BBB MAGAZINE

  • 大人のたしなみとしてベスパに接してみよう!

    2015.05.15 / Vol.11

    ヒストリックモデル #03

CREDIT

    • ライター
    • 執筆

    隅本辰哉

    • 撮影

    隅本辰哉

    • バイク

    Vespa

前回までは旧車レストア編を3回続けましたけど、今回はちょっぴりご無沙汰だったヒストリックモデル編ですよ〜! それで一体どんなモデルをクローズアップするのかと言えば、通称でフェンダーライトと呼ばれる125というモデル。 ベスパというキーワードからきっと多くの人が連想する「ローマの休日」にも劇中車として起用され、オードリー・ヘップバーン演じるアン王女の乗ったあのベスパに注目です。
では、さっそくいってみよう!!

Vespa125(V30)
Vespa125(V30)
1950年モデルをベースに仕立てた
ローマの休日レプリカ仕様

「ローマの休日」に起用されたフェンダーライト

Vespa125(V30)
フロントフェンダー上に設置されたヘッドライトがフェンダーライトの由来。このスタイルにあこがれるファンも多く、現代的なデザインで仕立てられたオートマのフェンダーライトモデルも存在する
「ローマの休日」Vespa125
オードリー・ヘップバーンをスターダムにのし上げた作品こそが「ローマの休日」だと言っても過言ではないだろう。Vespa125は劇中車として作品に華を添え、一躍世界中にその名を轟かせた

ベスパを世界中に広めた立役者と言えば映画「ローマの休日」であり、主役のアン王女を演じたオードリー・ヘップバーン人気にあやかった感は否めませんよね。ただし主役の2人(オードリー・ヘプバーンとグレゴリー・ペック)以上に存在感を放っていたように思えてならないのが、劇中車として大活躍したVespa125というモデルなんですよ。
この125というモデルは排気量を示していて、見た目の大きな特徴はフロントフェンダー上にちょこんと乗せられたヘッドライトでしょう。この特徴を指して日本ではフェンダーライトといった愛称が定着するほど親しまれていますし、ベスパを想像する際、きっと多くの人がどことなく懐かしく愛らしいこのルックスを思い浮かべるのではないでしょうか。
というワケで今回は劇中に登場した車両のレプリカを所有するVespa Club Japan事務局長の山辺さん、そしてレプリカ車両そのものを管理しているMuseo Vespa Giappone(以下ムゼオ)による協力で、劇中車レプリカ仕様として製作されたVespa125を紹介していきましょう。
まずは「ローマの休日」の劇中車に関する基本情報を学んでおくことにしましょう。じつは当時の映画記事にも載っていたことですが、劇中車として用意されていた車両は全部で3台ありました。そのうち1台はピアッジオから提供された新車(劇中トレーラー撮影のみ)で、残り2台はスタント用として提供したとベスパクラブローマがアナウンスしています。しかし1台はクランクイン前に監督が乗って大破させてしまい(スチール撮影ではこの車両が写っています)、監督自身も骨折の大ケガを負ってしまいました。なので撮影の大半は残る2台でまかなわれたようです。
続いてフェンダーライトと呼ばれるモデルのこともざっくり学んでおきましょう。フェンダーライトとは単なる日本での愛称であって、世界的に正式なモデル名ではありません。見た目の特徴となる"フェンダー上に設置されたヘッドライト"を指してつけられた愛称なので、1946年から1957年までの期間に作られ、この特徴を備えたモデルすべてに当てはまるワケです。

◎「ローマの休日」コレクション◎

スクーターイタリアーノ東京杉並としてベスパやピアッジオに力を入れているコネクティングロッド。その支配人を務める平井さんは、ベスパといえばローマの休日という流れで映画にも興味を持ち、持ち前のコレクション魂が刺激され、気がつけば劇中で起用された小物から劇中車と同年代の展示車までそろえてしまう入れ込みよう。しかもコレクションは関連グッズや映画のパンフレット&ポスター、果ては当時の映画雑誌などにもおよんでいるのだから恐れ入る。
「ローマの休日」コレクション自体は常時公開されているので、興味のある人は一度お店を訪ねてみてはいかがだろう?

ショールームV31、GT60
ショールームの一角にはV31、60周年記念のオートマ・フェンダーライトであるGT60なども
ショーケース内コレクション
ショーケースにはカメラや記念品、パフレットや映画雑誌など、貴重なコレクションがズラリ
ローマの休日パンフレット
右は公開当時のパンフレット、左がプレスシート。どちらもコレクションとして展示されている
ローマの休日パネルコレクション
作品スチールと上映フィルムから切りだされたコマを記念パネルにしたフィルムコレクション
コネクティングロッド/スクーターイタリアーノ東京杉並
コネクティングロッド/スクーターイタリアーノ東京杉並

2014年のベスパ販売台数で全国1位という実力。とくにオートマ中心の新時代ベスパにめっぽう強く、購入相談からサービス対応まで幅広く頼れる心強いショップ

【店舗情報】
住所◎東京都杉並区永福4-13-4
TEL◎0120-819-117
営業◎10:30〜19:00
定休◎水曜日ほか
web◎http://www.connrod.com/

フェンダーライトの変遷

ロッドチェンジタイプのハンドルまわり
ロッドチェンジタイプのハンドルまわり。見ればわかるように、ワイヤーではなくロッドリンケージを介してシフト操作がミッションまで伝達される仕組みとなっている

ここからはもう少し踏み込んでいくことにしましょう。フェンダーライトと呼ばれるモデルも当初は98ccエンジンを搭載し、モデル名も98という正式名称が与えられていました。これは1946?1947年のモデル(V98)で、1948年からは125ccエンジンを搭載して正式名称も125となります。そして1948?1949年モデル(V1-V15)はシフトチェンジ方式がロッドチェンジ(昔の自転車のブレーキみたいにロッドリンケージで操作するタイプ)を採用していて、1950年から一般的なワイヤーチェンジに変更されています。なお1950~1952年のモデル(V30-V33)が劇中車に該当する年式とされますが、詳しくはこの後触れていくことにします。
それで125ccに排気量を高めた後もエンジンのパワーUPを行い、より実用的な走りを実現したりというように改良は続きます。シフトチェンジ方式の変更は、ロッドチェンジで遊びが出始めるとギアが入らなくなるというデリケートなものなので、対処法としてワイヤーチェンジ化されたのではないかと推測します。ある程度までは調整可能で、交換するにしてもロッドよりワイヤーのほうが費用を抑えられるというメリットも理由だったのではないでしょうか。
その後VMという型式となってエグレと呼ばれるサイドパネルの切欠き部分が廃止され、最終型となるVNという型式ではフロアレールが減らされ、スタンド・ブレーキペダル・キックアームからゴムが省略された廉価モデル的なタイプへと変化していきました。

◎劇中車仕様としてこだわった部分◎

ここではローマの休日レプリカ仕様として、とくにこだわって仕上げられた一部をお見せすることにしよう。

vespaライセンスホルダー
レッグシールド中央下部のホーン上部に取り付けられたライセンスホルダー。さすがに中の文字やデザインまで真似することはできなかったが、欠かせないアイテムだ
vespaメーター
メーターは走行シーン用劇中車だけの装備。メーター前方でクロスするアウターの長さ、クロスさせる位置も意識して製作。他の劇中車とアウターの長さが異なる
vespaシフターカバー
硬質なゴム製のシフターカバーが比較的主流となり、ガパっと開いて挟み込んでから下側をピンで固定する。しかし劇中車は筒状のゴムタイプ(写真のもの)を装着
パッセンジャー用グラブバー
劇中車にはパッセンジャー用グラブバーが差横着されていて、それが前席と後席の間にあるように確認できるので、荷台から立ち上がるタイプのグラブバーを装着
右だしマフラー
タンデムで街中を暴走するシーンをよく見ると、エンジンの右側から排気ガスが出ているのを確認することができる。そこで右だしマフラーを調達してそれを再現
ナンバーブラケット
社外アクセサリータイプのナンバーブラケットは劇中仕様の完成度を高めるために採用。なおナンバープレート同様、劇中車のものを映像から特定してチョイス&再現
vespaスペアタイヤ
走行シーン用劇中車と同位置にスペアタイヤを装着。このためのスペアタイヤホルダーは、サイドにフックが付かないタイプのキャリヤに取付けてあったことまでも再現

劇中で活躍したフェンダーライト

Vespa125(V31)
Vespa125(V31)/owner:Eiichi Yamamoto
よく劇中車は1951年式のV31だという話題を耳にする。これは先にも触れているように間違いではないのだが、断定できるような材料がなく、現状では同年代のモデルというところに止めておきたい

さて、いよいよ劇中車の話に移していきましょうか。劇中車に起用されたベスパの見た目の特徴はサイドパネルがエグれたデザインであること、ワイヤーチェンジ方式を採用していることとなります。この特徴を備えたモデルというのは、1950〜1952年のV30~V33という型式のモデルになります。ちょうど作品のクランクイン時期も1952年の夏だったというので、年式/型式についてはこの絞り込みで間違いないでしょう。しかし何年式のモデルが使われたという発表資料が存在しないため、正確な特定は難しい状況です。
あくまで推測となりますが、1952年はV33とVMの切り替え年なので途中までV33を作り、VMを作り出してからはV33の生産はなくなったという見方が妥当でしょう。そうなるとピアッジオが新車で提供したとされるモデルは1952年/V33よりも一つ前、1951年/V31ではないかと考えられます。クランクインよりも前から車両提供の話などは進められているでしょうしね。
そしてベスパクラブローマの提供した2台は走行シーンの撮影を前提にした中古モデルと想像できるので、クラブ員が所有していたモデル......しかも買ってすぐのモデルを提供するのは相当な思い切りも必要でしょうから1950年/V30だったという仮定が成り立ちはしないでしょうか。
ちなみにかなりのマニアでなければ、パッと見で1951年/V31と1950年/V30を見分けるのは難しいと思います。ただ映像をよくよく見ていくとじっさいに走行したほうの劇中車にはメーターが付いていたりします。ほかにも劇中車ならではの仕様が見受けられるので、ローマの休日レプリカモデルはそういったノーマルとの仕様違いを可能な限り反映させた作り込みとなってるところもポイントです。

◎1950年/V30の特徴的部分

レプリカとしての作り込みではなく、V30本来のオリジナル状態の特徴的部分を見ていくことにしよう。

フロントダンパー土台部分
フロントダンパー下側土台部分が鋳物で、上側にメッキ処理が施されている。なので再現が難しく、ウエットブラスト処理で地金を出して鈍く光らせクリア仕上げとしている
メッキスイッチ
1950年~1952年のモデルにはメッキのフタが付くスイッチを採用。その後のモデルとスイッチノブの形状は同一で方式も同じだが、スイッチ本体の形状と質感が異なる
ハンドルポスト部コッターピン
ハンドルポスト部にコッターピンを採用するのは1950年のみ。1951、1952年、それぞれのモデルにはボルトが入るので、この部分が確認できるとさらに年式を絞れるハズ
フレームセンターネック上面
フレームセンターのネック上面(ハンドルポスト下部)の合わせ処理が、溶接後に成形処理してキレイな仕上げ。その後のモデルではかぶせて横からスポット溶接しただけ
vespaブレーキペダル
ブレーキペダルはアームの短い鉄製のものが採用され、メッキ処理が施された後に装着。その後のVNというモデルでは形状や材質が変更されている
シート前端下部フタとガソリンコック
シート前端下部にあるフタはアルミ製のため溶接不可。なのでリベット止めで開閉ヒンジのステーが取付けられている。ちなみにフタの上部にあるレバーはガソリンコック
センタースタンド取付け用の穴位置
フロアにあるセンタースタンド取付け用の穴位置が、2つではなく1つだけとなる。なので固定ボルトは1本だけとなり、これは1950〜1952年モデルまで共通の特徴となる
VespaPX125 T5フロント
VespaPX125 T5バック

【主要諸元】

モデル名 Vespa125
ボディカラー グリーン/6002M
型式名 V30-V33
製造年 1950~1952年
総生産台数 トータル14万7723台
型フレーム形式 スチールモノコック
全長×全幅×全高 1,680mm×790mm×950mm
軸距 1,160mm
最低地上高 220mm
車両重量 81.6kg(乾燥)
燃料タンク容量 5.0L
燃料消費率 47.6-43.5km/L
最小回転半径 1,500mm
最高速度 70km/h
エンジン型式・種類 空冷2ストローク単気筒
総排気量 124.8cm3(cc)
内径×行程 56.5mm×49.8mm
圧縮比 6.4:1
最高出力 3.4kW[4.6PS]/4,500rpm
燃料供給装置形式 Dell'Orto・TA17B(キャブレター)
始動方式 キック
点火装置形式 ポイント式
バッテリー --
2stオイル混合比 1:20(5%)
クラッチ型式 湿式多板
変速機形式 常時噛合3速ハンドチェンジ式
ギヤレシオ 1速12:1/2速7.5:1/3速4.78:1
ファイナルドライブ ダイレクトドライブ式
タイヤサイズ(F/R) 3.50×8"/3.50×8"
ブレーキ形式(F/R) φ--mmドラム/φ--mmドラム
懸架方式(F) シングルユニット
懸架方式(R) --

◎1954年/VMとの比較

Vespa1954年/VM
一口でフェンダーライトと言っても、V30-V33とそれ以降のモデルであるVMやVNとはかなりの変更点が見られる。そこで1954年/VMを例にとって、大まかながら異なるポイントをチェックしてみよう。
1954/VM
1954/VMフェンダーライト
1950/V30
1950/V30フェンダーライト

小ぶりなサイズででライトケース上部にクレストのみの1950年モデル。対して1953年モデルでライトケースが大型化され、その後上部にインジケーターも装備された1954年モデル。

1954/VMフロントノーズ
1950/V30フロントノーズ

シンプルで細いタイプのフロントノーズを採用するのは1952年モデルまで。1953年モデルからは枠付きのタイプに変更され、ノーズ付きのパネルをセンターに配置したような印象だ

1954/VMレバーホルダー
1950/V30レバーホルダー

1950年と1954年でレバーホルダーの形状がまったく異なっているのがわかる。しかもハンドル直づけのレバーホルダーなので、レバーホルダー単体で交換というわけにはいかないのだ

1954/VMシートスプリング
1950/V30シートスプリング

シートスプリングの形状が末広がりで三角錐のような形状の1950年モデル。その後は樽型形状となり、1954年モデルにも樽型形状のシートスプリングである。比べてみれば差は歴然だ

1954/VM右サイドパネル
1954/VM右サイドパネル

右サイドパネルに切り欠きがあり、ファンカバー形状が横スリットの1950年モデル。この後はスリットだけのサイドパネルが採用され、ファンカバーもドーナツ形状のデザインに変更された

今回もインプレを用意して......ます!?

vespa1951年/V31
写真のモデルは1951年/V31

さてさて、例によってインプレッションをお届け! ......といきたいところですが、今回はタイミングが合わず試乗が実現しなかったためインプレッションはなし!! ......とはならず、豊富な経験を持つムゼオに乗った印象をうかがってきましたので整理してお届けしちゃいます。

◎V30-V33はとてもマイルドな乗りもの◎

「単刀直入に言ってしまうと速さを備えた乗りものではないんですよね」と切り出したムゼオ。どうやらV30-V33の"エグレのフェンダーライト(以下エグレタイプ)"について語る際、その後のモデルであるVMを基準とするなら力がなく加速感に欠ける印象なんだそうです。それでもVMを基準にしないとエグレタイプの速度感をイメージし難いだろうという判断らしく、VMのほうはアクセルを開ければ"進んでいる感"を確実に実感できるということらしいです。
逆にエグレタイプのほうは力がないぶん、操る楽しさが感じられるんだそうです。「回転を落とさないように走らせる。コーナーで回転を落としてしまうと立ち上がっていかないので、シフトタイミングとかも意識しながら走らないと加速していかない。そういう意味で乗っていて楽しいと感じられる部分がたくさんあります」と言う。
いっぽうVMはエグレタイプより少しだけ力があるぶん、多少失速してもアクセルを開けて待っていればそこそこ付いてくる印象だそうです。もちろんVMもその後のモデルと比べれば非力な印象となってしまうのは否めないけれども、それでもあまり考えずに走ることができるイメージだと言います。
「エグレタイプってギンギンに走っていく乗りものではないので、割り切れるなら優雅な気分にさせてくれるのが良いところでもあります。足まわりはふわふわでグイグイいくようなトルクもないから、まわりの流れなどを気にせずに走れるなら"ふわ~"っとした走行フィールを堪能できるんです。たとえば土手のうえとかを天気の良い日に走るとか、そんなシチュエーションを最高のひとときに演出してくれると思います」とのこと。
実際65年くらい昔の乗りものなので、現代の交通事情に合わせられるかと言ったらそこは無理なワケです。それでも1950年当時の乗りものが大したトラブルもなく普通に走れ、普段の足で毎日使えるというのはスゴいと言って差し支えないハズ。「交通事情......ペースが合う合わないは別にして壊れないし、信頼できる乗りものですよ。そこがもっともスゴいなと思えるところだし、感心します。他メーカーの同年代車両と比べて軽いし無駄がなくエンジンも素直な印象。そう考えるとかなり完成された乗りものだなと感じます。速くて壊れなくて軽くてデザインに優れていて作り込みが素晴らしい。それにがんばって走らせる努力をすることで、意外に楽しく走ることもできますから」とのこと。
このエグレタイプが現役だったころ、多くのメーカーが完成度の高い乗りものをコピーしていた状況でもありました。そんな時代にベスパはコピーされた側であり、当時は真似ができない最先端な乗りものだったんだということが改めて感じられました。

今回はこれで終了!

さて「ヒストリックモデル#03」はいかがでしたか?
フェンダーライトは"永遠のあこがれ"なんて人も多いと聞きます。
もちろんファンでなくても見聞きしたことのある、つまりはどこか懐かしさみたいな感覚に近いところを共有できる乗りものなんじゃないでしょうか。
また今後も魅力あるヒストリックモデルの取材を計画していきますので、次回にご期待くださいね〜!!

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