BBB MAGAZINE
CREDIT
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- ライター
- 執筆
隅本辰哉
-
- 撮影
隅本辰哉
-
- バイク
Vespa
今回はスモールのネタです。「え? スモールなのに旧車レストア編なの?」という声が聞こえてきそうですが、スモールの最初期モデルを自らレストアされたという方からレポートを寄せていただいたんです。
そんなワケでスモールを復元していく過程をご覧いただければと思います!
別名"sportellino piccolo"は小型フラップの意/ベスパ50
さて、冒頭で触れているように「大人のたしなみとしてベスパに接してみよう!」にレストア記を寄せてくださった方がいます。その方はVESPA CLUB MIYAGI・相澤直哉さん。本格的なレストアは今回が初めてだったということですが、ボクのほうで内容を拝見したときに「このレストア記を多くの人に見てもらいたい」と感じたことから打診。その結果、意を汲んでいただき寄稿していただくことができた次第です。
実はですね、相澤さんがこのレストアを通じてとても熱心に勉強されたんだろうということがうかがい知れる取り組みと、なにより明確なこだわりポイントがあって、その行程もかなり深く追求されているところに感銘を受けたんです。
そんな相澤さんの手を付けたレストアベースはベスパ50で、「スモールで遊ぶ編」のON/OFFそれぞれのレーサー製作で大活躍の50Sのご先祖様となるモデル。1963年に登場したモデルですが、レストアベースとなったのはまさにその最初期モデルである1963年式だと言うのでそこも注目ポイントです。
このベスパ50における最初期モデルとは"初期型"を意味する「prima serie(プリマセリエ)」という通称で呼ばれることが多く、エンジンを覆う右サイドパネルに小型のフラップを装着しているという特徴があります。
そして最も注目すべき点だと捉えているのが相澤さんの塗装へのこだわりだったりしますので、そうした部分にもおいおい踏み込んでいきたいところです。
ベスパの父・Corradino D'Ascanio
Corradino D'Ascanio(コラディーノ・ダスカニオ/1891年2月1日-1981年8月5日)
航空機などを製造する巨大メーカーだったピアッジオは、第二次世界大戦の打撃により存続の危機にありました。そこで社運をかけたスクーター製造業に乗り出していきますが、戦火を逃れた航空機生産ラインで作れ、女性が足をそろえて乗れることを開発テーマとしてプロジェクトをダスカニオに一任します。そこでダスカニオは航空機産業の技術だったモノコックを応用したり、女性が足をそろえて乗車できるステップスルーを採用したり、当時の舗装状況を考慮してカンタンにタイヤ交換可能でスペアタイヤも搭載するパッケージを実現します。とくにエンジンにリヤタイヤを直結させる構造としたことで、2輪車の動力伝達として一般的だったドライブチェーンを廃止。乗り手にとって油汚れも跳ね上げによるしぶきなど(フロントレッグシールドの効果)も気にすることがない乗りモノとして1945年にプロトタイプを完成させ、翌1946年には量産市販モデルをリリース。これがベスパの始まりであり、コラディーノ・ダスカニオをベスパの父とする所以なんです。さらに今回相澤さんがレストアに取り組む最初期型50ですが、そんなダスカニオが最後に手がけたモデルというところも感慨深いところだったりします。
天才技師と評されたコラディーノ・ダスカニオは1930年10月に世界初の実用ヘリコプターを開発し、ノンストップで直線距離1078.6mの飛行に成功。同時に高度18m、滞空時間8分40秒を達成するなど当時3種の世界記録を樹立しています。
キッカケとモチベーション維持
ここからは相澤さんがレストアを始めようとした経緯などに触れていきたいと思います。相澤さんがまだ免許取得間もない16歳だったころ、初めてのベスパとして50Sを手に入れたそうです。実は相澤さんはかつてオールディーズ系のライブハウスでボーカルを務めていた元バンドマンで、そんな相澤さんが10代のころにあこがれだったロックンローラーの先輩がベスパに乗っているからということで手に入れたのがこの50S(Photo a)なんです。それである時、車体に付属していたオーナーズマニュアルを見ると、とあるページ(Photo b)で「オレのとはなんだか違うなぁ......」と感じたそうです。
その違いが気になって調べてみると件のページで撮影されたモデルは最初期型50だということがわかり、いつかその最初期型50を手に入れてみたいと思うようになった相澤さん。手に入れてあることをやってみたいという密かな野望を抱くも、個体が少ないレアモデルだけにチャンスが訪れるのを待つしかありませんでした。 そうこうしている間に時は経ってしまいましたが、2010年3月にようやく念願だった最初期型50を手に入れることができたそうです。ただしほぼ全バラ。......そう、つまり手に入れる段階でレストアを余儀なくされていたワケです。 いざ手を付け出してみて驚いたのが欠品パーツの多さだったそうで、その多さに心も折れてしまい、その後長期間の放置プレイに突入してしまいます。この辺はこれまでの記事中で散々言い続けてきましたが、レストアについて回るトラップのようなものだったりします。相澤さんも、まんまとトラップに捕らわれてしまったということです。
話は違いますが、よくタンデムをするくらい相澤さんの当時まだ幼かったお嬢さんがベスパ好きだったんです。そこでお嬢さんが免許を取れるころまでに「この最初期型50を仕上げておきたい」と思うように......えっと、親バカ発動ですね。というか、ベスパ好きのお父さんなら誰もが抱く夢なんでしょう。 それでもこの夢のおかげでモチベーションが復活し、いっそ最初期型50の50周年である2013年にレストアを終えられるようにと奮起するキッカケとなったそうです。2013年を目標に頑張れば、その後やってくるお嬢さんの免許取得にもタイミング的に間に合うという目論見です。 かくして相澤さんの"密かな野望"の方は心の奥底にしまい込み、"お父さんの夢"の方はチラチラと見え隠れさせながら、いよいよ最初期型50のレストア記がスタートすることになったんだそうです。
ベスパ初の50ccモデル誕生の背景
最初期型50の登場は1963年です。実はこのころに変更されたイタリアの新規制に対応すべくコラディーノ・ダスカニオが手がけたモデルでした。けっきょくダスカニオはこの最初期型50の設計以後、Newモデルの設計や開発には参加することがありませんでした。
新規制では50cc超の2輪車にナンバープレートを義務化することが定められ、14歳以上ならば免許なしで50ccに乗ることを許されていたことにピアッジオ(ベスパの製造メーカー)は着目。この新規制をかいくぐるように登場した最初期型50は、ピアッジオの思惑通り大ヒットで市場の若者に迎え入れられました。
最初期型50はベスパにとって初の市販50ccモデルだったので、完全な新開発モデルだったことは言うまでもありません。シリンダーを45°傾斜させたエンジンはあえて適度な出力に抑えられ、結果的に汎用性と信頼性が非常に高いものでした。通称でスモールフレームと呼ばれるモノコックボディも、それまでにラインナップされた他モデルより遥かに小さく軽量。そしてエンジンを覆う右サイドパネルにフラップと呼ばれるアクセスドアがあり、これによってエンジンヘッドまわりへのアクセスが容易でした。なお当初のフラップは小さく、早々に大型化されてしまったことから最初期型はレアモデルとされています。
今回はこれにて終了!
さて今回から旧車レストアの企画に、VESPA CLUB MIYAGI・相澤直哉さんによる「レストア寄稿-プリマセリエ編」を組み込んで新展開です。いかがでしたか?
レストア記の具体的な進行などは先送りとしましたが、「スモールで遊ぶ編」の主役たる50Sのルーツでもある最初期型50誕生秘話についてちょっとだけ触れることもできました。それに相澤さんがレストアを始める動機なんかも、全国のお父さん的に興味深いものがあったんじゃないでしょうか。寄稿とはいえかなりの加筆と修正を加えさせていただいておりますけれど、この先のレストア記自体はなるべく相澤さん本人の寄稿文で構成していくつもりです。どうぞお楽しみに!
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