BBB MAGAZINE
CREDIT
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- ライター
- 執筆
隅本辰哉
-
- 撮影
隅本辰哉
-
- バイク
Vespa
プロフェッショナル・ロングインタビュー
ETシリーズに関して「黙ってられない!」と、強く思い入れもあるというベアせたがやのKさんが名乗りを上げてくれたので、いろいろうかがってみることにします。自らもETを経験しているKさんなので、その辺りからいってみましょう。
●まずはETに乗り始めたきっかけから
「ベスパがオートマを作ったってとこです。国産と同じ機構のCVTオートマだったから興味がわいたんですよね」 当初は試乗車を乗り回していたKさんですが、ある日突然売られてなくなってしまったことから自分名義で買うことにしたんだそうです。それが中古のノンリーダー(初期型にはリーダーエンジンが搭載されなかったことから通称でこのように表現されることが多いんです)で、その後下取りで入庫したリーダーエンジン搭載車、そして150ET4も所有経験ありだそうです。 ちなみにリーダーエンジンとは125ccのほか、150cc、180cc、200ccといった排気量バリエーションがあり、エンジン冷却方式(水冷/空冷)、インジェクション化、3バルブ化など、豊富な設定と同時に進化&熟成が進められてきたピアッジオ社の傑作ユニットなんです。ベスパやピアッジオの各モデルのほか、傘下・提携などのメーカーにも供給されました。
●ここで乗ってみた印象についても聞いてみる
「正直、そのままの状態では国産車にとうていおよびませんでした。でも自分の車両と国産車とを比べて、一つ一つ......それこそタペット調整まで手を入れてていくことで生まれ変わったように速くなり、車両がどんどんよくなっていったんです。これはいいなって手応えもあって、ずっと乗ってました」
Kさんとしては、この経験が納車整備にも活かされていたと言います。しかも手を入れたり調整すればETはどんどん調子を上げていくので、自分の車両を実験車としていろいろないじりかたを試したりもしていたそうです。
●エンジンが異なる初期型とそれ以降について
「一番最初にびっくりしたのが、エンジンの回り方の違いでした。リーダーのほうがモーターみたいにスムーズで、上までストレスなくヒュンって感じで回ります。ノンリーダーのほうは途中で引っかかるような二段階イメージでしたね」 こうした印象の違いも含めてKさんは、まったく異なるメーカーの製品じゃないかというくらい別物だと感じたそうです。それでもノンリーダーが回らないエンジンかと言うとそうではなくて、要はマルチバリエーターを付けたときと付けないときの差みたいな感覚で、谷間ができてまた上がっていくイメージだそうです。
●では走りはどうなんでしょう?
「たぶんサスが違うと思うんですけど、当時ここら辺はもの凄く工事が多かったんです。それで突き上げ感とか乗ってる人が振られるっていうのは初期型のほうが多かったですね。新しいのに変わってからはそういうのがなくて、乗り心地の部分での差はすごかったです」 どうやらエンジンの進化だけでなく、乗り心地もリーダーエンジン搭載時に進化していたようですね。さらに排気量違いのリーダエンジン比較では、中速とかはほぼ似たり寄ったりでトップスピードに差が出るそうです。
●どんなお客様が乗っていたのかも気になります
「女性もいましたけど、男性のほうが圧倒的に多かったです。当時女性はベスパよりも、モペッドの傾向がありました。その彼とか友だちがET4っていうパターンが多かったように思います。年代的には年配の方か若い方、そんなイメージでしたね」 東京・世田谷という場所柄なのかは不明とのことでしたが、当時のベアせたがやさんで見られたお客様の傾向ということでした。さらに若い方は美容師関係の方がすごく多く、年配の方はハーレー下取りなんてパターンも見られたそうです。
●具体的なところも聞きたい
「ベスパのネームバリューが前提にあったんだと思います。だけどビンテージシリーズに乗るほどマニアックじゃない。好きは好きなんでしょうけど、そこまでの覚悟はないっていうんですかね。そこにオートマが出たことで、クラッチが要らないならちょっといいかなって思われたんじゃないでしょうか」
やはり映画やドラマの印象なのか、雑誌やCMなどのメディアで見たことがあるからなのか、ベスパを知っていて気になっているという人は少なくないようですね。でもハンドチェンジだし難しそうとか、ネガな要素がついて回るイメージなんだということでしょう。なかなか踏み切れずにいたものが、なんだかフツウのオートマチックスクーターとしてお店に並んでいるとどうにも気になってしまうのかもしれません。
●ここを見てあげると長くのれるってポイントありますか?
「まず燃料系です。納車整備で燃料コックの調整もやっておかないと、パッキンの位置が変わって付いてたりするので燃料漏れを起こしている車両がけっこうありました。じつは燃料コックだけでも3種類くらいのメーカーのものがあって、それぞれOリングの位置が違うんですよ。だから固定用のバンドを同じ位置で締めちゃダメなんです」
なんでも燃料の漏れる位置がマフラーの上なので、マフラーが錆びている車両ならほぼ燃料漏れしていると疑ったほうがいいようです。そしてだいたい1年で燃料ホースが硬化してしまうそうで、交換して取り回しを変えるというのをあえて1年点検の項目に加えたりもしたそうです。
●ほかにもトラブルありましたか?
「致命的ではないマイナートラブルは多かったんですけど、どこのお店でもたぶんそういうところを納車整備でやっていたんだと思います。だからそういう細かなところをやっておくことで、『ベスパがやっと通勤で使えるようになりましたよ』ってセールストークで売ることができました」
どうやらマイナートラブルはけっこうあったようですが、致命的なものではなく、あれこれ手直しして乗っていくことでいつまででも乗り続けられるタフさも持ちあわせていたようです。Kさんもエンジンはとても頑丈だったと言っています。
●なぜKさんはそこまでET4に入れ込んでいたのでしょう?
「妹がイタリアによく行ってたんですけど、2年連続同じ街角で撮ったら、2年連続同じET4が同じ場所に置いてあったんです(写真f)。下を見れば動かしているかがわかる。きっと通勤で使っていて、ここはオレの位置っていうのがたぶん決まってるんでしょうね。それでそこにあったET4にロング風防、ひざかけ、リヤボックスが装備されていて、『ああ毎日使うってこうなんだよな』って再認識を持ち、そこから自分もET4をこういう風に乗っていこうと思ったというか......」
こうして写真を通してイタリアの空気を感じ、スクーターの役割みたいなものがインプットされたことでKさんのET4観が決定づけられたようです。
インプレッション
今回はインプレありです。でも、その前にもう少しET2とET4のことを掘っておこうと思います。じつはおよそ10年現役だったETシリーズでしたが、当初話題となっていたET2のインジェクションは残念なことに日本国内の環境に適合せず、パーコレーションを起こしてエンジンストール&再始動が困難という状況に陥りやすかったんです。そのため早々に日本市場から姿を消し、すぐにキャブ仕様へとスイッチされました。
またET4のほうも当初設定されたノンリーダータイプの125ccユニットが、ヘッドまわりにトラブルを抱えていたせいでリーダーエンジンへとコンバートされています。リーダーエンジンに変わってからは徐々に評価を高めていくんですが、これは乗れば理解できる足と車体の良さも貢献していました。時代的なこともあったのか、ETシリーズは鉄板の厚みがあって剛性感も相当高かったんです。そこに良く動くサスが組み合わされ、50〜60km/hくらいの速度域なら振られても一発で収まってしまうほどのスタビリティを実現していました。
豊富なバリエーションをもつリーダーエンジンを採用したことで、空冷150ccユニット搭載モデルもET4に追加設定されました。こちらはさらに高速域でも車体の安定感を感じられるなど、よりハイスピードクルーズにも対応できたことがベスパの行動半径を広げるきっかけになったんじゃないでしょうか。
ではいよいよインプレをお届けしましょう。まず50ET2からです。車体の剛性感はしっかりあって、全域でスムーズな回転上昇を味わえます。20〜30km/hの間でいったんパワーカーブが緩くなったかなという気がしますけど、その後は60km/hまでわりとスムーズにグーッと上がっていく感じですね。パワーの息つき感はありません。シートは少し硬い印象がありますけど、じんわり沈んでいく感がしました。
なおせっかくなので、後継モデルとしてラインナップされたキャブ仕様(50ET2C)のインプレもお届けしちゃいますね。こちらは2stらしい出足のグイッと前に出る感じが味わえるんですが、中速域の加速感が少々鈍る印象です。でもその先、高速域まではアクセルのツキも悪くないですね。車体は他機種と変わらないので剛性感や足の良さが際立っていて、50ccのパワーからするとオーバークオリティな感じです。それもあって、ほとんどのギャップはアクセルを開けてさえいれば不安なくスルッと通過しちゃうので、けっこうセンセーショナルな感じがしました。
最後は今でも現役で活躍しているのを見る機会がある125ET4(リーダー)ですが、試乗したのはわりと初期のキャブ仕様です。キャブ仕様リーダーの特徴でもある立ち上がりのマイルド感は健在で、その先は回した分だけパワーが出てくる印象です。そもそもタフなリーダーエンジンでもあるので、わりとガンガンに回していくのが正解です。それで気がつけばその分速度も上がっているというキャラクターだったりします。パワーより車体が優っていてそのバランスも良く、どこまでも安心して回していけるのも良い感じです。総じてETシリーズはスチールモノコックボディに良く動く足を組合せて完成した、剛性の高さとスタビリティを兼ね備える秀逸なシャシーが最大の魅力だと言えそうです。
今回はここまで!
さて「ヒストリックモデル#04」はいかがでしたか?
ベスパ初の本格的オートマチックモデルとしてデビューしたETシリーズのうち、その顔とも言える50ET2と125ET4について紹介してみました。 今後もまた魅力あるヒストリックモデルの取材を計画していきますので、どうぞご期待ください!!
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