BBB MAGAZINE

  • 藤原かんいち電動バイク世界一周 夢大陸オーストラリア編

    2008.11.23 / Vol.10

    「さらにアウトバックへ」

CREDIT

    • ライター
    • 執筆

    藤原かんいち

    • 撮影

    藤原かんいち

    • バイク

    モトラ

VOL.10 「さらにアウトバックへ」[夢大陸オーストラリア - 番外編 -]

このところ一日にすれ違う車を数えられるくらい、少なくなった。これでオーストラリアを一周するメインルートだというのだから、恐れ入る。そんな状態なので人恋しくなるのか、それとも仲間意識ができるのか、たまにすれ違う車がいると嬉しくなり、クラクションを鳴らしたり、手を振ったりするようになる。何だか北海道ライダー同士のピースサインのようだ。

何でもない標識
単調な道が続くと何でもない標識でも見かけると嬉しくなる。

フィッロイ・クロッシングという小さな町のスタンドへ入ると
「パチパチパチパチ...お疲れさま!!」
僕に拍手をする日本人がいたので転けそうになった。ええっ、どういうこと? 何があったの!? 驚いているとその日本人(高田さん)は、小さなバイクで走っている日本人がいるという噂を聞き、僕の到着を待っていたという。まさかそんなこととは...つい知らず。誰がどこで噂を広めたのか知らないが、驚いた。
高田さんもバイクでオーストラリア一周中。久しぶりに人と一緒にテントを張ることになった。見たところひとつの目的に向かって突き進む僕とは違って、高田さんは事前にかなり細かく観光ポイントをチェックしているようだった。僕の知らない国立公園もたくさん知っていて、同じオーストラリアを旅しているのにその話はとても新鮮だった。同じ旅でもいろんなカタチがあるんだなぁ。

「おいおいおい、どこ見てるんだよ、危ないな!」

ブルーム近くのビーチ
ブルーム近くのビーチは別世界。オーストラリアはホントに広い。

着いたブルームの町は「真珠祭り」の真っ最中。町の中心には特設の遊園地が作られ、各地から集まった観光客で賑わっていた。
ここブルームは日本との関わりが深く、日本人の真珠養殖者が古くから活躍していたという歴史がある。現在も真珠養殖に関わっている日本人が多く住み、町のそこかしこに日本語の看板を見ることができる。
それはブルームを出る日のことだった。スーパーで買い出しを終え、駐車場の出口へ行くと、前で止まっていた4WDがいきなりバックを始めた。何だ、何だ? ホーンを鳴らすが聞こえないのかドンドン迫ってくる。驚いて足をバタバタさせてバイクをバックさせるが追いつかず、倒れて車の下敷きになってしまった。

「おいおいおい、どこ見てるんだよ、危ないな!」
頭に来て運転手に詰め寄ると何のことか分からない、ととぼけている。運転手のその態度に頭に来て、注意しようと思うが、悲しいかな英語が出てこない...
「ユー、バット! デンジャラス...えーと、ちくしょうこんな時は何て言えばいいんだ...、ああクソッ、出てこない!」
地団駄を踏んでいると、これがチャンスとばかりに逃げてしまった。マジかよ...なんてヤツだ。
バイクにひどいダメージがなかったから良かったけど、ヘタしたらここで旅が終わっていたんだぞ。そうなったら責任取ってくれるのか? 猛烈に腹が立つ。バイクを起こしていると、その様子を見ていた観光客が来て「大丈夫か? あれは絶対向こうが悪い」と慰めてくれた。その言葉を聞いて何とか落ち着きを取り戻したが、本当にひどい出来事だった。

今は最高にハッピーだよ!

キャンプをした老夫婦
一晩一緒にキャンプをした老夫婦と。いい旅ができたかな?

ブルームの次に向かうのはポート・ヘッドランド。オーストラリアを一周している国道1号でこの間が一番285kmと給油できない距離が長いので、ガソリンを多目に詰め込んで、出発をする。
ここは日本でオーストラリアの地図を部屋に貼って、眺めていたところから楽しみにしていたルート。地図では海岸に面しているので、きれいな海を眺めながら走れる...と楽しみにしていたが、実際に走ってみると道から海は見えず、これまでの内陸と変わらない単調な風景にガックリ。なかなか予想通りにはならないものだ。

ブルームから100kmほどのパーキングエリアでテントを張っていると、後からブルーの1ボックスカーがやって来た。私たちもここでキャンプをしていいか?と聞くので、もちろんOKだと応える。70歳を越えていそうな老夫婦が乗っていてで、仕事を退職してから昔からの夢だった、オーストラリア一周旅行に出たという。
「子供は4人いたけどみんな大きくなって、出て行ったよ!」
「時々遊びに来てくれるし、今は大好きな旅行をふたりでエンジョイしてるから、今は最高にハッピーだよ!」

といって無邪気に皺くちゃの顔を綻ばせた。それは年齢を超えた旅人の笑顔だった。そのあと夕食に招かれていろんな話をした。旅のこと、家族のこと、お互いの国のこと...。僕はこれまでに何度も、こんな風に人生を楽しんでいる夫婦とたくさん出逢ってきた。ボロ車、キャンピングカー、観光バスと乗り物は様々だが、その旅行者のほとんどが定年退職した夫婦たち。自分の人生をもっと楽しみたいという前向きな人達ばかりだった。
そんな人達と時間を共有していると、人生は楽しむためにあるものだと改めて思う。言葉はうまく通じないが、みんなからそう言われているような気がしてならなかった。つまらなくても人生、楽しくても人生、それならやりたいことを楽しんだ方が勝ちだよ。

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