BBB MAGAZINE
CREDIT
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- ライター
- 執筆
隅本辰哉
-
- 撮影
隅本辰哉
-
- バイク
Vespa
レストアについてはすでに作業も完了している「プリマセリエ編」ですが、今回は最終回として相澤さんの最もこだわっていた塗装に関する話題をお届けしていきましょう。
しかも相澤さんのほうでこだわりの内容について、エッセイとしてまとめて下さいました。それをほぼ原文のままご覧頂くことにします。なんとベスパからギターにまで話題が及んでいるようなんです!?
相澤さんの思い
2013年のVespaBRUNCH(毎年秋に開催されるベスパフリークの祭典)に持ち込まれて以来、久しぶりとなる2016年のVespaBRUNCHに持ち込まれたプリマセリエ。ここで相澤さんとも再会を果たすことができました。
前回、ついに完成までこぎ着けたプリマセリエ・相澤号。オーナーであり自らレストアを施した相澤さんにとっては、「僕が初めて50Sを手に入れた16歳当時、オーナーズマニュアルに掲載されていた写真(Photo-1)を見て発売当時のモデルが自分のベスパと違うのを知りました。それ以来プリマセリエは憧れの1台であり、入手してからはその写真と同じポーズで写真を撮るのを目標としてレストアに励みました。それで、最終的にこの写真(Photo-2)に辿り着く訳です(笑)」と言うほどの思い入れを持って挑んでいたワケです。
そもそもプリマセリエは2010年3月に、全バラ状態で手に入れたとのことでした。ただしパーツの不備が多かったことから、まずは必要となるパーツを揃えるところからスタートしています。ところがそんな最中に東日本大震災が発生してしまい、 とてもレストアどころではなくなり結果的に2年近くも放置し続けてしまいます。そんな状態から一念発起し、2012年も押し迫る頃にレストアを再開。なぜこのタイミングなのかは、「プリマセリエが誕生してから半世紀を迎える2013年中に、満50歳を祝う意味で当時の姿に復元してあげたいという思いから」なんだそうです。
エアフィルターBOXのモールドデザイン
最初期型50のキャブレター用エアフィルターBOXのフタのモールドが「X」状(Photo-あ)となっているのがわかると思いますが、これは1950年代のモデルに採用されていたデザインと同形状なんです。当時のパーツリストの図版でも「X」状である事が確認出来ます(Photo-い)。ここで相澤調べの発動ですが、その後の1964年には簡素化されたタイプ(Photo-う)に変更となったようなんです。これについて「理由はわかりませんが、こういった変化を検証出来るのも面白いです」と、相澤さんは言っています。
時代毎の塗料の変化
相澤さんの思い、そしてこだわりの1つ目を前項で再確認しました。でも相澤さんにとって、より強いこだわりなんだろうと思えるのが実は塗装だったりします。そこのところを相澤さん自身が文章に書き起こしてくれましたので、ここからはそんな塗装へのこだわりについてエッセイとしてご紹介していこうと思います。
......10年ほど前、東京ヴェスパ(旧店舗:浅草パーツセンター)のショーウィンドウに飾られていたノンレストアの1959年式150GS(Photo-3)を見た。
その独特の雰囲気と表現しがたいオーラに強いショックを受けた。
東京ヴェスパの先代社長である石原さんから、その150GSの由来などをいなせな江戸弁で丁寧に説明して頂いた。
その話の中で、塗料が現代のものとは全く異なるという事をレクチャーされた。
「今の塗料じゃ、50年経ってもこうはならねえんだ」 ......そう聞いたのを憶えている。
当時の僕はフルレストアしたばかりの1959年式150VBA(Photo-4)を所有しており、その時点ではウレタン塗装で磨き上げたベスパが一番だと思っていた。
しかし2007年にオリジナルコンディションの1958年式150VB1(Photo-5)を手に入れた。
それ以降、経年劣化でヤレたオリジナル塗装の150VB1に強く惹かれるようになった。
その風合いはまさに、東京ヴェスパで目にした150GSと同じく"時代を生き抜いてきた"という独特のオーラを放っていた。
2008年に宮城で開催したVMJ(*注1)を機に他県のベスパ仲間も増え、またベスパブランチで多くの車両を見比べる機会が一気に増えた。
ところが、ついつい見入ってしまうのはオリジナルコンディションの車両だった。
2液ウレタンで隅々まで丁寧に塗られ、ピカピカに磨き上げられたベスパ(Photo-6)は確かに美しい。
しかし、何故か僕はすぐに見飽きてしまう。
美人は3日で飽きるというが、まさにそれか。
一方ノンレストアのベスパは、パッと見ボロでも見れば見るほど魅了される深い味わいがある。
僕はその違いの理由を考えた。
結果......その一番の要因が塗料の違いである事に気付いた。
早速ネットで塗料の歴史について調べたところ、ベスパが誕生した1940年代半ば頃の自動車塗料業界は、乾燥に時間の掛かるエナメルからラッカー主流へと完全に移行していた時期の様だ。
ベスパもおそらく時代背景的に1950年代後半までは当時一般的だったニトロセルロースラッカーで、それ以降は新たに開発されたアクリルラッカーを使用していたのでは? ......と考察するに至った。
なお、現在主流の2液ウレタンは1970年代に入ってから開発された塗料だそうだ。
という事は1950〜1960年代の車両を新車当時の姿にレストアする際、肝心要のボディを2液ウレタンで仕上げるという手法は、ある意味ナンセンスな選択と言えるのではないだろうか......。
塗料の歴史と移り変わりを調べていくうちに、僕はそう強く感じるようになっていった。
(*注1):VMJとは各地のベスパクラブがホスト役となって開催されていたVespa Meeting Japanというベスパクラブの全国大会のこと。残念ながら現在は開催されていない
ウレタンorラッカー
さて、僕自身もそうだがVCM(*注2)内のビンテージスクーターを愛するメンバーの殆どがオリジナルに拘る。 リプロパーツでも極力オリジナルに近い質感を求め、経年を再現すべく新品パーツを削ったり錆びさせたりは至極当然のこと。 NOS(*注3)のパーツがあればそれをネタに小一時間も話が盛り上がるような、興味がない人からすれば只の変人の集まりに見えるかも知れない。 しかし、それが真の愛好家というものだろう。 ところがそんな僕らの間でも、塗料についてウレタンかラッカーかの議論はほぼ皆無。 しかもレストアする際は、迷わず2液ウレタンで仕上げるのが当たり前となっていた。 ここで話が少し逸れるが、ラッカーかウレタンかで長年熱い議論が繰り広げられている世界がある。 それはエレキギターの世界だ。
1950年代のフェンダー社製ストラトキャスターやギブソン社製レスポールなど、現在名器と呼ばれるビンテージギターは全てニトロセルロースラッカーで塗装されていた(Photo-7〜9)。 その理由はごく単純で、自動車業界と同じく当時ラッカーが最も一般的な塗料だったからだそうだ。 しかしラッカーの特徴の一つとして、塗膜が非常に薄い(厚塗り出来ない)点がある。 この薄い塗膜が母材の木を保護しつつ共鳴して発生した音を最もクリアに出せる最適な塗料であるという事(Photo-10)で、今でもマニアの間ではラッカーが最もギターに適した塗料として広く認知されている。 一方、現在5万〜20万円台で買えるエレキギターはがウレタン塗装が一般的(Photo-11〜13/*注4)。 ウレタンの特徴はラッカーとは反対に容易に厚塗り出来る点。 厚塗り後にポリッシュする事で、安価ながら均一な品質の商品を大量生産出来る。 また塗膜はラッカーに比べて格段に強く、乾燥後の劣化は殆ど無い等の理由から現在多くのメーカーがウレタン塗料を選択している(Photo-14)。 ちなみにウレタンでも薄めに塗装すればラッカーに負けない良い音が出るらしい。 それでも今なお根強いラッカー信奉者が数多くいる。
その理由は、ラッカーがエレキギターの黄金期と言われる1950〜1960年代に実際に使用されていた塗料であったという事実。 それと経年劣化で発生する塗膜のヒケや黄変、温度差によるクラックの発生といったウレタンでは見られないラッカーの持つ弱点(Photo-15)が、逆に個体の味わいとなり魅了されるからだそうだ。 そんな訳でビンテージギターマニアが愛器をリペア(レストアと同意語)する際、ラッカーで塗られたボディをウレタンで塗り直す事はまずありえない。 もしそんなリペアをしたら、音の劣化うんぬんよりも愛器の価値が格段に下がってしまうのが明白だからだ。
(*注2):VCMとは世界規模のオーナーズクラブに加盟するベスパクラブジャパンに属し、宮城県を本拠地とするベスパオーナーズクラブのこと。VESPA CLUB MIYAGIの略で、相澤さんも所属
(*注3):NOSとはNew Old Stockの略で、未使用のまま古くなってしまった新品を指す。つまり新古部品やデッドストック品などと表現されるパーツに用いられることが多い
(*注4):ウレタン塗装の一例として相澤さん自身が所有するグレッチ6120というモデル。1955年モデルのレプリカで、より忠実なスタイルへとカスタム済み
1959年式グレッチ6120/Susumu Nakagawa
1955年レプリカ仕様グレッチ6120/Naoya Aizawa
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