BBB MAGAZINE

  • 大人のたしなみとしてベスパに接してみよう!

    2016.08.01 / Vol.26

    レストア寄稿-プリマセリエ その2

CREDIT

    • ライター
    • 執筆

    隅本辰哉

    • 撮影

    隅本辰哉

    • バイク

    Vespa

前回からスタートした「レストア寄稿-プリマセリエ編」ですが、今回も引き続きその第2回目をお届けします。第1回目はプロローグ的に最初期型50の誕生秘話、生みの親たるコラディーノ・ダスカニオの紹介などで構成しました。 そしていよいよ今回から、寄稿者・相澤さんによるレストア作業の始まりです!

いわゆる順を追ったレストア記とは違うんです

ピアッジオがプロモーション用に作成したカレンダー
60年代当時、ピアッジオがプロモーション用に作成したカレンダーにもベスパ50が使われていました

さて、ある意味でここからが本編スタートということになりますが、最初にお断りしておきたいのが手順を追っていくのとは異なる構成だということです。通常のレストア記だったら構成に合わせて必要となる撮影を進めていきます。そして内容的にも「こうやってレストアが完了しました」という流れまで記事化することで、仮に読者の皆さんが自身で作業する際の参考となるようなものを作っていくのが基本です。もちろんテーマが違えば構成も内容も変化させたりしますが、レストア記事として作業中心に作るのなら基本形はこういった内容で作られることが多いでしょう。

ところが「レストア寄稿-プリマセリエ編」は寄稿者である相澤さん自身が某SNS内の日記機能を使って限定公開していたものであり、全8回の各パートごとに「今回こういことをやりました」といった内容となっています。なので全体を通した流れや手順というものではありません。ただし相澤さんが気になったポイントを掘り下げていたり、塗装に対するこだわりをちょいちょい挟み込んでくるところに共感すべきポイントを多く感じられるんです。

そもそもレストアには絶対の手順なんてないですからね。パートごとであれば先にこれをやらないと組み付けられないといったこともありますが、フロントからでもリヤからでも、ボディ回りからでもエンジンからでも、自由に好きなパートから始めちゃって良いワケです。それよりも「使うパーツは本当に正しいものなのか?」だったり、「色は正しく調合できているか?」が判断できるような正しい知識を得ることのほうが重要です。加えてそれを新車としてラインオフされた当時よろしく新品パーツで組み上げるのか、経年劣化まで加味して"ヤレ感"を重視しながら組み上げるのかによって集めるべき部品なども差があるワケです。

それではここから、VESPA CLUB MIYAGI・相澤直哉さんによる「レストア寄稿-プリマセリエ編」の本編をお届けしていきます。

手始めに手を付けた箇所......それはサドルシート

Photo-a
Photo-A
Photo-b
Photo-B
Photo-c
Photo-C

2013年1月7日、「VESPA CLUB MIYAGIの仲間の一人による漢らしいレストア日記に触発され、日記書きます」といった書き出しで相澤さんのレストア日記がスタートしています。
以下はそんな相澤さんが始めたレストア日記「愛しのプリマセリエ」から、可能な限り原文のままとした転載記事となります。
昨年後半より、スモールフラップのレストアを再開しました。2010年3月に全バラ状態で手に入れ、しばらくは陰でコソコソと地味に作業しておりましたが、 あまりの欠品パーツの多さに心が折れ、その後長期間放置プレイだった車両です(苦笑)。

でも時間が経過し過ぎるとロクな事ないですね。 ......3年前にバラしたものが何のパーツだったのか、今ではすっかり忘れてますから(汗)。
当初の予定ではうちの娘が16歳になる2015年完成を目指していたんですが、気付けば今年は2013年(!)。私の車両でもある最初期型50が誕生からちょうど半世紀となる節目の年です。欠品していたパーツも一通り揃ったので、年内中にどうにか気合いで仕上げたいと思っております。
ところでこの最初期型50ですが、イタリア本国での愛称は"Prima Serie"または"Sportellino Piccolo"と呼ばれています。 偉大なるベスパの父であるコラディーノ・ダスカニオが手掛けた最後のモデルであり、とくに1963年の登場から数年間、マイナーチェンジを受ける前までの50と90のモデルを指します。要するに日本でも80〜90年代に大ヒットしたビンテージシリーズの50Sや100にとって、直属のご先祖様に当たるモデルとなるワケです。

ところがそうしたその後の子孫的モデル、とくに再生産モデルと比較してみると全く違っているところに驚きを隠せません(!)。でもそこが悩みの種でもあると同時に所有する喜びでもあります。
ちなみにPrima Serieを訳すと「第一のシリーズ」という意味です。 なので例えば160GSのMk-1もPrima Serieな訳です。こうやって興味あったり疑問に思うことをちょっと調べてみたりすると勉強にもなりますね。

さて、今後我がレストア道の模様を随時お伝えしていこうと思っているのですが、まずは先日手に入れたオリジナルシートから。......ご覧の通りなんとも言えないヤレ具合(Photo-a)のラブリーコンディションでしたが、今回はフルレストアなので思い切って手を付けることにしちゃいます。硬化したカバーを外すと、独特の香しき異臭が鼻孔を刺激します(笑)。骨格部分はうっすら浮き出たサビと共に半世紀を生き抜いてきた誇り......じゃなくて埃まみれですな(Photo-b/Photo-c)。うーん、これだけで丼飯×3杯はいけちゃいそうですね。
さて、この汚い骨格部分(Photo-d/Photo-e)をブラスト処理して磨き上げてみることにします。そして、処理後にシルバー塗装したものがこちら(Photo-f/Photo-g)です。いかがでしょうか?

Photo-d
Photo-D
Photo-e
Photo-E
Photo-f
Photo-F
Photo-g
Photo-G

スモール用サドルシート

スモール用サドルシート1
スモール用サドルシート2

相澤さんはレストア作業を進めていく中でサドルシートの違いに気付き、その細かな差異まで気になってしまったようです。同じように見えるソロタイプのサドルシートですが、並べて写真を取ったことでその違いも浮き彫りにされています。日ごろ中々目にする機会のないサドルシートの骨格部分の違いとなるので、これは良い勉強になりますね。そんなサドルシートの骨格部分を相澤さんとしては3種に分類しています。

1型/1963〜マイナーチェンジされる前(*1)まで、2型/マイナーチェンジされた後(*2)〜1960年代後半くらい(*3)、3型/1970年代以降(*4)〜再生産モデルまで。ちなみに3型はVBB系(旧車レストア編でお馴染みのVNB2などと同年代くらいの150cc版)と同型のサドルシートで、リプロパーツとして手に入るスモール用サドルシートはこのタイプなんだそうです。なお1型と2型についてはリプロパーツの設定がなく、見た目の違いも少なそうですが、裏側から見れば実は造りが全く異なることがわかります

※注)*1〜*4は相澤さん調べによる判断。相澤さん自身が見てきたり購入してきた結果として、だいたいの変化を絞り込んだもの。この判断に行き着くまで、かなりの数を見たり買ったりしてきたことは言うまでもありません。そもそもマイナーチェンジレベルの変化についてはメーカーによる公式の発表などもとくにない場合がほとんどのため、相澤さんのように多くの経験から判断していくしかないという現状です

好きだから黙ってられない......フライホイールカバー

Photo-h
Photo-H

ここからは相澤さんのレストア日記・第2回からの転載記事です。この回で取り組んだテーマはフライホイールカバー。さて、いったいどんな内容なのでしょう?
今回のメインとなるフライホイールカバーをご紹介します。まずは車両を入手する前に手配したエンジンの写真(Photo-h)からご覧ください。鉄製のシュラウド(効率よくエンジンを冷却するためにシリンダーやヘッド周りを覆うクーリングカバーのこと)と、何よりこのフライホイールカバーを見て車両購入を決意したのです。 このフライホイールカバーは最初期の50/90に採用されていたタイプで、後継モデルである50S/100の取説にあるプラグ交換の掲載写真(Photo-i)でも確認できます。

Photo-i
Photo-I
Photo-j
Photo-J
Photo-K
Photo-K
Photo-L
Photo-L

この最初期モデル用のフライホイールカバーは早々に2ndバージョンへとデザイン変更されてしまったため、実はかなりのレアパーツなんです。その2ndバージョンはリプロパーツでの入手が可能で、90SSなどにも受け継がれるデザインのようです。
それで3年前の入手当時に喜び勇んでフライホイールカバーをレストアしたんですが、現物はとにかく歪みが酷く、パテのてんこ盛りによる成形ではプレスラインも巧く出せず。......結果として苦渋の判断ではありましたがレストアを断念。それからは同型のフライホイールカバーを海外オークションなどで探し回ったのですが、全く見つけることができないまま月日が流れてしまいました。今思えば、この挫折こそがレストアを一時中断させた最大の要因だったワケです(苦笑)。

ところが昨年9月末ごろ(2013年1月12日の日記なので2012年9月末ということになります)になって、ついに同型のフライホイールカバーを海外オークションで発見! もちろん即行でGETしました。
この新たに入手したフライホイールカバーについては前のものに比べて格段に状態が良く、ブラスト処理&板金+薄付けパテで無事再生(Photo-j/Photo-k)することができました。思えばフライホイールカバーの再入手で意欲やモチベーションを持ち直すことができ、それによってレストア作業のほうも再開させるに至った最大の要因なんですよね(笑)。

ところで、プリマセリエが以降のモデルと大きく異なるのはフラップだけではありません。 実は肝心のエンジン本体も大きく異なります。再生産モデルのフライホイールカバーとの比較写真(Photo-l)では、プリマセリエ(最初期型50/写真左)のものが再生産モデル(写真右)と比べて"小さい"ことがわかると思います。つまりフライ周辺の造りに差があり、一回りほどサイズの違いが発生しているということになるワケです。
なんだか目を付ける箇所が益々マニアック化しているような気がしますけど、当時のパーツを修復しつつ、多くの検証と共に真実を探求できるのもレストアの醍醐味ですね。

リヤサスをどうするか......

リヤサス1
リヤサス2

相澤さんのレストア作業は同時進行でいろいろやっているらしく、今回もフライホイールカバーにあれこれ手を付けるのと同時進行でリヤサスの作業も始めていたようです。元々装着されていたリヤサスは酷く汚れてはいたものの、抜けもなかったので再生する事にしたとのこと。ただカチコチに固まっていた泥やこびり付いたサビも落とし、一通り綺麗にするまではかなり労力のいる大変な作業だったそうです。
写真左)見た目が酷く無難にリプロパーツを使う気だったそうですが、サスペンション機能にダメージがなさそうだったので再利用を決めたそうです。そして資料で黒染めだとわかり、市販の黒染めスプレーで仕上げたとのこと/写真右)再利用の決め手は泥汚れの下に現れたピアッジオエンブレムの刻印。相澤さんは「遺跡を見つけた考古学者の気分!」と言うほど、純正オリジナルの証となる刻印に気持ちが高ぶってしまったようですね

今回はここまで!

レストア寄稿-プリマセリエ編

さて今回は「レストア寄稿-プリマセリエ編」の第2回目でしたが、冒頭でお断りしているようにレストア手順を事細かに紹介していくようなものとはなっていません。それでも相澤さんが知識を欲して勉強することにより喜びを得て、レストアそのものを心底楽しんでいるということが「当時のパーツを修復しつつ、多くの検証と共に真実を探求できるのもレストアの醍醐味ですね」といった発言から伺い知れますね。
実はそういった相澤さんの"楽しむマインド"みたいなものも、レストアには不可欠なんだと感じていただければというのが寄稿していただいた理由の一つだったりもするんです。やはりせっかくの趣味ですし、大好きなものを復元していくんですから苦労を苦労と思うんじゃなくて、ぜひ楽しみや喜びに変えて取り組んでいってほしいなと願っています。

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