BBB MAGAZINE
CREDIT
-
- ライター
- 執筆
隅本辰哉
-
- 撮影
隅本辰哉
-
- バイク
Vespa
今回が第5話となる 「スモールで遊ぶ編」ですが、第4話からオフロードレーサーの話題にシフトしています。それで今回は作るにあたってのポイント解説をムゼオにお願いするんですが、これが定番、こうするのが正解というところがまだまだ定まっていない発展途上の世界です。ムゼオはそういう部分もおもしろいと言っています。 一体どんなおもしろさが潜んでいるのか、そこの所を覗いてみることにしましょう!
スクーターでオフロード遊びをするというイベントがあります。そのイベントがスクータークロスで、ベスパも参加しているので注目です。写真のように颯爽とジャンプできたらきっと気持ちいいって思いませんか?
※ライダーはA.A.motocicletta・吉宮さん
オフロードマシン作りってどうするの!?
さあ、ついにオフロードレーサーの製作に取り組むワケですが、一体どうするのがいいんでしょう。そもそもスクーターとはシティコミューターなどと表現されることの多い、舗装路向け移動手段という側面が強いと思います。そんな乗りものでオフロードを楽しもうとなると、バイクのオフロード車のような悪路仕様に仕立てなければならないのだろうということが想像できると思います。
ですが、この悪路仕様にはまだ定番が存在していない状況です。なにしろベスパ・スモールが参加できる正式なオフロードレースはまだなくて、オフロード走行会的なイベント内で行われる模擬レースくらいという現状ですからね。
◎スモールでエントリーできるオフロードイベント
本来の舗装路向け移動手段という目的から離れ、オフロードコースなどで積極的にダートランを楽しんでしまおうという人たちが目につくようになってきました。まだ「スクーターでオフロードを走ってみたら楽しいんじゃない?」というレベルですが、だからこそ試行錯誤して車両作りから楽しんじゃったり、車両はボロボロの中古車にしてダート遊びを思い切り堪能しちゃう人など、楽しみ方も千差万別といったところです。
そんなイベントがスクータークロス(https://www.facebook.com/ScooterCrossJapan)なんですけど、関東でも関西でも開催されていて、スクーターならなんでも参加できます(photo a)。オフロード走行を楽しみながらBBQも満喫し(photo b)、最後は模擬レースで締めくくる(photo c)......そんな"大人の泥んこ遊び"として火がつき始めたイベントなので今後の動向にも注目です。
オフロード仕立てにチャレンジしてみよう!
まず冒頭で触れていますけど、まだ始まったばかりのスクータークロスに「これが定番、こうするのが正解」という方程式みたいなものはありません。そういう意味ではオフロード用の車両を作ってみようとする人たちのアイディア次第で、楽しそうな車両やスゴい車両の登場余地があるということです。 ともかくここではムゼオの考えるオフロード用の車両作りについて見ていくことにしましょう。
「オフロード用の車両を作ることにした理由は?」
ムゼオ(以下、ム):実はオフロード用に用意していたものとは別に、VespaGP(ロードレース)の2ndカーにする予定だった車両から組み上げました。スクータークロスに参加する話が具体化してきたので時間がないと判断し、2ndカー予定車にブロックタイヤを履かせてオフロード仕様に仕立ててしまおうと考えたんです。2ndカー予定車は実際に走っていた車両なのでほとんど手を入れなくても当面遊べるだろうし、一から作るよりも手っ取り早いだろうという思いもありましたね。
「経験のないオフロードマシン作りでポイントにしたことは?」
ム:ベースにした2ndカー予定車は元々外出しキャブだったから、そのままでは砂や泥を吸い込んでしまいます。なのでフレームの中(本来の位置)にキャブを戻す必要があるなと。また砂対策という意味ではキャブだけでなく動く部分と操作する部分への影響も心配なので、穴という穴を極力塞ぐようにしようと考えました。それから足=サスペンションのストロークをどうにか稼ぎたいのと、モアパワーもポイントになると思います。ダート走行ではロスが多いので、そこをパワーで補うべきという判断ですね。
「ではキャブの移設と穴埋め、パワーUP、足の観直しという4点がポイント?」
ム:そうですね。それとポジションも考えていたんですけど、それは間に合わなかったんですよ。シートとハンドルの製作が必要となるので、ちょっと大事になってしまう。オフロードだとスタンディングが増えるので、フロアに対するハンドル位置などに窮屈感があります。それで握りこぶし1個分だけでもハンドル位置が上がれば違うんじゃないかと。それにパイプハンドルに変えることでワイヤー類が外出しにできるので、作業効率もある程度よくなると思われますね。
「実際それらに着手していないのはなぜ?」
ム:とりあえず時間がなくて。ただ1度走らせてみた結果があまりにもダメだったので、外見云々の前にまず走るためのエンジンが先だと判断しました。だからまずまともに走れる状態にすることが先決で、その後にポジションだったりカッコいいと思える見た目に着手していけたらいいんじゃないかと考えています。
「実際に作って苦労した&走らせて感じた問題点は?」
ム:想像以上に砂が入るなというところですね。ただどれくらい影響があるかをまだ判断できていませんけど。それからフラットな路面を走る分には問題ないエンジンが、ギャップの続くセクションで止まってしまうんです。その原因究明と対策をどうしていくかが問題です。
「今後の課題として考えていることはありますか?」
ム:補強パイプの入れ方は少し考えさせられました。良いのか悪いのかというより、完全に良いというものではなかったということです。ウチの車両はエンジンの調子が良くなくてほとんど走っていないから症状が出ていないんですけど、メインフレームに補強パイプが溶接されている車両では、フレームがガッチリする代わりにフロントフォークの通っているパイプに応力が加わってモノコックフレームとフォークの通るパイプの接合部分にゆがみがでたりするようなんです。ただジャンプの着地やギャップ通過時の衝撃を考えると補強を入れない選択は怖いです。そうなると補強パイプを入れる位置や、どこに溶接するのが良いかを考えていきたいところです。もしかしたら補強パイプよりも、パンチングした板状の補強プレートをフレームに溶接していくのもありなんじゃないかと考えたりもしています。
「最後に作ってみた手応えを教えてください」
ム:ある意味でロードよりオフロードのほうが、やり甲斐はあるのかもしれないです......個人的な感覚ですけどね。スモールベスパってフレーム自体が窮屈なんですよ。ハンドル位置が低くて前かがみのため、ハンドルに体重をあずけてしまうような状態。それで操作しろと言われてもフロアにあるリヤブレーキは足をちょっと浮かせてから踏むワケで、それって結構メチャメチャだと思うんです。ギャップ走行中でも操作しなければならなかったりするんですから。それでロードがシビアって考える人が多いと思うんですけど、それはたぶんタイムに出るからじゃないですかね。でもオフロードはタイム云々の前に乗りやすい乗りものを作るという点でスゴく難しいと感じてます。それだからこそ考えることがいっぱいあって楽しいし、「あれやったらどうなんだろう?」とか「これやったらどうなんだろう?」とアイディアも湧いてきます。ただそういった「どうなんだろう?」をやってみた後にその辺で試すことができない。つまりほぼぶっつけ本番なので、かなりシンドいなって感じてます。オフロードって、言うなれば予知予測ができないところでの対応力が求められるという楽しさなんだと思います。だから集中力とか想像力、色んな感覚をフルに働かせて挑む必要があります。コースによっても違うし、環境によっても違う。ロードはロードのおもしろさ&楽しさがあるけれど、最近はオフロードで度肝を抜かれたんですよ。まさに衝撃的と言えるほど楽しいを実感していますね。
作業のしやすさからヘッドライトを外してあり、その結果ワイヤー&配線の集まる部分が剥き出しなので対策のためにガムテープで塞ぐことに。怠ればシフトとアクセルまわりに砂などが入り込み、操作感が悪くなってしまうことも。スピードメーターも外してあるので、そこの穴も早急に塞ぎたいところ。またヘッドライト下側に光軸調整用のミゾがあって、そこはすでに金属パテを使用して埋めてある
ある意味マストであり、最低限やっておきたいのがブロックパターンタイヤ。10インチサイズのIRC製iX-KIDSをチョイス。ノーマルではグリップしないし、楽しむためにこそ必要なアイテム
ベース車両に最初から装着されていたTAKEGAWA製ハイスロットルだが、これはもしもなかったとしても装着しようと考えていたものだとか。なので、元々付いていたハイスロットルをそのまま使うことにしたそうだ。理由としては手首の可動域が制限されるスタンディング時のアクセル操作を考慮したからで、ハイスロットルなら開ける範囲が狭まるのでコントロールもしやすくなると判断したため
キャブレターはエンジンからフレームを貫通する状態でフレーム内に入る。そのフレームを貫通する部分をゴムブーツでゴミの進入を防いでいるが、ビッグキャブ装着によるマニホールド径の太さと形状の違いからそのゴムパーツが付かない状況。それでフレーム開口部を塞ぐべくスポンジを使用。スポンジはボディに接する部分にシリコンを塗って、砂の吸い込みを抑えるようにしてある
オフロードマシン作りってどうするの!?
元々112ccにボアアップ済みのエンジンで、下からモリモリのパワー&トルクを発揮するのでオフロードで使いやすいと判断。ただしその他のエンジン機能部分に問題があるため今後どうするか検討中
◎スクータークロスについて(https://www.facebook.com/ScooterCrossJapan)
ムゼオの考える車両作りのポイントを示しましたが、何度も言っている通り「これが定番、こうするのが正解」という方程式が定まっていません。そうなると自由な発想で車両を作ることができるワケですが、だからこそもう少しスクータークロスというオフロードイベントを理解しておくほうが良さそうです。そこで窓口業務を担当するベアせたがや・Kさんにスクータークロスのことを聞いてみました。
「スクータークロスを始めた理由は?」
Kさん(以下、K):使わない原付スクーターがあって、ブロックパターンのタイヤもあったので「これでオフロードを走ったらどうなるんだろう? ちょっとおもしろそうじゃない?」っていうのがきっかけです。乗らなくなって処分するしかないって考えられているスクーターでも遊べる機会があったら楽しいかなという思いもありました。足というイメージが強いスクーターでも、乘りものとして遊べるっていうことを実証したかったんですよ。
「BBQに力が入っていますよね?」
K:なんでしょう......バーベキューをしたかったのかも。スクータークロスって走るときはみんな真剣で、遊びとは言っても真剣に夢中です。ただバックボーンは遊びに行くという所にあると思うので、それもあってスクータークロスではバーベキューをメインにしています。
「今後はレースに発展する可能性もあり?」
K:将来的にスクータークロスというオフロードレースの開催やカテゴリーの確立は視野にあります。だけど、あくまで遊びの域を脱しないようにやっている現状です。それでも競技志向の強い人も少しずつ増えていますから、そのあたりが今後の課題と言えそうです。反面、今後はもっとフツウの人に来てもらいたいとも思っています。いきなり会場まで来るのは敷居が高いと思いますので、参加ショップをのぞきに行ってみるとか、話を聞きに行ってみるとかでいいと思うんです。それにスモールベスパの50Sもいますけど、オートマのスクーターも多くいますから色んな人に来てもらいたいですね。それこそ日ごろ通勤で使いながら、タイヤだけ替えてスクータークロスも参加するとか。そういうカジュアルな感じで興味を持ってもらえたら、気軽に楽しめるんじゃないかと思うんですよ。
「でもオフロードを走ることに抵抗のある人は参加しづらいのでは?」
K:飛んだり跳ねたりばかりじゃなく、悪路を走るという意識で参加されたら確実にライテク向上につながると思います。タイヤが滑ったとき、リヤがズレたときにどうすればいいのか......それって雨の日のストリートにも当てはまることじゃないですか。だから上手くなりたいとか、運転変われるのかなって疑問がある人は確かめに来てもらいたいですね。
「参加するには装備が気になる人もいそうですけど」
K:その点はご心配なく。装備面はけっこう気楽ですから。できればしっかりとしたオフロード用の装備を推奨しますけど、とりあえずという所でくるぶしまで隠れるブーツだったり、長袖長ズボン程度でまずは始められます。教習所に行くのと同じレベルで考えてください。プロテクターは参加ショップなどで借りられます。
「他に必要なものってあるんですか?」
K:車両にブロックタイヤだけは必要ですけど、サーキットを走るより始めやすいんじゃないかと思います。手軽にスクーターで泥遊びが始められるところが魅力じゃないかと。もっと言うと興味があるならバーベキューしに来るだけでもいいんですよ。歓迎します。そのついでにスクーターの泥遊びを見て興味を深めてもらえたらいいんじゃないでしょうか。そういうユルさでやってます。
◎ベアせたがやの作ったスクータークロス参加車両をチェック!
ベアせたがやでも参加車両を作っているので、そのポイントを聞いてみることにしましょう。作るときの参考として、ぜひ役立ててほしい!
砂と泥の対策は結構取り組んだとのことだが、特にオフロードを走るのにどこまでやるかを熟考したそうです。ただコースを走るだけなのか、飛びたいのか、跳ねたりジャンプしたりしたいのか。それによって車高を変えてみたり、そのためにはサス変更が必要になったりするそうです。またエンジンの特性をオフで走りやすいように下方向に持っていくそうです。そして決して過度なチューニングは必要ないとも。
カウルの割れた状態でお店の在庫として眠っていた車両。それをベースにどうするかがスタートライン。オフを走るならカウルは必要ないので、軽い気持ちでオフ仕様に仕立てたそうです。大径ホイールの強みで、オフで意外にも速い車両として仕上がりました。やはり過度なチューニングはやってないそうですが、エアクリーナーの取り入れ口を変えたり、タイヤを交換するくらいのことはやっているとのことです。
今回はここまで!
「スモールで遊ぶ編・第5話」では、オフロードレーサー製作を視野に入れた詳細説明を行いました。ロードレーサーの時もそうでしたが、"製作ハウツー"ではないので作ってみようというならショップを頼るなどしてみてください。それとKさんも言っていますが、できれば一度イベントを見学してみるのがオススメです。なんだかBBQもめちゃめちゃ美味しそうですしね!
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