BBB MAGAZINE
CREDIT
-
- ライター
- 執筆
隅本辰哉
-
- 撮影
土田和寛
-
- バイク
Vespa
モデナのメンバーとツーリング
翌朝。この日はFabioさんの仲間たちが集うTigelle Meccanicheのメンバーと共にモデナの外れにあるプライベートミュージアムの見学、トスカーナの景色を楽しみながらツーリング&ランチというスケジュールでした。事前の打ち合わせではベスパを私に貸してもらえる予定でしたが、エンジントラブルにより借りる事が出来なくなり、Tigelle Meccanicheの会長であるGialloさんの後ろに乗せてもらう事になりました。
まずFabioさんと昨夜お会いしたIlarioさんが、私の滞在するホテルへ迎えに来てくれました。このIlarioさんという方が、実はすごい方なんです。Fabioさんからは「仲間に8万キロを走り切ってしまう男がいて、ニューヨークを出発した後サンフランシスコに行き、そのまま南の端まで走破。そして再びニューヨークに戻ってきた時にそのベスパが壊れたんだ」と。そんな話を聞いていると膨らませすぎではって思ってしまいますが、いざ本人を目の前にするとやはり感じ方は違います。それにこの時彼が使用した車両は、その後ポンテデーラのミュージアムに展示されているので、旅の様子を見る事も出来ます。
そんな2人と、彼らがよく集合場所に使っているのだろうと思われるカフェに到着。街道に面したお店の前は比較的広い駐車場になっていて、バイクが何台集まってもあまり迷惑がかからないと思われる場所。私の住む東京ではこのような場所が少ないので、こういうのを見るととても羨ましく思います。
そのカフェにはすでにメンバーの何人かが集まっていて、直ぐに私の事を歓迎してくれました。自分達のクラブのステッカーにイベントグッズなどを見せてもらったり、記念にもらったり。私もお礼にと、日本から持参したグッズを渡します。あっという間になくなりそうで内心はドキドキでした。こういう時に彼らの顔と名前と車両を一致させるのが真っ先に行う事で、やはり自己紹介が有効です。
カフェでは、朝ごはんにチョコレートのついたクロワッサンとエスプレッソを頂きました。会話の中で「イタリアにだってマクドナルドはあるけれど、皆そのくらい自分で作るよ」なんだそう。スターバックスはないそうですが、別になくても良いとの事。実際、今回の旅行中はこうしたカフェを多く利用しました。どの街角にもあるカフェでは、コーヒーと焼きたてのパンが揃います。夜はそのままバーとして営業するスタイルなので、カフェを利用する感覚で入りやすいように感じられました。それにチェーン店よりも地元のお店が一番だという意識も働くでしょうし。そうしたところからも古い建物や古い乗り物、自分の国の文化などが残っていくのかなという印象です。
この日はとてもよく晴れていました。彼らの隊列の中に入り込み、この土地をバイクで走れているこの時間。どの旅行もそうですが計画を立てている時、家を出る時、飛行機に乗る時、現地の空港に着いた時、現地のメンバーと合流した時。どの場面よりも、こうして現地の方々と共通の趣味であるバイクでツーリングが出来ているこの瞬間こそが目的の場所に来れたという感激を覚えます。
初めに向かったのはRighini Autoというところの自動車をコレクションしている場所。ここは他にも世界に数カ所だけという電車や船のコレクションも行っているところで、今回案内されたのは彼らの街からほど近い自動車のコレクションをしているプライベートミュージアムです。ただ、事前の情報がなかったので当日のお楽しみという事になっていました。
並木沿いを走っていると、突如現れた城壁の間にある塔のような大きな門。一行はエンジンを止めて、開いた扉の中へとバイクを押して行きました。城壁の中は広い空間の庭と建物になっていて、この場所にどのようにしてどのような自動車が収蔵されているのかこの時点で私は想像出来ませんでした。……と、ここでVespa Club Castelfnco Emiliaの会長であるEnricoさんが奥さんとこの場まで来てくれ、そのおかげで挨拶をする事が出来ました。
自分ではあまり意識していないのですが、自分としてはこんな若いイタリア語もわからない人間が普通にバイク仲間のところまで遊びに行く感覚でいるのですが、この土地ではどの方々もベスパクラブ東京の会長が来たという扱いで接してくれます。これは本当に凄い事だと感じています。
圧巻のプライベートミュージアム
自動車のプライベートミュージアムに話を戻します。こちらを管理している方に中を案内してもらいました。建物には似合わないセキュリティを解除して中に入ると、想像していた自動車のコレクションとはまるで違うものでした。そこにはクラシックというよりも、アンティークという言葉の方がしっくりくる自動車が多く並んでいました。しかしそれほどの古さにも関わらず、どの自動車もボディに埃が積もっていないのと、タイヤはヒビこそ入っていても当時のままの形を維持していることに驚きを隠せません。
ここの管理者は、雇われて集められた自動車の掃除や注油などの手入れを行っているとの事。そしてヨーロッパでは結構古い建物を利用したコレクションがよくあるという話を聞いた事があり、正にこれまで聞いてきたようなものが目の前に広がっているんだと実感させられました。集められた自動車それぞれにヒストリーがあり、それらがヒストリーのある建物の中に保管された姿もまた良いものだと思いました。
さて、並べられた車両を案内人の方がメンバーに説明し、それをFabioさんが英語で私に説明してくれました。1894年のベンツ、1930年のブガッティ、世界で2台しか生産されなかった自動車で唯一現存している1台、ムッソリーニが使っていた1929年のアルファロメオ、3年がかりで僅か3台しか製作されなかったフルハンドメイドのアルファロメオなど、メーカーの博物館にあってもおかしくないほどの自動車が数多く収蔵されていました。そんな片隅にはバイクも多く展示されていて、1949年式のベスパ、ランブレッタも含まれている辺り、やはり外せないんだなと感じる事が出来ました。自動車のことは詳しくないのですが、この場所、この空間はただただとにかく良い空間でした。その後は広いキッチンで皆さんとしばし歓談し、さらに昼食のために移動です。ただ何人かとはこの場所でお別れしました。
プライベートミュージアムを出発し、イタリアの田舎道をひたすら走ってブドウ畑の小高い丘の上まで進むと、今回用意していただいたレストランに到着です。石造りの古い建物で、とても趣のあるレストランでした。
食事を終えて次ぎへと向う途中、道を間違えて教会がある村の見晴らしの良い場所に辿り着きました。朝の天気とは打って変わって空一面を灰色の雨雲が覆い、次第に雨が降り出しました。ちょうど物置の軒下があり、そこに彼らのバイクごと中に入れて雨宿りをしました。雨は一向に止む気配もなく、小雨とはいえ外にいたらびしょ濡れになるくらいの雨です。同じように野良猫も雨宿りをしていたので、イタリアの猫と日本の猫では雰囲気が違うのかなと観察。
するとFabioさんの提案で、私が日本から持ってきた日本のお菓子を皆で食べる事にしました。今回メインのお土産として持っていたのは、どら焼きのような皮を巾着のようにして餡を包んだもの。様々な味があって説明には苦労したものの、皆さんにトライしてもらいました。しかしこちらはちゃんとした(?)お菓子なので、皆さん初めての味でもとても美味しく食べられたようです。
もう1つ私が日本から用意したのが、10円~30円で購入出来る駄菓子シリーズです。しかも最近流行りのものではなく、昔から売っているようなものを用意して行きました。加工されて姿形が変わり味が付け加えられた駄菓子は、日本人ならなじみ深いものかとも思いますが、彼らにしてはどれもこれもイマイチな反応でした(笑)。確かに美味いか? と思えば、子どもの食べる駄菓子ですからそれなりの反応でも仕方がないかもしれません。
ある人は白身魚を加工したものというだけで信じられない様子で食べてもらえませんでしたが、そこは文化や育ちの違いもあるのであまり気にしません。逆に自分が現地で見つけた子どものお菓子も美味しいか? と聞かれると食べ慣れた日本の駄菓子が美味しく感じる事も多くあります。このようにしてバイクの話やイタリアでのベスパクラブの様子を聞いたり、日本のベスパ事情を話したりしながら、こうして駄菓子の試食も交えたりすると、文化や考え方などに国ごとの違いがあるんだとより実感できました。
そうこうしていると雨も止んだので、朝集まったカフェまで戻ってお茶をしながら一休みです。そして彼らとはここで別れる事になり、別れを惜しみながらもそれぞれ帰って行きました。この時ばかりは「本当に私のために集まってもらって……」と、感謝の気持ちでいっぱいでした。おかげでイタリアのバイク乗り、ベスパ乗りという姿を見る事が出来、本当に嬉しく思います。
モデナ最後の夜、次への期待
一旦ホテルに戻ってから夜に再びFabioさんとIlarioさんと近くのバーで落ち合い、モデナ最後の夜を過ごしました。ビールを飲みながら聞き取りにくいイタリア英語を頑張って聞いて、知っている限りの英語で返しました。初めの方で少し触れましたが、Ilarioさんはベスパでの旅好きにして相当なツワモノです。早速(?)、ベスパで日本に行くにはどうしたらいいかというルートの相談をされました。私もイタリアに行くならどのようなルートと手段を使うのが最適か調べたことがあるので、このルートを使うのがいいと説明しました。しかし最後に大陸から日本へ上陸する際に一番コストがかかるため、帰りのフェリーを考えると結構な金額になるというのがどうしてもネックになります。コスト的には往路のフェリーを一回で済ます事の出来るルートが良いと提案してきましたが、そこは紛争地域を通過しなくてはならないエリアでもあるから非常に危険だという説明もしました。それを隣で聞いていたFabioさんは、彼はそのくらい平気な男だと笑っていました。
実際、Ilarioさんは2018年8月にイタリアを出発。まずヨーロッパ最北の岬・ノールカップまで到達し、アフリカ大陸に渡ってそのままアフリカを一周。今現在は世界一周を実現すべく、サウジアラビアを走破している真っ最中との事。その旅の様子はインターネット(http://www.vespanda.com/)で見る事が可能です。
そんなこんな自分では実現には至らないでいた考えが、話の上とはいえ共有出来るだなんて不思議だなと思えてなりません。さらに数年前、自走で日本まで来たイタリア人を知っているかと聞いたところ、噂は聞いた事があるようで、ぜひとも参考にしてもらいながら日本側でもバックアップ出来たら良いなと考えました。
バーでは他に、私の今後の足取りの話になりました。私も移動について聞きたい事がいくつかあったので色々聞きました。どの電車で行くのが費用面でベストなのかなど。するとIlarioさんが「2日後にポンテデーラへ行くなら彼を訪ねると良い。そしてこれを見せなさい」と、私のノートに一筆書いてくれました。彼とはMarco Manzoliという人物で、ベスパワールドクラブの会長です。さらにピサにも立ち寄る予定だと伝えると「ピサには流行りのピッツァ屋さんがあり、若い人なら知っているから聞いてみると良い」と、そちらもノートに書いてもらいました。このように今回初めて会ったにも関わらず、今後の行程や私の事まで心配して色々と話を通してくれたのがとても嬉しかったです。
そして、この日は日曜日の夜。私は趣味の旅行中ですが、彼らは明日からまた仕事があるため遅くならないように別れました。おそらくFabioさんはまた日本を訪れるでしょう。その旅行中に時間があれば、ぜひまた食事や流行りの場所を案内するなどして、お互いのバイクの事もバイク以外の事ももっと知る機会が増えたら良いなと思いました。敢えて都内の流行りのピッツァ屋さんや安いイタリアンレストランに連れて行って、比べてみた感想を聞くのも面白いかもしれません。
そうして朝を迎え、次への期待を抱きつつ英語の通じ難いホテルをチェックアウト。次なる目標の街を目指して、駅へと向かいました。
最後に、現地に足を運んでみて
今やインターネットを使えば、リアルタイムで現地の様子を文章と写真で見る事が出来ます。とはいえ喋る時の彼らの表情や食事の食べ方、それに声などは、現地で向き合わなければ決して分からない事です。また、バイクを運転する時のマナーやグループ内の暗黙の了解事項などもそうです。日本とのルールの違いだけではなく、彼らが意識せずにやっている事まで含めて多くの発見があって驚きの連続です。自分が免許を取って、初めてバイクで出かけた時に次々見えてくる景色。次第に広がる人のつながりの輪。それらを再び感じる事が出来ます。
今回私を案内していただいたFabioさんには、様々な面で準備と手配をしていただき大変感謝しています。また、Fabioさんが所属するTigelle MeccanicheのGialloさんを始め、メンバーの方々にはツーリングや食事などを共にしていただきとても感謝しています。
モデナのスクータークラブ・Tigelle MeccanicheのリーダーであるGialloさん(左)は雪中でもキャンプツーリングを行うツワモノの1人。プライベートミュージアムまで駆け付けてくれたVespa Club Castelfnco Emiliaの会長であるEnricoさん(中)。今回最後まで私のヨーロッパ旅行フォローをしていただいたIlaioさん(右)もまたアメリカ大陸をベスパで旅をしたツワモノです
モデナ郊外に位置するRighiniの自動車部門が今回案内してもらったプライベートミュージアムです。ここには戦前の自動車を始めとして数多くの歴史ある自動車が揃い、それらがヒストリーある建物に保存されていました。しかもすべての車両に手の行き届いた管理が施されているなど驚きと発見ばかりの有意義な見学となりました
今回はここまで!
……というところで、"EU trip2015・第1弾/ボローニャ~モデナ編"は終了です。いかがでしたか? 最後に土田さんが言っているように、実際に足を運んで、肌で感じなければ気づけない発見があるというのも旅の醍醐味かもしれませんね。次回の第2弾も今から楽しみで仕方ありません。どうぞお楽しみに!!
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