BBB MAGAZINE
CREDIT
-
- ライター
- 執筆
隅本辰哉
-
- 撮影
隅本辰哉
-
- バイク
Vespa
3/27〜29には東京モーターサイクルショーが開催され、BBBブースには当企画でレストア進行中のVespa125/VNB2も展示させていただいたワケですが、みなさんご覧いただけましたかー!?
さて今回の「旧車レストア編・第8話」は、これまで以上にいろいろな面が厳しくなっていくステージへ突入していくにあたってのヒントや心構え的な内容でお届けします。
一言で言ってしまうと「どうこだわるか、どこまでこだわるか」なので、そこのところを掘り下げていきましょう!
この先の苦労
いきなりなタイトルだなぁって思われてしまいそうですが、ここから先は各々が狙うレストアレベルによる差こそあれ、一筋縄ではいかないステージへと突入していきます。ここまでは"必要なパーツ類を探して手に入れる"というショッピング中心だったので、予算的な制約はあったにせよそれなりに楽しめるプロセスだったワケです。でもここからは手間も時間もかけて自ら作業するか、専門業者などに依頼することで発生する作業工賃などを工面する必要があります。もちろん必要に応じたパーツ類の手配も続けていく可能性も大だったりしますしね。だからこそ今一度しっかり目指すべきレストアレベルを見定めておきましょう。
そうは言っても"目指すべきレストアレベルを見定める"というのはなかなか大変なことだったりするので、まずはここまでに届いた部品と理想を描く部分とで方向性を決めていくのがいいと思います。たとえば「あまりにも理想と違うのでリプロはやめよう。時間がかかってもいいからオリジナル部品の新品なり中古を探して、極力オリジナルで組み上げよう」とか、「いや、これいじょうお金とか手間をかけるのは無理。なのでリプロでいこう」だったりです。さらにリプロもそのままでいくか、ひと手間かけてオリジナルの雰囲気に似せて加工したりするといった選択もできます。
用意できたパーツを付ければいいって考えもあるんですけど、そういうところにこだわっていくと雰囲気が変わるハズなんですよ。なるべく自分自身に納得のいくものを作りたいのか、まあそこまでいかなくてもとりあえずカタチにしてしまいたいのか......その辺をちょっと考えてみてください。この辺のことってなかなか差がわからないものだったりしますけど、レストアしている人なら"そのまま付けた状況と手間をかけてから付けた状況ではぜんぜん違う"というのが感覚的にわかると思うんです。
いずれ塗装もメニューに加わってくるので、装着パーツの質感やツヤ度合いも"こだわりどころ"だと言えます。塗装に関する"こだわりどころ"はこの後具体的にお見せしますので、ここでは装着パーツのほうにちょっぴり触れておくことにします。 要はゴム質とかメッキの雰囲気を、塗装の仕上がり具合と合わせないとちぐはぐになってしまうということなんです。色味は正確に再現したとして、でも今どきの塗装のようにクリアの上から磨き込んだツヤあり仕様にするんだったらパーツはビカビカのツヤ&光沢ありのほうがマッチングしますよね。それが当時のヤレ感までも再現した塗装に仕上げているとしたら、装着パーツもそれなりにやれていないとおかしいワケです。中古パーツならまだしも、リプロ品でそろえたとしたら、なんらかの処理をしないと結果的にちぐはぐな雰囲気の仕上がりになってしまうということになってしまいます。だから全体的なトーンを合わせるため、メッキや光沢のあるパーツは表面処理によってくすませたりします。どこかがくすんでいるのに、別のどこかはくすんでいない状態では違和感があるんです。クラシック感にこだわるなら、そういう質感とくすみみたいな部分は欲しいところなんじゃないでしょうか。
こだわり方と考え方
当企画の協力者であるムゼオ(Museo Vespa Giappone)では、VNB2をビカビカ仕上げではなく自然な雰囲気を目指したレストアで考えているとのこと。これだとビカビカを目指す人からは少し仕上がりレベルを落としていると思われるかもしれませんが、じつは非常に高度なワザを必要とする高難度なレストアだったりします。 塗装も磨かず、塗肌を残したままにしたいと考えているそうで、こういう塗装は業者から嫌がられます。吹いてるところとミストが飛んだところの塗肌が違ってきちゃうので、ポリッシュしてならしちゃうほうが均一な仕上げにしやすいんです。だけどムゼオとしてはポリッシュしないで、塗肌が波打ってるような感じにしたいんだそうです。 でもこういう話は決して優劣の話ではありません。自分のやりたいレストアの方向性やレベルがどこなのかという話なんです。ただ多くの人は届いた部品によって方向性が決まってしまうことになるでしょう。届いたメッキパーツがビカビカだったら、買い直すのも難しいということでビカビカ仕様でいこうと決めたりするということです。それはムゼオでも同じだそうです。届いた部品である程度の落としどころを見極めるという意味で。 でもそうなると、届いた部品がビカビカとくすんでいるものが半々だったりするとやっかいですよね。そんなときはビカビカをちょっとくすませて、くすんでいるのを少し磨いてあげるようにして、上手く間を取っていくようにするそうです。もちろん塗装も中間のいいところを狙ってトーンを合わせるようにしていくワケです。こんな風にしてこだわり、そのこだわり度合いについて考えるのも楽しみの一つであったり大きな苦労でもあると言えそうです。
塗装についてのこだわり
ここからは宣言どおり具体例もお見せしつつ、塗装に関する"こだわりどころ"についてお話していくことにしましょう。 まずここで言う塗装についての考え方ですが、レストアというくくりの中にある塗装という項目の話であって、勘違いしてほしくないのはカスタムペイントをやろうという話ではないってところです。あくまで再現というのが大前提なので「60年代の車両を再現するときに塗肌がどうだったのか?」とか、「ツヤはどこまであるのか?」といったことが重要なポイントになります。それでそういうことっていうのは、現車を見て判断しないとそこまでの再現をすることができないってことなんです。
特別なオーダーをしなければ今どきのツヤツヤ仕上げで塗装されてしまうでしょうから、色味を合わせてあっても質感まで再現することはほぼ無理だと思ってください。だけど塗肌なんて関係なく、磨き上げてしまうのもありといえばありです。レストアはどこまでこだわるか、それを決めるのは当人の自由ですからね。必ずしもこうでなければいけないというものではありません。数々ある選択肢から"自分のやれるもの"という判断だったり、"求めるもの"をしっかりと選択してもらいたいということなんです。 塗装屋に出したら「色は思ったとおりに再現できているのに、なんだか仕上がりに満足できない。どこか違う」というような悩みを抱えたとき、塗り方や塗肌だと気づければいいんですけど、そこから再塗装となると費用もかさむので勉強するしかないということになってしまうんです。知らないのが一番不幸ですからね。
知らなければできないこと
さて、それではもう少し具体的に掘り下げていきましょうか。レストアとは仕上げのレベルを決めることから始まります。ある意味でレストアの最上級を意味するのが完全再現なんですが、そこを目指すとしたら当時の状況や状態までしっておかないと再現しきれないことがあるんですよ。 参考例として用意した画像で確認できるように、見えない部分に関して実際には塗られていないということを知らなければ当時の完全再現は不可能です。今どきの感覚で"部品はすべて塗る"ということになると、再現できないところが目立ってしまうワケです。だからこそレストアのレベルで「なにをどこまでやろうとするのか決めて、それに必要なことがなんなのか」をちゃんと理解しておく必要があるんです
その参考例ですが、1つ目は「下地の色を知る(Photo a)」です。続いて「色の調合(Photo b)」、そして「塗り分け(Photo c/d)」からの「塗装の質感(Photo e/f)」となります。ちなみに当時の純正塗料メーカーであるマックスメイヤー社がVNB2用として用意したカラーは、「色名:Grigio Celeste Chiaro/色番号:1.298.8840」だったので、もともとの純正色再現まではそれほど難しくないと言えます。
しかしヤレ感まで含めた色再現となるとグンとハードルが上がってしまいますし、まして塗り分けまで再現するとなるとサンプルなくしては不可能でしょう。塗るときはすべて同色で塗るというのが今どきの感覚なので、お任せしてしまうと下地はあくまで下地としてその上から全部塗られてしまいます。でも当時を再現しようとするのであれば「見えない部分が下塗りのままで、見えるところだけ上塗りをする」ということを知る必要があります。塗り分けの境目もわかっていないと再現できません。そういうこだわりもレストアの1つの方法でもあり、楽しみの1つでもあります。すべて同色で塗ることが間違いではないけれど、当時の再現をしたいならこういったものを見ながら塗り分けも再現していくことが重要です。
Photo e/f)塗装の表面作りのこだわりによって当時の自然な雰囲気を再現する。重要なのは塗肌の雰囲気とツヤ。蛍光灯の写り込んだ部分に見られる"なみなみ"とした塗装表面(=塗肌)など、年式やモデルで異なる仕上がり具合にまでこだわりを持って挑みたい
Photo a)中割れタイプのハンドルのシフト側(VNB2と同タイプ)と同年代モデルのサイドパネル内側。これが60年代の正しい下地色。なので今どきのサフェーサーを塗った上に、このキャラメルのような色を調色。それを塗ることで再現
Photo b)上塗りはマックスメイヤー社の色番号やカラーサンプルからの調色、当時の新品部品から調色する方法がある。可能ならすべて見比べた調色がベスト。色番号やカラーサンプルからでは雰囲気を再現するのが難しいからだ
Photo c)タンク自体は50年代のガソリンタンクで、この当時の下地色はちょっと赤レンガっぽい色だった。そして上面部分からの切り返しで塗り分けされている点がポイントだ/Photo d)シート下キャブポケット内の塗り分けはサンプルなくして再現するのが不可能だ
あなたはいくつこだわりますか?
さらに塗装の質感もこだわれるポイントの1つになります。塗料選び、塗り方、仕上げ方など、どれだけこだわるか......それがレストアの醍醐味だと言っても過言ではないでしょう。手をつける人それぞれにこだわりポイントがあって当然ですし、そのこだわるポイントがいくつあるのかというところもおもしろみなんだと思います。
でもこだわるには知らないとこだわれませんよね。だからすべてとはいかないけれど、今回はそういったこだわりポイントに必要な情報をいくつかを紹介してみたというワケです。そうしたこだわれるポイントの1つ目が下地の色なんですが、見た目を真似るだけじゃつまらないので行程も真似してみるのはどうでしょう。 そうなると下地は何色なのか、色が全部に入ってないけどどうやるとこうなるのか......そんなところから考えて真似をする。でもそれだけではわからないし、確かめる意味でも現車を見てみる必要があるでしょう。そうやって真似をすることからいいものができてくるんじゃないかと思うんです。だけどけっきょくはどう塗ってるかなんてわかりません。当時の工場のラインを見たわけじゃないですから。
それでも現物を見て、塗られ方を見て、こういう塗り方をしたらこうなるんじゃないのかなっていうのを想像しながら塗ったり、それを塗装屋にお願いしたりして、そこのところを楽しむというのが大事。リアルなものを作り上げる楽しみと、どういう風に作ってるんだろうっていうのを考えながらやる楽しみ。せっかくですから、つねに楽しみながらやっていくようにしましょうよ。
もっと言うと、楽しむ要素を自分で探していく積極性こそが大事なんだということです。見れるもの、聞けるものという一方通行的な情報だけでやるのでなく、自分でも「どうなってるんだろう? どうすればいいんだろう?」と考えながらやってみることで"確認できたという情報"や"新たな発見があったという情報"のアップデートができるワケですよ。
つまり自分もちゃんとやって情報&経験として見聞きしたものと照らし合わせていく。こういったことを大半の人が面倒だと嫌がったりしがちだし、まったく経験のない人からしたらどこから取っ付いていいのかわからないことでもあります。なのでわからないまま、とりあえずインターネットで検索して出てきたデータや手元にある資料などのデータからやることが大半だと思うんです。それを一歩でも二歩でも、可能な限り自分からの探究心で調べていけば、見聞きした情報が正しかったとか間違っていたとか、おのずと道は開けてくるものです。とにかく調べるクセをつければだんだんわかってくるようになるものなんです。そうするとおもしろいですよ。調べれば調べるほど新たな発見がありますからね。
色再現で見るべき場所
色再現に重要なことは、一番いい状態の現物を見るということ。それが見れる場所というのは紫外線が当たらず、雨風も当たらず、そのうえ摩擦が起きない部分。けっきょく室内保管でキレイにされている車両でも、紫外線や雨風は防げてもキレイに維持したいという欲求からか磨かれてしまうケースが目立ちます。洗車してワックスがけをまめにやることが、結果的に塗肌のなみなみ感を消していってしまうんです。なので塗肌だったり質感などのデータとして最も適しているのがテールランプを外した部分など、ある程度の面積を持つものが密着していた場所だったりするんです。
その最右翼とも言えるのがテールランプ装着箇所なんですよね。サンプルケースとして撮影した車両はリヤキャリヤが付いていたので少々見難い感じがしますけど、テールランプを外した部分と、その周辺で紫外線などを受けていた部分では明らかに色やツヤ感に差がある(Photo g)とわかるでしょう。汚れも目立つのでコンパウンドで軽く磨いてみた結果(Photo h)、さらにクッキリと色の違いが見て取れます(Photo i)。汚れがある部分を一皮分だけ磨くことで、当時に近い色と塗装の表面を確認できるワケです。
はい、ここで気をつけたいのが"磨く=塗肌をやっつけてしまう"ということなんです。だから元々の色確認のために一皮分だけ磨くというのは、厳密には汚れを落とす程度にとどめておく必要があるんです。それと先に触れているとおり、ワックスがけがNGとなります。その理由はワックスに研磨剤(コンパウンドなど)が含まれているからなんです。そのためわかっている人は研磨剤の含まれていないワックスを探し、塗肌へのダメージを最小限に抑える努力をしているんです。
だから求めるところ......どのレベルでレストアをやるのか、仕上げるのかと、決めたそのレベルに対して本当に必要なことはなんなのか、やっちゃいけないことはなんなのか......といったことなどをわかっていないと取り返しの付かない事態となってしまうこともあり得るワケです。
以上、今回はここまで!
......なんですが、最後にちょっぴりオマケです。東京モーターサイクルショーへの展示についての超カンタンながら"写真で見るインサイド・レポート"をお届けしつつ、「旧車レストア編・第8話」を終えたいと思います。
また次回もチェックお願いしますね!!
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