BBB MAGAZINE
CREDIT
-
- ライター
- 執筆
隅本辰哉
-
- 撮影
隅本辰哉
-
- バイク
Vespa
前回は「ヒストリックモデル編」の第2話を挟みましたけど、今回はまたまた「旧車レストア編」に戻して第6話をお届けしちゃいます。 それで今回は一体なにをするのかと言うと、前回に引き続き届いたパーツの仮合わせ。......なんですが、それだけじゃ前回と同じになってしまうので、番外的に擦れて短くなってしまっているスタンドの対処について触れていきます。けっこうスタンドの短くなっている車両を見かけるので、「自分のベスパはそうかも」ってオーナーさん要チェックですよ〜 あと、なにげに人気があるっぽいのでBENE・安川さんによるお話を今回もご用意してみました。安川さん自身のもつレストア論について語っていただきましたので、こちらも注目です。
それでは「旧車レストア編」の第6話、スタートです!
収穫(手配パーツの到着)はまだまだ続く〜
今回までのタイミングで、新たに集めることができたパーツ類がこちら。個々の説明は別の項に記してあるので、ぜひ読み進めていただきたいところ。ちなみに手配の失敗談もありますからね!
今回もまた手元に集まってきた手配パーツ類がありますので、それらを装着箇所にあてがって説明していくことにしましょう。「ヒストリックモデル編」を挟んだことで、およそ2ヶ月という時間が経過してるんですが、その割に届いたパーツが「それだけ?」と受け取るか、はたまた「◯◯◯が手に入ったんだ」というような判断なのかは人それぞれじゃないかと思うんですよ。レストア経験のない人だと恐らく前者のような印象を持たれるんじゃないでしょうか?
レストアには装着するパーツの手配が欠かせません。でもそれって、必要なモノを世界中から探し出すところから始まるんです。まあ、闇雲に探すというワケではないんですけど、それでも探す時間がかかります。探しやすいところでオークションサイトや海外のベスパ専門店、それに新旧ベスパのパーツをオリジナルからリプロまで扱っているサイトもチェックします。見つかれば手続きをして到着を待つだけですが、見つからない場合にはほかを探したり、中古パーツなら待つと見つかることもありますが、そこに予算の問題もでてくるのでいきなりすべてのオーダーを完了できるということばかりではないのです。 ただ、このパーツ類の手配って、必要なモノがトントントンとテンポよくすべてスピーディにそろうなんてことは本当に稀です。そもそも必要なモノというのは、バイク用品の大手量販店に行くとズラーっと並んでいるいるような製品とは違うんです。人によっては「正しく忠実なパーツで再現する」なんてテーマで挑んでいたりするので、そうなると中古の良品やデットストック品を探さなければ"その人の必要なモノ"とはならないワケなんですよ。だから必要なモノがそろうまで、それこそ物によっては何年もかかってしまうことにもなり兼ねません。いや、間違いなくそうなる確率が高いです。 だから毎度の話になりますけど、レストアには根気や忍耐がとても必要なんです。だからこそちょっとしたところに喜びや楽しみを見つることが長続きの秘訣になるんです。......ともかく、ここで手元に届いたパーツ類を一つ一つ見ていきましょう!
パーツ調達の失敗談
じつは今回、パーツの調達でNGがあったのでそこのところを少し掘り下げてみようと思います。まず気になるのは、どんなパーツがNGとなってしまったかでしょう。 1つ目はレッグシールドの前面に装着するベスパのブランドロゴですが、リプロ品にありがちな事例として取付穴が本来の位置とは異なっているというところです。ただこれは大きなNGとは考えていません。位置合わせのため、リプロ品orボディのどちらかを修正してしまう方法、またはオリジナルのロゴを見つけて手に入れることができれば問題はなくなってしまいますからね。 2つ目はメーターです。オーダー時には商品写真をよく確認したんですが、届いた現物には盤面にあるはずの「VEGLIA」のロゴが見当たりません。正直言って手痛いですが、正しいものを再手配していくことになります。 そして3つ目がゴム製スタンドブーツです。リプロ品なんですけど、ゴムの質感も形状も納得いくレベルではなかったので再手配することにします。 以上がNGの内容なんですが、海外からパーツを調達するというのはこのようにリスクを伴います。たとえばメーターのケースだと、確かめていても届くと違ったなんてことがあるワケです。商品写真は古いものを使っているとか、製造メーカーがロゴの刻印を省略しているのにそれをアナウンスしていないとか。 それとブランドロゴやスタンドブーツのようなケースだってあるワケです。リプロ品って、どこか1つのメーカーが出しているワケではないので、材料や仕上げレベルも違うし、コピー精度も差があるので形状に違いがでてしまいます。それこそ旋盤作業のミスでサイズが異っているから、まったく使えないなんて金属パーツのケースだってあるんです。
では、そういった問題に直面したらどうするか?
残念ながら日本国内でフツウに買い物をしたときと同じようにはいきません。きっとすぐに「クレームとして交換してもらえばいいのでは?」という想像をするんじゃないかと思いますが、食い違いなどがないように交渉を済ませ、送料も先方の負担とすることができなければ結果としてマイナスとなるケースも多いんですよ。そうなると新しく手配し直すほうが、結果的に手間も費用も安く済んでしまうケースが多かったりするんです。
けっきょくのところ、届いてチェックしてみないとNGかどうかが本当にわからない。ある意味でギャンブルだと言えますし、場合によっては届くかどうかもわからないですからね。だからこそ届いたときの嬉しさとか喜びとかっていうのが大きかったりします。その上でパーツ自体が問題なくバッチリなら、それこそ興奮ものですよ。
あとNGだったとして、しかも送り返せないとなるとどうするのって思う人もいるでしょう。そういうときはあきらめてそのNGパーツをもらっておいて、いつかそのパーツが必要な人にゆずってあげたり、物々交換して有効に使ってあげればいいんです。
ついでに言うとメーターやスタンドブーツなども、2個3個と取ってみて初めて「ここのリプロ品のほうが作りが良いや」ってわかる部分もあったりするんです。そうしたクオリティに納得のいくものを発見したときの嬉しさというのは、本当に格別な思いとなります。探し当てるまでの手間とか、それと失敗したものにかかった余計なお金というのがあるだけに、探し当てたときの嬉しさというのは苦労しているからこそ大きいんです。
見方を変えると「日本でお店が入れてるパーツの価格は高い」なんて話を耳にすることがありますけど、じっさい現物を見られて輸入パーツを買えるっていうのは確実なワケで、自分で手配するときのことと比べればむしろ安いくらいだし、安心感も相当あると思うんですよ。だから多少高いと感じても、選択肢としてリスキーな個人輸入(海外オークションなども含む)でなくてもありなんじゃないでしょうか。見て買えるというのは一番確実ですからね。
それでもよりいいものを探したいとか、ちょっとでも安く済ませたいというなら自分でトライしてみればいいんですけど、リスクを伴うということは理解しておかないとダメです。絶対にやり遂げるという情熱も必要だと思います。
ざっくりですけど仕上げるためにパーツ代だけで十数万円かかるとして、さらに仕上げていく段階で塗装代とかメッキ代とかもかかります。そうすると20~30万円くらいで買ったベース車なのにそこまでかけるのはな......って、情熱がそれほどでもない人だったらどこかで線引してしまうでしょう。
それが情熱のある人なら、たぶんそこは問題にならないんですよ。車両相場が40万円だとしても、やりたいことにかかる費用が100万円だって関係ないんです。「100万円かければ40万円の車両よりも納得のいく車両が完成する」とか、「思い入れがあるから、100万円の価値がある」とか......そんな感覚でないと難しいと思います。まあ、100万円はたとえばの話ですけどね。
とにかく、どこまでやるのかというレベルの違い、それに必要なパーツ手配の選択肢など、自分なりに無理のない計画を立てて進めていくようにしてください。途中で挫折してしまうとどうにもならなくなった車体だけが残り、それをだれかに引き取ってもらえるなんてことは稀です。大抵はスクラップされてしまったりゴミとして扱われてしまいます。だって他人から見ると、単なるゴミや鉄くずでしかなくなってしまいますから。
もしもやり遂げることができたら"モノとしての寿命を全う"できる車両ということになりますけど、やり遂げることが叶わなかった場合でもスクラップやゴミにしてしまうなんて避けたいじゃないですか。そうなってしまうと車両ばかりか挫折した人のほうも決して幸せとは言えないと思うんです。ぜひ、やり遂げた上で満足や喜びを手に入れましょう!
番外ネタ
◎短くなったスタンドってどうしましょ?
センタースタンドが擦れてしまい、接地部分が斜めに削れてしまった状態(写真a)の車両っていうのがけっこうあるんです。削れてしまっているから当然本来の長さに足りてないワケで、短くなったセンタースタンドだと本来は浮いているフロントタイヤが接地した状態(写真b)だったりします。まあ、接地してしまう理由は削れたセンタースタンドだけではないんですけどね。フレームの歪み、センタースタンドの曲がりなどもあるので、フロントタイヤが設置しているからセンタースタンドが削れているという判断をするのではなく、目視でスタンドブーツを突き破っていないかチェックするようにしましょう。 さて、ではじっさいにスタンドが削れてしまっている場合ってどうしたらいいのかが気になりますよね。対処法は二通りで、スタンドそのものを交換してしまうor継ぎ足して直す方法とがあります。もしも軽傷なら、しっかりしたスタンドブーツを履かせてやれば少しばかり高さは出せます。でもスタンドの先端が鋭角に削れてしまっている場合には、すぐに突き抜けちゃうだけなので、そうなると前述した二通りの方法で対処しないとダメなんです。 一応レストアを前提として対処するワケなので、交換するなら(調達できるかはともかく)オリジナルの新品、リプロ品、中古品などが選択肢になると思います。 継ぎ足しの場合は同じパイプ径のスタンドを用意して(写真c)、必要な分だけ切り出したものを溶接して延長することになります。今回のVNB2では先行きの予定で継ぎ足しをしようと思っていますが、5~10mm程度の延長で十分でしょう。
Special Interview◎日本とイタリアのレストア
ハンドチェンジ系ベスパの頼れるショップBENE。そんなBENE・安川さんのVNB2取材時に、ふくらんで脱線した話が興味深かったのでちょっとまとめてみました。それでは安川節、どうぞ〜!
VNB2も含めて、この辺りの車両っていうのはやってて思うんだけど、単にバーハンドル(初期のころのモデルを表す通称で、バーハンドルの代表格は映画「ローマの休日」の劇中車)の上にカバーかぶせただけみたいなんやね。なんで、コレがあまりきっちりと合わない。
精度が悪いって言うか、イタリアらしいやっつけ的な感じいうのかな。まあ実際のとこは、当時の金型のレベルなんでしょうけどね。
ではその上カバーをどうするんですか?
なんもせえへん。削ったりとかすると、もうそれはベスパやあらへん。たとえばヘリが微妙に合わへんとか、それでも自分の性格的なもんかわからへんけど板金とか加工修正みたいなことはしない。
あくまで個人的な見解やけどな。レストアしていて思うのがイタリア人のレストアって、それほどカッチリ作ってないんよな。イタリアのレストアっていうのはね。
レストアのレベルですか?
生産レベルもそうやと思うねんけど、カッチリとしてない。これもあくまで個人的な見解とか印象ですよ。そもそもイタリアのレストアが上手いとか下手とかって議論はやめにしてね、ベスパって鉄やから板金してキッチリ仕上げることもできますやん。でもね......あいつらのレストアはちょっと違う。
日本人っていうのは細かなところにこだわりますやん? あいつらはそういう風には見ない。バッチリいけてるかを遠目で全体的に見る。だから細かく見ると「ちょっと甘いよね」ってなる。これが日本だとヘリのほうまで見て「ここチリ合ってるよね」って見ますやん。そういうの絶対にない、あいつら。
ざっくりなんだけど、全体の雰囲気で仕上がりを確認する?
そう。日本的な見方と違って「全体的に甘いから、そこもうちょっといけ」いうのがないねん。これおもろいなと思うて。たとえばクルマならドアのヘリの微妙な線を合わすとこなんてがんばりどころやないですか。それこそ一生懸命がんばりはるやん。でも、あいつらはせえへん。つねに全体から見てどうなのかとか、この角度から見て......とか。
ただクルマなんかを見ていて思うんのが......アルファとかザガートとかでもそうやと思うてるんですけど、流れを見て「もうちょっと......ここかな」とか、「やっぱ塗装甘いわな......、この色のほうがいいんちゃう」っていうような議論はするんですけど、ヘリを見て「ここちゃんと吹けよ」いうのはない。あんまりない。 たとえばビットリオさん(ランブレッタの著名なコレクター&レストアラー)とか、ジョルジョノターリさん(ベスパの著名なコレクター&レストアラー)とかの手がけたのを見ると確かに上手い。で、なにが上手いかと思ったら、ヘリは甘いのに下地の赤の出し方なんかが上手い。 それとボックスとかの閉めてあったら中なんてわからないところやな。日本人なら開けたところで全部吹くけど、ホンマ見えるとこしか吹かん。それが手を抜いてるのんか、当時のままなんかいう議論になるやん。イタリア人って大雑把やから、ヘリのクリアをワザと吹けへんとかな。 あと、プレスのしぼりをワザと出したまんまとかな。どうしてもシワのよってるとこいうのがたまにありますやん。それを日本だとパテで埋めて消しますやん。......しない。あいつらはせえへん。 それだから雰囲気がええやん。イタリアのクラシックカーの仕上がりって、なんかたたずまいいうのがありますやん。遠目に全体を見たときの「なんかいいよね」いうのがありますやん。 それが日本人だと「いいよね」じゃなく、「キレイよね、この仕上げ」とか言いますやん。だからたたずまい出すイコール"てきとう"いうことやないんかと。あれはおもろいね。
なんだかわかるような気がします。でも、みんながみんなそういう仕事ってことじゃないですよね?
もちろん。イタリア人にだって細かな作業をするやつもおるし、仕上がりをヘリのレベルで追求するやつだっておるよね。日本でもたたずまい重視の仕事をする人だって当然おるし。だからあくまで個人的見解として、そんな傾向いうことです。 で、そう思うたときにVNB2なんかのハンドル上カバーをきっちりいくと......なんやろな、あ、あれやん、お洒落さんがきっちりしすぎてお洒落じゃないってときあるやん。手袋からネックレスとかまでキメてしまっていると、意外とお洒落じゃないと思うときありますやん。どっかヌキのポイントいうのがありますやん。 最初のハンドル上カバーの話に戻すと、事故ってもないから板金とかしないほうが良いっていう持論。かっちり仕上げてしまうんやなくて、製品そのものの歪みなんかがある意味でヌキのポイントなんやないですかね?
安川さんとしては「イタリア式のたたずまい重視」という感じなんですね?
そうやね。ただ、ここは日本なんで日本的なクオリティの水準はキープせなとは思うてますよ。あからさまなたたずまい重視では、一歩間違うたら手を抜いてる言われる。 でもね、イタリアはみんな"てきとう"やん。あ、個人的に思うてるだけですよ。でもみんな愛してやまないあのデザイン。どこか抜けてるから愛すべき人たちいうのってありますやん。 ちょっと抜けてるほうが愛せますやん、人間って。それじゃないかなと思うときあるん、仕上げさんざん見たけど。そういうのがイタリア的と言うかね。 なので一歩下がって見たときの雰囲気っていうのは、日本車の完璧な仕上げでは出ないんじゃないかな。なんか......そう思うけどな。ただ日本人は上手いねんけどな、そういうきっちりと仕上げる技術はね。
では、たたずまいを重視しつつ細かいところまで気を使って仕上げるとか?
そう。そんな風なんを心がけてますね。でも、やっぱりたたずまいは重要だって思う部分もありますよ。いちいち乗ってる最中に隅々まで見ながら走らせて「良いよね」なんて、そんなヤツおりますか? だいたいは通り過ぎるときに「カッコ良いよね」って、おおまかなラインとか印象で言っとるだけやないですか。やっぱり走るもんやから、通り過ぎるときにざっくりとした姿しか見えへんやんな。
というワケで安川さんのレストア論にまで話が広がってしまった取材でしたが、レストアの話題だけをクローズアップしてみましたがいかがでしたか? あくまで安川さんの受けた印象として、イタリアと日本のこだわりどころの違いなんかがお聞きできたのはとてもおもしろかったんじゃないかと思います。どちらがダメということではなくて、でも「ああ、なるほど」って思えるところには共感することができました。 ぜひまた別のテーマでお話をうかがってみたいと思いましたし、可能ならほかのプロショップさんでもお話をうかがえたらなと感じました。 なお、あくまで一例としてですが、イタリアでレストアされて現在は日本国内にあるベスパ150/VB1というモデルを検証材料として用意してみました。ただしイタリアのレストアがすべてこの検証材料と同様の仕上げ水準であるということではないので、そこのところはご注意くださいね。
新旧ハンドチェンジ車が中心。最近ではLML(インド製のレトロスタイルスクーター製造メーカー)に力を入れているが、古いベスパ&ランブレッタまで頼れる数少ないショップのひとつ
【店舗情報】
住所◎大阪市城東区中央1-4-22
TEL◎06-6930-8739
営業◎11:00~19:00
定休◎水曜日
web◎http://www.bene-jp.com/
今回はここまで~
今回もなんだか「大変だよー」、「根気いるよー」などと、マイナス方向の話になってしまった感がありますけど、ホントにやり遂げられるだけの心構えと計画でレストアに挑んでもらいたいんです。そうでなければ"楽しみ"を伴った大人のたしなみとはならないですからね!
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