BBB MAGAZINE
CREDIT
-
- ライター
- 執筆
隅本辰哉
-
- 撮影
隅本辰哉
-
- バイク
Vespa
アクリルラッカーという選択について
今回のレストア記では塗装も自分で行う計画だとしている相澤さんですが、使う塗料は一般的な2液ウレタンと異なる"アクリルラッカー"なんだそうです。この"アクリルラッカー"という塗料は1960年代当時の車両に使われていたものなんですが、相澤さんのこの選択についてはご自身が「おそらく賛否両論でしょう」と言っています。その理由について「一般的に見て、今やウレタンが当たり前ですから」とも。それでも相澤さんとしては周囲の仲間たちとヴィンテージスクーターのレストアに際して、塗料はウレタンかラッカーかで大いに熱い議論が繰り広げられていると言っています。
ただ相澤さんが過去にレストアしてきたベスパは全てウレタン塗装なんだそうです。それなのに今回の塗装でラッカーを選択する気になったことを「あのウレタンのテロ〜ンとした塗り肌は何とも美しく磨き甲斐のある色艶なんですが、VB1(1957〜58年式の150ccモデルで相澤さんの現在のメイン車)を手に入れ、オリジナルコンディションの旧車を数多く目にした今では、経年で劣化したラッカーの塗膜は単なるボロではなく、一つの芸術のように感じています」だと言い、そんな味わいすら感じられるラッカー塗装に気持ちが傾いてしまったようなんです。
この、塗料がラッカーからウレタンに変わった時期というのは1970年代中頃〜80年代あたりだそうで、 それまでは全てラッカー&ポリッシュ仕上げという工程だったことからとにかく大変だったとか。それでも相澤さんの気持ちはすでに"ラッカー"LOVEだったため、思い切って以前からお世話になっているという板金屋の社長さんに相談してみたんだそうです。すると「やめといたほうが良いなぁ……。ラッカーは塗膜が薄くて黄変する。それにヒビ割れもするし、良い事ないから……」と、けっこう辛口意見だったそうで「ウレタンは塗膜も厚いし、耐油性だって抜群。磨けばいつまでも新車同然の輝きだよ」とまでクギを刺されてしまったそうです。でもそんなアドバイスを聞いた相澤さん、「ですよねー。それじゃ、やっぱラッカーでいきます♪」と返事しちゃったと言うんですから、これは相当なこだわりを持って挑んでいるとしか思えませんね。
ガンガンに塗りまくる!
ここからは相澤さんのレストア日記・第4回からの転載記事となります。ただしこのパートはレストア日記・第3回からの流れで、ラッカー塗装により仕上げられた各種パーツ類のお披露目的な内容構成となっているので、それに習ってサクサクと仕上がり具合をご覧いただこうと思います。
さて、アクリルラッカーで塗ったパーツがいろいろと仕上がってきていますので、それらをお披露目したいと思います。……が、その前にちょっと余談になりますけど知人からラッカーについての質問がありました。これについては言葉で説明するのが面倒な部分もあったので、ウレタン仕上げのフラップとラッカーで仕上げたフラップとを持参して違いを見比べてもらうことにしました。その結果、一目見てウレタン派からラッカー派に鞍替えされたようです。ラッカー塗装は、それだけ魅力のある仕上がりなんだと言えるんじゃないでしょうか。余談ついでにボクの塗装の師匠となるのがこちらの動画(https://youtu.be/gleAQG4f564)です。
それではここからがお待ちかねの仕上がり披露となります。まずはテールです(Photo-11)。 塗装後にポリッシュすると、まるでNOS(New Old Stock/新品だけれど古い在庫)の様な風合いに仕上がりました。塗面を接写するとこんな感じです(Photo-12)。ラッカーの塗膜はウレタンに比べ格段に薄いので、地のモールドをくっきりと引き立たせているのがお判りかと思います。
次はフラップです。元色の参考にしたフラップも容赦なくオリジナル塗装を剥ぎ(Photo-13)、ブラスト処理後に手作業による板金と薄付けパテで修正。そこに塗装を施してみると、50年前の姿が甦ったんじゃないでしょうか(Photo-14)。フラップの裏面はオリジナル同様(注2)、磨かずに結構いい加減に仕上げました(Photo-15)。過去の経験上、プロにお願いするとどうしても裏側までバッチリと仕上げられちゃうんです。そうなると違和感があるので、当時のピアジオ生産ラインの"ファジー感の再現"には、自分で言うのもなんですがかなりこだわってます。
さて、少しまとめていきましょう。再開のキッカケとなったフライホイールカバー(Photo-16)。ガソリンタンク(Photo-17)は最初期型だけ以降のモデルと比べて一回り小さく、また矢印で示したモールドが短い(給油口と同じ位置)といった特徴があります(Photo-18)。裏面はもちろん、フラップ同様にファジー塗装で仕上げました(Photo-19)。あとタンクのキャップもバラして塗装しました(Photo-20)。当然タンクガードも(Photo-21)。
続いてフロントブレーキドラム(Photo-22、Photo-23)ですが、オリジナルと同じパターンで再塗装しました。9インチホイール(Photo-24)も塗装しましたが、こちらはリプロのホイールです。オリジナルが2本残ってるんですが、まずは練習用に塗ってみました。
ラストはヘッドライト周りです(Photo-25)。いやー、このパーツは仕上げるのに散々苦労しました。基本的に曲面なので、磨いているとすぐに下地が出てしまうんです。それでその度に何度も何度もやり直し、ようやく満足のいく仕上がりになりました。早速ですがメーター・スロットル・シフト周りを組んでみました(Photo-26)。うぅ、たまらんぜぃ(笑)。
注2)1960年代当時のことをよくよく調べていくと、裏側などの通常は見えない箇所への塗装は下地のままだったり、いい加減としか思えないようなざっくりとした塗装だったり、塗りっぱなしで触るとザラザラしていたりと、およそ現代の仕上げ方を基準に考えるとウソみたいな事ばかりだったりします。そこまで忠実に再現するとなると元の状態がどうだったのかを知る必要があり、知らずに裏側までキレイに仕上げてしまえばどうにも違和感の残るものとなってしまうワケです
シフトポジションインジケーターの新発見
今回の塗装工程において、なにやら驚愕の新発見があったそうです。 それはヘッド周りの作業途中のことだったそうですが、相澤さんによると、シフトに刻まれたニュートラル位置を示すモールドが「ー」となっているということで(Photo-あ)、これを"重大な事実"であるとしています。
そもそもベスパのハンドチェンジ機構とは左グリップ部を回転させてシフトポジションを変化(変速)させる構造なんですが、このときに回転させる目安というかシフト位置を分かりやすくする目安としてインジケーターを備えています。そのインジケーターで、通常ニュートラル位置は「・」で示されているものばかりなんです。もちろんネットの画像を漁ってみても、ベスパ50のインジケーター部はニュートラル位置が「・」のものばかり。例として用意した写真(Photo-い)は排気量こそ125ccでベスパ50とは異なりますが、後継のシリーズとして登場したモデルのもの。やはり1速と2速の間にあるニュートラル位置は「・」で示されています。
ほかにも登場から2年目となる1964年式のベスパ50を確認してもニュートラル位置は「・」です。ところが相澤さんの所有車両に関してはニュートラル位置が「ー」となっているのです。これは確かに"重大な事実"と言えそうです。
そこで例によって"相澤調べ"です。どうやら最初期型を意味するプリマセリエの中でも、さらに極々最初期のモデルだけにこの刻印が採用されていたんだそうです。そういう意味でもレア度がさらに増した相澤号、今後の展開とさらなる"相澤調べ"に期待も高まると言うものです。
今回はこれにて終了!
さて今回は「レストア寄稿-プリマセリエ編」の第3回目をお届けしました。寄稿者である相澤さんにとってのこだわりどころでもある塗装に関する項目でしたが、いかがでしたか?
小ネタ的なこと、ラッカー塗装とウレタン塗装について、驚愕の新発見ネタ……などなど、今回も盛りだくさんな内容でしたね。
ほかにも多くは触れていませんけど、曲面構成のヘッドライト周りは磨くことで下地が出てしまうため、何度も何度もやり直してようやく満足のいく仕上がりになったとしています。これってけっこうなこだわりですよね。納得のいくところまで、繰り返して作業するというのもレストアで欠かせない事だと思うんです。やり遂げた達成感と満足度が一番のご褒美なワケですから、こだわればこだわるほどご褒美は大きなものとなるハズです。ただし度を越えてしまっては手に負えなくなってしまうケースだってありますから、そこはほどほどにしておきましょう。
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