BBB MAGAZINE
CREDIT
-
- ライター
- 執筆
藤原かんいち
-
- 撮影
藤原かんいち
-
- バイク
モトラ
VOL.43 「感動のゴールイン」[夢大陸オーストラリア - 番外編 -]
クイーンズランドの州都ブリスベン到着。来年、建国200年を記念して開かれるEXPO万博に向けて街を整備しているのか、工事中のビルや道路がやけ目立つ。それにしてもパース以来の大都会。信号、高層ビル、ビジネスマンの群れ、何もかもが眩しい。
オーストラリアの旅を始めた頃は自分が「外人になったぞ」と子供のようにはしゃいでいたが、今はもう何も感じない。周りが白人ばかりという状況を、ありのままに受け止めることができるのだ。それだけ自分がオーストラリアの環境に馴染んでいるということなんだけど、英語だけは相変わらずだった。
言いたいことは何とか伝えることができるのだが、答えがどうもチンプンカンプンで...聞いたとおりに走ったつもりなのに、どういうわけかおかしなところに出てしまうのだ。どうやら僕には語学才能というものがないらしい。
東海岸に沿って縦に走るナショナルルート1はブリスベンで「パシフィックハイウェイ」と名前を変える。
ハイウェイで食べるランチはほとんど「ミルクバー」と呼ばれるファーストフードショップで済ませていた。日本でいえばホカホカ弁当のようなもので気軽に安く食べることができるからだ。
メニューにはサンドイッチやハンバーガーもあるのだが、僕のお気に入りは「フィッシュ&チップス」。タラなどの白身魚のフライとフライドポテトのセットなのだが、これがボリュームたっぷりの上に安い。多いときはドンブリ2杯分ぐらいありそうな、山盛りフライドポテトが付いてくることもある。これで2ドル、3ドル(2~300円)というのだから、止められないのも分かるだろう。
100羽以上のカモメに完全包囲されていた
ブリスベンの公園での事。いつものようにフィッシュ&チップスを頬張っていると、どこでかぎつけたのかカモメが集まってきた。2、3羽の時はかわいかったが、バサバサと集まってきて10分後に僕は100羽以上のカモメに完全包囲されていた。
ハトなら何となく想像がつくのだが、カモメに囲まれたのは生まれて初めて。カモメは近くで見ると体が大きく、顔も意外とグロテスク。何気なくポテトを投げるとギャーギャー叫びながら突つき合い、一本のポテトを奪い始めた。抜けた羽がバタバタと舞い散る、壮絶な戦いが目の前で繰り広げられ、僕はキョトーン。
おいおい、ポテト一本でそこまでしなくても...。それより海で獲物を狙った方がラクなんじゃない? そんなことを思ったりもする。カモメもきっと一度知ってしまった文明の味が忘れられないのだろう。それは人間も同じこと、文明は後戻りができないのだ。
ブリスベンを出発。ここからシドニーまでは1000km足らず。道は川越えも砂漠越えもない一般道なので、5日もあれば着くだろう。
旅の相棒モトラもスタートの時は傷ひとつないピカピカの一年生だったが、走行距離24000kmを越えた今は、傷だらけ。
フレームは砂に染まり、ホイールは歪み、振動でキャリアも折れている。ウエアも同じ、埃と汗と油にまみれボロ雑巾のよう。人から見れば汚いだけかもしれない。だけど僕にとっては全ての傷と汚れが旅の大切な思い出であり、旅の勲章でもあった。
「かんぱーい!」
10月13日。
ニューカッスルの街外れ、海の見える高台にテントを張り最後の夜を迎えた。奮発してスーパーで丸焼きチキン一羽とコカコーラを買い込み、太平洋に向かって祝杯を上げる。
「かんぱーい!」
シドニーまで残り100km。バイクの旅も今日で終わるのかと思うと、嬉しいような淋しいような複雑な気分だった。
最後の最後、ここで事故でも起こしたら元も子もない。?百里を行く者は九十里を半ばとす?ということわざがある、気を引き締めて行こう。
出発して10kmほど走ると、道がハイウェイからフリーウェイに変わったのでビックリ、慌てて次のインターチェンジで降りる。しばらく走ると、道と平行するように線路が現れた。するとどこかで見覚えのある風景が突然、目に飛び込んできた...
「うあっ、リンドフィールドだ、うわぁ~懐かしいなぁ」
そこはバイク待ちのため2週間も滞在した、あのリンフィールドの町だった。何も知らなかったあの頃、思い出の詰まったオーストビレッジ。変わらない町並み、あの駅から列車に乗って毎日シドニーへ行ったんだよな。この町で起きた様々な出来事が蘇ってくる。
そして、ビル群の向こう側に、ついにシドニーのシンボルのひとつである「ハーバーブリッジ」が見えてきた。踏みしめるように橋を渡る、154日前この場所から始まった僕のバイク旅は、同じ場所で終わりを告げるのだ。
橋を渡り終え、キーを回すと、僕はゆっくりと空を見上げた。
「ああ、終わっちゃった...」
大きく溜息をつく。出発のあの時と変わらない青い空、白い雲が気持ちよさそうに泳いでいる。なんだか何もかもが僕のゴールを祝福してくれているような、晴々した気分だった。
オーストラリアよ、最高の旅をありがとう!
「さあ~て、次はどこを旅しようかな、アハハハハ...」
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