BBB MAGAZINE

  • 大人のたしなみとしてベスパに接してみよう!

    2016.05.04 / Vol.23

    旧車レストア #09

CREDIT

    • ライター
    • 執筆

    隅本辰哉

    • 撮影

    隅本辰哉

    • バイク

    Vespa

なんだか随分とご無沙汰気分な「旧車レストア編」ですが、それもそのハズ。なんと昨年の4月に第8話をアップして以来、1年が経過してしまいました。これには我ながら驚きを隠せません。......とは言え、レストアってそういうものなんですよ。そこで今回は"これまでのおさらい"、そして"現状がどうなっているのか"と"レストアで直面する苦悩"についてお届けしていきたいと思います。

ベスパ VNB2仮組み

レストアというのは奥が深く、時間やお金のほかに知識まで必要となる高尚な趣味の世界です。それだけに難しく、挫折してあきらめてしまうケースが多いのも事実だったりします。だからこそ無理のないレベルに目標を置き、困難に直面してもそのことを楽しめるだけの気持ちの余裕を持って挑んでもらいたいなって思うんですよね

これまでのおさらい

東京モーターサイクルショーに展示
東京モーターサイクルショーではBBBブースのメイン通路側に展示していただいたこともあり、とても多くの来場者に観ていただくことができました

まず第1回目で「レストアとはなんなのか?」について触れています。よく車両の古さはともかく、「過去の車両に手を付けることがレストア」だと勘違いされているケースを目にしたり耳にしたりします。でもそれではニュアンスが異なってしまうので、レストアを理解することからスタートしたワケなんですよね。
レストアとは復元することを指すので「新車時の状態を再現する」が最上級のレストアってことになり、そのための構成パーツなどはすべてオリジナルの物を用意する必要があります。たとえばボルト類などは規格が合えば現在の物を使うことも可能ですけど、最上級である本来のレストア(=新車時の状態を再現する)を目指すなら当時のボルトを......しかもイメージする仕上げレベルに合わせて当時の新品ボルトを探すのか、ヤれた雰囲気までマッチさせられるように当時の中古ボルトを探すのかというところまで考えて取り組む必要があるんです。なので"たかがボルト"であっても集めるための時間もお金も必要とするし、知識だって必要となるのでめちゃめちゃ敷居が高かったりします。
そこで完全な再現を目指すのではなく、リビルトパーツ(再生部品)や中古パーツなどを上手に使い分けて敷居を下げるという方法が"選択しとして一般的"だったりします。つまり「どこまで忠実に再現するのか」という復元レベルを決めて、無理なくやり遂げられるレストアを計画することが重要なんだという内容でした。
そして 第2回目で一度「仮組み」して、第3回目で「欠品や使えない部品の洗い出し」などを行っています。仮組みすることで「今後のためになにが足りていないか、なにがダメなのか」がイメージしやすくなりますし、それらをそろえたり直したりしないと次のステージに進めないというところもハッキリと自覚できるワケです。
そして第4回目以降では必要となる部品などを探したり買ったりしながら、少しずつ届いた物が「正しいか、イメージにマッチする物なのか」といった検証を続けていきます。場合によっては第7回目のように加工して使えるようにしたりすることも必要に応じて行うワケです。 一応こういった内容で進行してきた「旧車レストア編」を、2015年の東京モーターサイクルショーで"現状のお披露目"として展示させていただきましたので、多くの人に現車のようすを見てもらえたのではないでしょうか。

VNB2と現行モデル

レストア中のVNB2
photo a
P/PXシリーズ
photo b

「旧車レストア編」の主役であるVNB2という型式のモデルについて触れておきましょう。
モデル名(車名)で言うと「ベスパ125」というシンプルなもの。当時のスタンダート的な位置づけの通常モデルと表現するのがしっくりくる、VNBという型式の2型モデルだったりします。 ベスパの市販開始は1946年。そこから50年代中期過ぎまで、いわゆるフェンダーライトと呼ばれる映画「ローマの休日」の劇中車的モデルが毎年手直しを受けながら継続販売されていきます。そしてこのフェンダーライトがベースのセイジョルニというプロダクションレーサーが登場し、その流れをくんだスポーツモデルとして150GSというモデルがハイエンド版として1955年からラインナップに加わりました。 だけどメーカーとしてはハイエンド版だけではなく、ベーシックラインが販売面で重要と判断したのでしょう。そのためそれまでの時代の排気量をベースとしながらエンジンを新設計し、150GSの小さいバージョンという印象のモデルを1957年に登場させます。これがVNA1という型式のモデルで、モデルチェンジされながら1966年のVNB6というモデルまで継続生産されています。 スポーツモデルだった150GSは速くなったことで操作性や安定感を確保するために10インチへホイールが大径化されていましたが、通常版の125では8インチホイールを採用しているのでタイヤ(ホイール)の小さな可愛らしい印象があります。 それにこのくらいの年式のモデルでは大きく丸いお尻がとくに印象的です。フェンダーライト時代のプレーンでシンプルな雰囲気をしっかりと受け継ぎつつ、テールエンドに向けて絞りこまれていくヒップラインの優しいデザインこそがVNA〜VNBの持ち味だと言えるでしょう(photo a)。
対して現行モデルとしてラインナップされるハンドチェンジ・ベスパはと言うと、1977年に発表されたP/PXシリーズがあります。初期モデルならデビューから間もなく40年を迎えるほどの長寿モデルでもあります。しかも世界的に縮小傾向にある2stエンジンを搭載しながらEuro3規格のエミッションをパスするなど、着実な進化を遂げつつ ベスパらしいパッケージを守りぬくアイコン的存在だったりもします。このP/PXシリーズになるとみなさんも目にする機会が多いんじゃないかと思いますが、時代の影響もあって80年代に大流行した角張ったデザインを採用しています。そこが世代によってノスタルジーさだったり、目新しさだったりという印象となり、今なお多くのファンのハートをがっちりと捉えて離さないのかもしれませんね(photo b)。

現在の状態

正直に言ってしまうと昨春の東京モーターサイクルショー以来、主だった進展はありません。つまり展示させていただいた状態と、ほぼほぼ同じまんまだったりします。だけど当企画の協力者であるムゼオ(Museo Vespa Giappone)では、VNB2を「ビカビカ仕上げではなく自然な雰囲気を目指したレストア」で考えているというので、どうやらそういったことも作業がストップしている理由の一つだったりするようです。 そもそも口を酸っぱくして言い続けていることですが、「レストアは狙うレベルによって時間もお金も、それに知識だって必要」になるのでおのずと進行が遅くなってしまいやすいんです。ムゼオが今回目指しているレベルは、"できる限りの努力によって当時の雰囲気を再現したいというレストア"だったりします。ビカビカを目指していないということが、イコール仕上がりレベルを落としているということではないんですよ。そこはレストアのビギナーにとって理解し難いところかもしれませんね。決して優劣の話ではないという認識を持ちつつ、"自分のやりたいレストアの方向性やレベル"がどこなのか見失わないようにしてほしいところです。 たとえば先ほど「当時のボルトを......しかもイメージする仕上げレベルに合わせて当時の新品ボルトを探すのか、ヤれた雰囲気までマッチさせられるように当時の中古ボルトを探すのかというところまで考えて取り組む必要がある」としましたが、ムゼオではイメージ通りに雰囲気をマッチングさせるためにエイジング的な加工処理まで行う念の入れようで取り組んでいます。だからこそ思うようにはかどっていないという部分も多々あるんだとご理解ください。

リプロボルトの比較
ハンドルクランプ固定用ボルト

向かって左がリプロボルトなんですが、よく見ると製造時の切削加工跡が残っています。右は当時のオリジナルですが、比べるとリプロボルトのほうは角々のエッジが切りっぱなしで立っていたり、削りっぱなし感が出てしまっているのが分かると思います。今回ムゼオが目指すレストアのレベルで考えるとそうした部分も気になるところとなるので、作業工程が増えて予算も必要となり時間も予定よりかかることになります。ただ......このことを苦悩と考えるよりも、むしろそういうことも"知らなかったことを学べるチャンス"だったり"新たなテクニックを身につける喜び"といった具合に楽しみの一つとして捉えていきたいものです

ボルトのエイジング作業
エイジング的な加工処理

切削加工跡を消すためにサンドペーパーを当て、角々のエッジを落として雰囲気よく仕上げるエイジング作業です。ここからさらにブラストをかけた後にメッキ処理を施し、メッキ処理後も場合によってはもう一度ブラストをかけるんだそうです。サンドペーパーを当てただけでメッキ処理するとペーパー目のスジ(ヘアライン)が出てしまうので、ブラストでスジを消して表面を馴染ませたりしてイメージ通りに仕上げます。ただメッキ処理の後、種類によっては下地を梨地状に仕上げておいても表面がキレイになってしまう事があるので、その状況によってはくるみの粉等を吹きかけてツヤを落としたり手で磨いたりして雰囲気よく仕上げるというテクニックも使います

レストアで直面する苦悩

さてさて、"苦悩"だなんて見出しではドキッとしてしまいそうですよね。まあでも、そこは考え方次第だったりもするんですよ。
先ほどの話もそうなんですけど長いこと止まっちゃってることの要因というのはいくつかあって、それはレストアにつきものだってことをまずは理解してください。たとえば頼んだものが思い通りのものじゃなかった、頼んだけどなかなか届かない、届かないまま泣き寝入りなんてことも稀にあったりするらしい......などなど。それから、頼みたいけど目指すレストアのレベルにマッチするものを探せずにいる、そして予算的な問題というケースだってあるでしょう。さらには加工に出す必要があるので外注先を探さなければならない、外注先を見つけてもオーダーできるタイミング待ち......とかとか。いろいろな問題によってどうしても思うように進まないということがけっこうあることが、おおまかな遅れたり止まってしまう要因です。これらの問題って解決に時間やお金が必要だったり、そのこと自体が難問だったりというケースなのでまさに"レストアで直面する苦悩"に成りかねません。でもそこが考え方だったりすると思うんですよね。苦悩であって"辛いこと"や"大変なこと"として認識してしまいやすいとは思いますけど、そこをあえて"新たな発見"だったり"知識や情報を手に入れるチャンス"と考えてみることにしましょうよ。
ムゼオの場合は"できる限りオリジナルに近づけたいというのが目標"でもあるため、日ごろから時間のある時は「本来はどうなのかを気にしつつ写真を見たり、なにか気になる物が見つかればそれについて調べたりして情報を集める」ということを繰り返しているそうです。そんなことをしていると意外にも新たな発見というのが常にあって、そういう発見がある以上は得られるものを知識や情報として手に入れておきたいと考えているワケです。つまりレストアに費やす時間も労力もお金も、すべてを楽しみに置き換えて堪能しているからこそ根気よく続けていられるんだと思うんですよ。 ぜひみなさんも"辛いこと"や"大変なこと"が発生したとしても、好きで始めたレストアなんですから楽しくやり遂げられるような心持ちを常に心がけて挑んでもらえたらって思います。

フロントエンブレム比較

◎頼んだものが思い通りのものではないケース
3種のフロントエンブレムは向かって中と左がリプロパーツで右がオリジナルのエンブレムなんですが、リプロパーツ単体で見ればそれっぽいのかなと感じられるのに、あえて2つ目を取り寄せてみればそれぞれが違っていたんだと気付かされます。だからなにが正しいのかを調べていかないといけなかったりするワケですよ。決して買ったらOKというものではなく、買ったものが正しく使えるものなのか、レストアのレベルによるマッチングはどうかという部分まで考えて、そのための勉強もして判断できるようになっていかないと、狙ったレベルのレストアにもっていけなかったりするでしょう。ちなみにムゼオとして今回は、オリジナルの雰囲気と似ている中のリプロパーツを使ってみようと考えているそうです。

純正ドラムハウジング
photo c
ミゾがない
photo d
正しいドラムハウジング
photo e

◎届いたものが使いものにならないケース
VNB2用ではありませんが、一例としてご紹介するのが「純正ドラムハウジングなのに使いものにならない」というケースです。本来なら中央の穴にスプラインというミゾが切られているハズの純正ドラムハウジング(photo c)なのに、本来はあるべきそのミゾがない(photo d)、製作過程で1行程足りていないミス品が届いてしまったんです。リプロパーツを取ってみたら届かない、カタチが違う......などなど、まあいろいろ問題はあるかもしれませんが、純正部品にも極稀なケースとして使えないものが送られてくるということもあるんだということです。ちなみにNGのドラムハウジングはPX用で、比較用の正しいドラムハウジング(photo e)は同系統の別モデルであるP用のものです。

スモールで遊ぶ編の最新情報

オフロードカスタム
ブロックタイヤ
リア マフラー側
リヤ側

ちょっとここでスモールで遊ぶ編の最新情報もお届けしておきましょう。それはオフロードレーサーの現状になります。じつはオフロードレーサーのカスタマイズが水面下で進行していて、現状はこのような状態になってます。 大きな変化としては過去にスモールのバリエーションとして紹介したことがある50SS/90SS的なレッグシールドの狭まったタイプのシルエットに変更して、そのためのボディ加工から仕上げの段階に入りつつあるということです。そしてフロント側の変化に対してリヤ側は大胆なフレームカットを施しています。左右非対称なのは往年のレーサーが非対称だったりすることからそれを意識したのと、右側は当初キャブレターが出ているエグレがあったのでそこを埋めるか、もしくはカットするかの二択を考えていたからということです。結果として整備性の向上に貢献し、どう動いているかを確認しやすいので対策も立てやすいというのがメリットなんだそうですよ。またフレームカットで取り回しも軽く感じられるそうです。なお折を見て補強を入れたいと考えているとも。ちなみにフレームカット部は切りっぱなしだと危ないので、フロントにはリブを付けたので今後レッグモールを付ける予定とのことです。そしてリヤ側もそのままでは危ないので、切り口の折り曲げ加工をするなどしているそうです。

ぜひレストアを楽しんでもらいたいと思っています

レストアを楽しんで

ここまでかけ足で旧車レストア編のダイジェスト的な内容をお届けしてきましたが、いかがでしたか? 実際にレストアを手がけているという人には実感できるようなことも含まれていたんじゃないでしょうか。文中で触れているように"辛いこと"や"大変なこと"が発生したとしても、せっかく好きで始めたんですから楽しくやり遂げてもらいたいと思っています。なにかトラブルが起きれば対処するのにお金や時間がかかってしまうこともザラですから、どんどん気持ちがマイナス方向になりやすいんですよ。だからこそ楽しくやれるように気持ちをケアしながら続けていってほしいんです。場合によっては当初立てた計画とレベルが変わってしまってもいいんですからね。レストアのレベルを下げることで気持ちがラクになるケースもあるので、無理しないで楽しんでやり遂げることを一番に考えてください。

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