BBB MAGAZINE

  • 藤原かんいち電動バイク世界一周 夢大陸オーストラリア編

    2008.11.23 / Vol.20

    「アボリジニ居住区通過の許可証が取れない!?」

CREDIT

    • ライター
    • 執筆

    藤原かんいち

    • 撮影

    藤原かんいち

    • バイク

    モトラ

VOL.20 「アボリジニ居住区通過の許可証が取れない!?」[夢大陸オーストラリア - 番外編 -]

懐かしいポートオーガスタの街に帰ってきた。以前毎日のように通っていたスーパーマーケットで買い出しをして、お気に入りの店でフィッシュ&チップスをほおばる。

何でもない碑
脳味噌が腐りそうな単調な道が続くと、何でもない碑を見つけただけで嬉しくなる。

通りを歩いていると、脇道からタレ目のシンが「おう!かんいち久しぶりだな!」と笑いながら現れそうな気がして仕方がなかった。
シンは今、砂漠の真ん中をもがきながらエアーズロックへ向かっている最中、現れるはずもない。そう考えると何だか淋しい。
バイクショップを探していると、以前話をしたアボリジニ青年と偶然再会をした。僕のことを覚えていてくれ、向こうから声をかけてくれた。バイク用オイルを探していることを話すと、親切にも車でショップまで先導してくれた。知っている土地を再訪するとこんな再会があるから嬉しい。
オイル交換を終えるとアボリジニ居住区を通過する許可証を取得するため、アボリジニコミュニティオフィスを訪ねた。
ここからポートオーガスタから舗装路で再びナラバー平原を横断してカルグリーへ行き、ガンバレールハイウェイと呼ばれる超ロングダート走り抜けてアリススプリングスへ向かうのだが。その途中どうしてもアボリジニ居住区を通過しなくてはならないからだ。
ところがあいにく本部の担当者が夏休み中のため、許可証が発行されるまで2~3週間かかるというではないか。ビザ期限のことを考えるとそこまで待つ時間がない。事務員のニックさんが親身になって電話で色々問い合わせてくれたが、結局、本部の担当者がいなくてはどうにもならないということだった。
最後には「あのルートは危険だから行くのは止めろ」と言い始める始末、残念だがこのルートは諦めることにした。

「いい場所があるんだ」

ガックリと肩を落として、トボトボとキャラバンパークのテントへ引き返す。しかし1400km(東京~鹿児島の距離)にも及ぶオフロード、ナラバー平原横断を遂げたことで、大いに自信をつけた僕はこのまま舗装路で行く気にはなれず、地図を広げてダートロードを繋げて北上するルートを模索した。
その結果、ポートオーガスタ~ブラッズビル~ボウラ~アリススプリングス~タナミ~デリィーウォーターと大陸の中心を縦に走るスチュアートハイウェイをS字に縫うように走るルートを作り上げた。距離にして3000kmの大陸を縦断するダートルート、この中には4WDオンリー(四輪駆動車による走行を勧めている悪路)と記された道も含まれている、過激なルートである。
ルートを考えただけでもかなりハードな旅が予想されるが、今の僕にはナラーバー平原を自力横断したという自信がある。不安や迷いは全くなかった。
公園の木陰で休んでいると珍しく日本人がやって来た。シンと別れて以来だから、約2週間振りに会う日本人ということになる。「いい場所があるんだ」と彼を誘ってシン&カオルと過ごした海岸へ向かった。
彼は真崎という名前でシドニーで1年間ガイドの仕事をしていたとか。これからバイクで大陸の東半分を時計回りで一周するという。
夕飯は僕の得意な野菜炒めを料理、ふたりで夜遅くまでおしゃべり、日本語を思う存分堪能した。

「さあ、今日から縦断の旅が始まるぞ」

ブラッズビルトラックルートを北上
ブラッズビルトラックルートを北上する。エンジンを止めると怖いくらい静か...

真崎くんの出発を先に見送ると、続けて僕も気合いを入れて走り出す。
マレーへ向かう道はこれまでのオーストラリア的な平坦な道とは違い、アップダウンが多く変化に富んだ道だった、何だか遠い日本を思い出す。単調な風景ばかり見ていたので変化のある風景が嬉しい。しかし、そんな風景もつかの間で、午後になると再びいつものオーストラリアらしい荒野の風景に戻ってしまった。
縦断2日目は朝から強風が吹く、荒れ模様の天気となった。テントが揺れる音で目を覚まし、テントを飛ばされそうなりながら全身を使って必死に丸め込んだ。
走り出すと運悪く強烈な向かい風で、とてもじゃないがトップギアで走ることはできなかった。セカンドギアで時速20~25kmで走るのがやっと。少しでも風の抵抗を減らそうと背中を丸めたり、涙ぐましい努力をするが、焼け石に水。今にもコテッと倒れそうなスピードしか出なかった。
レインドハラストの町を出ると、舗装が途切れ待望のダートが始まった。対向車が巻き上げる砂埃が凄まじく、車が通ると2~3分は真っ白で何も見えなくなるほどだった。数日前にゴーグルをなくしてしまったので、ガードする物がないので大変。砂が目に入ると痛くて、ヒーヒー悲鳴を上げた。と、そのときだった。

「うおおおっ、何だあれは!?」

僕は思わず目を擦った。
何と、高さ20階のビルくらいはありそうな巨大な砂嵐の固まりが現れたからだ。怖さのあまりバイクをストップ。しばらくするとゴゴゴゴッ...と凄まじい地鳴りを響かせなが砂嵐が近づき、僕の前方100m位のところを横断していった。
「あんなのに突っ込んら僕とモトラなんて、ひとたまりもないだろうな...お~おクワバラクワバラ...」
夕方。今日の目的地マレーに到着。砂嵐が吹き荒れる中でテントを設営する。手持ちのペグ8本を全て打ち込み強風に備える。これだけやっておけば飛ばされることはないだろう...しかし、それよりも黒雲が空一面に立ちこめているので雨が心配だ。明日走る予定のブラッズビルトラックロードはかなりの悪路なので、雨が降ったら恐らく走れなくなるだろう。 「雨よ、お願いだから降らないでくれ~っ!」
祈るような気持ちでシュラフに潜り込んだ。

ブラッズビルトラックロード突入。

鉱山の職員さん
お世話になった鉱山の職員さん。ベットだけでなくおいしい料理をご馳走してくれた。

テント地を通って差し込む光で目を覚ました。慌ててテントのファスナーを開けると...快晴じゃないか。それも雲ひとつない青空が広がっている。風も昨日に比べると随分弱まっているうえに、昨日とは違って追い風に変わっている。これはラッキー、早速出発準備に取りかかる。
ブラッズビルトラックロード突入。
走り始めると思った通り追い風で、昨日とは段違いでハイスピードで走れる。路面も固く、予想以上に走りやすい。
大地はオーストラリア特有の赤土ではなく、珍しく白色をしている。まるで干し上がった湖底のように砂がキラキラと輝いている。風景全体が白っぽく乾燥しているので中近東のような風景。何だか別の国に来たみたいでワクワクする。
ナラーバー平原とはひと味違った素晴らしい風景が続く。行き交う車はほとんど皆無で、忘れた頃にやって来る車はどれも4輪駆動車ばかりだった。

夕方、マレーより約200kmの地点にあるロードハウスに到着した。人工物の何もない荒野のど真ん中に、突然「モービル」の文字が現れると、あまりに唐突で不思議な感じがする。
簡単な軽食を取り、給油を済ませ再び走り出す。木のそばでテントを張りたいと思うが、一面のジャリ野原で適当な場所がなかなか見つからない。
30分ほど走ると東の地平線にトラックや小さな建物が集まっている場所が見えた。集落ではなさそうだが...なんだろう?と思いつつ近づいて行くと、けたたましい機械音が響く、鉱山であることが分かった。作業員が泥まみれになって動き回っている。

ブラッズビルトラックロード突入。

現場周辺はジャリが少ないので作業員に「近くにテントを張ってもいいか?」尋ねると、奥から責任者らしき人が現れ「作業員用のベットが開いているから、そこに寝るといい」とトレーラーハウスの一部屋を与えてくれた。さらに「疲れているだろう」と言って、シャワーから食事お世話までしてくれる。有り難い。
シャワーはトラックの水タンクを使っているせいか、錆臭くヌルヌルしているが、こんな砂漠のど真ん中でたっぷりのシャワーが浴びられるとは、夢にも思っていなかったので、大感激。
食事が終わると作業員のみんなと一緒にビデオを鑑賞。最新版の映画007シリーズのビデオだった。こうして蛍光灯の下でみんなとたわいもないおしゃべりをしていると、とてもここが360度地平線の中とは思えなかった。
ビデオが終わり外に出ると天を覆い尽くすような無数の星がキラキラと輝いていた。空を見上げながら今日一日を思い出す。
「今日はホントについてた、明日もいい日になるといいな...」 胸の奥でささやいた。

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