意)"とは、吸気側を5ポートとしたことで命名されたもの。通常モデルだと3ポートが標準だったので、燃焼室内により多くの混合気を送り込むための手段として採用されたことになります。これは当時のパワーUPのための有効な手段の一つとされていたんですよ。つまりT5はスポーツバージョンに相応しくなるよう、ハイパワー化のための手が加えられていたんですね。
そして5ポートシリンダーに合わせたマフラーやシリンダーヘッドとケース、さらにエンジン内部もクランク、ギア、ステーターコイル、フライホイールマグネットなど、ほぼすべてが新設計されていたというのにも驚きを隠せません。しかも欧州チューニングメーカーとして名高いマロッシ製ボアアップキットの製造も手がけるジラルドーニ社のアルミシリンダーを標準で採用しているところなんて間違いなくくすぐられちゃうポイント。要するにPX125 T5はハイパワー化のため、当時考えられる手段をいくつも取り入れていたってことなんです。

5カ所から混合気が送り込まれる
PX125T5のシリンダーはアルミ製

向かって右がPX125 T5のシリンダーをケース側から見たところで、左は通常モデルのもの。図示したように通常モデルでは3箇所から混合気が送り込まれるのに対して、PX125 T5のほうは5箇所に増やされ、かつポートの大きさも段違いだったことがわかるでしょう/また見た目の色の違いでお気づきの人もいるでしょうが、銀色に見えるPX125 T5のシリンダーはアルミ製で赤茶色は通常モデルの鉄シリンダー。またそれぞれの放熱フィンの大きさが違うのも、ハイパワー化への対応ポイントして興味深いものがありますね

PX125T5のプラグキャップ位置
通常モデルのプラグキャップ位置

燃焼効率を高めるためにプラグをセンターレイアウトとしているのもPX125 T5の特徴で、通常モデルではプラグキャップがシリンダーヘッドのセンターから外れていることが一目瞭然!

Gキャブと呼ばれる専用キャブレター

ベスパのキャブレターというのはリヤタイヤとともにスイングするエンジンにマウントされているため、エンジンとともに動くうえ、スイング時にサイドパネルと干渉しない形状が求められるんですよ。それでもこの条件内で完成の域にあったSIキャブを、思い切ってPX125 T5用にチューニングしてしまったものが「SI24/24G」という専用キャブレターなんです。空気流入量を増大させるためのエアクリーナーのかさ上げ、効率よく混合気を送り出すためにキャブボディ&エアクリーナー結合部の形状変更や穴の増設、キャブボディの高さを下げると同時に専用ジェット類も用意してしまう力の入れよう......などなど、とにかくスペシャル過ぎます。あえて表現するなら「徹底的に高性能であることと官能的な回転上昇感に的を絞り、低回転域を無視したとしか思えない大胆な設計によって生まれたGキャブ」といったところでしょう。

Gキャブ
ピークパワーに照準を当て、高さを抑えショートボディ化されたGキャブ(写真右/青い破線までの高さ)。想定されたトップパワーへの効果もてきめんですが、気持ち良いレスポンスが味わえちゃいます。対して200cc用ながら通常モデルに使われるSI24/24Eキャブレター(写真左/赤い破線までの高さ)と比較すれば、高さの違いは一目瞭然ですね
ファンネル効果を狙ってる?
Gキャブはエアクリーナー&キャブボディ接合部のフチに設けられたアール(写真左/青矢印)によって、整流や流速を高める目的のファンネル効果を狙っていることがうかがい知れます。比較用のSI24/24E用キャブレターですが、こちらのエアクリーナーのほうにはそのような形状処理が施されていない(写真右/赤矢印)ことがわかるでしょう
Gキャブ用エアクリーナー
Gキャブには、空気の流れに対する逃げでもあるハート形状の凹み部分に穴が増設(写真下/青矢印)されているのが確認できると思います。この穴によって高回転型スポーツモデルに必要とされる空気流量を稼いでいるワケです。比較用のSI24/24E用エアクリーナーのほうにもハート形状の凹みあるのですが、そこに穴の増設は確認できません

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