BBB MAGAZINE
CREDIT
-
- ライター
- 執筆
藤原かんいち
-
- 撮影
藤原かんいち
-
- バイク
モトラ
VOL.44 「バイクを返せ!」[夢大陸オーストラリア - 番外編 -]
よし、次は『世界一周』に挑戦だ!」
オーストラリアの旅している時から、すでに次の旅のことを心の中で決めていた。
最初は三輪車で4軒隣のターちゃんの家へ行くことが冒険だった。それが隣町になり、県外になり、日本になり、オーストラリアになり、世界になっただけのことで僕にとってはとても自然な流れだった。
だが、持っていた貯金はオーストラリアで使い果たし、帰国時は無一文状態。まさに「0」ゼロからのスタートとなった。
まずは就職探しだ。88年はバブル景気で、そのころの就職情報誌は電話帳並にぶ厚かった。絵を描くのが好きだった僕はデザイン学校卒業後、グラフィックデザインの会社に就職。自分はこれしかないと思い込んでいたので、再び好きなデザイン関係の職場を探した。
数社面接を受け、赤坂にあるデザイン事務所に就職が決めた。その理由はそこの社長が仕事と関係ない僕の旅の話を、おもしろそうに聞いてくれたことだった。この社長とならいい仕事ができる、そう確信したからだ。
資金は順調に貯まっていったが、父親の反対は凄まじかった。旅の心配や理解不足とは次元が違う、僕の生き方を軽蔑・罵倒された。
今でこそあの反対を乗り越えたからこそ、今の自分があるんだとプラスに考えられるようになったが、あの頃はただの分からず屋の頑固オヤジとしか僕の目には映らなかった。
そんな時、僕を支えてくれていたのが現在の妻ヒロコだった。僕がこの世界一周にどれだけ情熱を注ぎ込んでいるか一番分かってくれていたし、2年半の間離れ離れになってしまうことも、淋しいが彼女なりに理解してくれていた。まさにヒロコは心の支えだった。
世界一周は1年がアフリカ大陸、次の半年がヨーロッパ、次の1年が北&南米大陸と考えていた。この中で初心者のヒロコでも楽しめそうなヨーロッパだけはふたりで旅することにした。そうすれば離れているのは2年間で済む。それがその時の僕にできる唯一の愛情表現だった。僕たちは1年後のヨーロッパ再会を誓い、成田へ向かった。
空港では出発まで漕ぎ着けた喜び、感動や興奮、さらにヒロコと離れる寂しさが入り交じり、僕の顔は涙でグシャグシャだった。
首都アルジェに上陸した
1990年5月。船でアフリカ大陸の入口、アルジェリアの首都アルジェに上陸した。
憧れのアフリカは、見るもの全てが輝いていた。町の信号の9割が壊れていることも、目の前のバスが突然爆音を響かせてバーストをしたことも、高速道路だというのにゴリラより遅い車が多いことも、全てが嬉しかった。「これがアフリカなんだよ!」とひとり叫き散らし、勝手に感動していた。
だが、何より一番嬉しかったのは、人々がとても親切なことだった。道を尋ねると、僕の下手なフランス語にも、イヤな顔せずに親切に応えてくれる。宿に着くまでに8人に道を聞くことになるとは思わなかったが、「絶対にいい旅ができる」そんな予感がした。
ところがその2日後、その予感がこっぱ微塵になるような出来事が起こった。
夕方、ラグーアトの町に入ると、僕はガイドブックに載っている宿へ向かった。
ドアを開けると、一癖も二癖もありそうな二十五、六歳の男がソファーにふんぞり返っていた。空きベットがあることを確認して料金を尋ねると「ひとり25DA、バイク10DAだ」と無愛想に応えた。ガイドには20DAとあるのに...変わったのか? そこから値段交渉がスタート。ところが途中からネズミ男のようなズル賢い表情を見て、奴の魂胆を見破ってしまった。ピンハネするつもりなのだ。
そこで完全にキレた僕は、ガイドブックを叩き付け「これに20DAって書いてあるぞ。それにどうしてバイクまで金取られるんだ、ええっ!? そんな話聞いたことねぇぞ!」
日本語で怒鳴り立てると、鬼のような僕の形相に驚いたのか、急におとなしくなり、今日は特別だからとか何とか言いながら、金をポケットに押し込んだ。まったく...。
外に出て僕のバイクを見るとその男は、手の平を返すように態度を変え「日本のバイクに乗るのが夢なんだ、頼むから一度運転させてくれ!」と哀願をはじめた。
こんな奴に冗談じゃない。と始めは無視していたが、貧しい彼は今を逃したら一生運転はできないかも...そう思うと無下に断ることもできなくなり。翌朝、前の道を走るだけなら、という約束で貸してあげることにした。
メルシィーボクー・アミン!(ありがとう、友達)と言って無邪気に飛び乗ると「ギギギギーーン」ともの凄いエンジン音を響かせて走り出した。オイオイ、大丈夫か? と思う間もなく、米粒のように小さくなると、クイッと向きを変え、視界から消えてしまった。
「そんなバカな...ウソだろ、消えたよ...バイクを持っていかれちまったよ!」
僕は何が何だか状況が分からず、目の前が真っ暗になった。
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