BBB MAGAZINE
CREDIT
-
- ライター
- 執筆
藤原かんいち
-
- 撮影
藤原かんいち
-
- バイク
パッソル
VOL.02 『 パッソルとの再会 』[アメリカ大陸編]
パッソルとの再会
「おおおおっ、パッソル、会いたかったぜ~っ!」 倉庫の片隅に置かれていた巨大な箱を開けると、スチールのパイプでガッチリと組まれたフレームの中から懐かしいパッソルが姿を現した。
自宅前で運送会社に引き渡したのが2週間前だというのに、僕はまるで長く会えなかった親友と再会したように感激した。
その隣に並んでいる1.5倍くらいはありそうな大きな箱には、パッソルの交換バッテリーや僕たちふたりの荷物を積んで伴走するマジェスティ。「おいおい、俺の存在を忘れてもらっちゃ困るぜ」と言わんばかりに、その存在を主張している。
「忘れるはずがないだろ。おまえがいなかったらこの旅は実行できないんだから...」
箱を開けるとマジェスティが現れる。スクリーンに貼られた大きな世界地図を眺めながら、「頼りにしてるぞ...」と呟きながらシートを撫でた。
ガラガラと音をたてながら大きな扉が開くと、暗かった倉庫にカリフォルニアの明るい太陽が差し込む。2台のバイクと僕たちに眩しい光が当たる。それはこれから世界一周という巨大なステージに立とうとしている、僕たちを照らすスポットライトのようだった。
出発の体制が整うと、長く滞在したサンフランシスコを後にした。さあ、デコボコバイク夫婦の珍道中の始まりだ。
2004年3月11日。走り出して1時間半後。最初のバッテリー交換、僕たちは嬉しいハプニング、というか予想外の出来事に湧き上がった。
日本の道を基準にしてバッテリー1本で進める距離を15kmと想定していたのが、何といきなり初日の1本目で20km以上も走ってしまったからだ。
おそらく人口過密の日本とは違ってアメリカは信号が少なく、また偶然にも平坦な道が続いたからだろう。それにしてもまさか5kmも伸びるとは思わなかった。このままの調子で走ってくれるとアメリカの旅も少しは楽になるぞ、と喜んだ。幸先の良い出来事でふたりは子供のようにはしゃいだ。
爆音と排気ガスを撒き散らしながら巨大なアメ車が走り抜けて行く、だだっ広いハイウエイの狭い路肩を、トコトコとマイペースで走り続けること3日間。まだ日の高い午後3時過ぎ、人口6万人のMercedという町にたどり着いた。
このあたりは俗にグレートセントラルバレーと呼ばれる地方で、シエラネバダ山脈から流れる川がいくつも注ぎ込んでいる、世界でも有数の大規模農業地帯が広がっている。
アメリカはどこの町でも同じようなつくりで、フリーウェイの出入口近くには必ずモーテルが数件並んでいる。僕たちはMercedでも迷うことなく、これまでと同じように、その中の一番安い宿に飛び込んだ。モーテルの名前は「VAGABOND INN」。バガボンドとは放浪者とかさすらい人という意味だというから、僕たちにはピッタリだ。
ここを基点にしてヨセミテ国立公園へ行くことにする。本当は国立公園で宿泊したいのだが、宿が1泊100ドル以上もする上に、すぐ満室になるので数ヶ月前に予約を入れないと泊まれないと聞いて諦めた。
Mercedから片道100kmもあるのでパッソルはモーテルに置いておき、マジェスティにタンデムでヨセミテ国立公園へと向かった。
巨木の森をたずねて
「わぁ~っ、すごいわね!」
まるで巨大な壁のように垂直に切り立つ岩壁「エル・キャピタン」、水しぶきを巻き上げ岩肌を豪快に流れ落ちる「ヨセミテ滝」、渓谷の谷に広がる草原、そしてその間をサラサラと流れる小川。どれもがため息の出るほどの美しさ。アメリカ人が最も愛する国立公園のひとつに数えられるというのも、頷ける気がした。
さらに渓谷の奥へ歩を進めて行くと、林が途切れ視界が開けるとヨセミテのシンボルでもある「ハーフドーム」が聳えていた。自然という言葉を超えた存在感を感じる。それは正に自然が創り上げたアート。この感動を何かに残したいと思った僕は、時がたつのも忘れて夢中でシャッターを押した。
次に僕たちはヨセミテ国立公園からおよそ約200km南にある、キングスキャニオン&セコイヤ国立公園へ向かった。ここに世界一の巨木とされるセコイヤが立っている。
巨木に会うことはこの旅の大きな目的、さらに地上最大の生物(幹の体積が世界一らしい)とされる「シャーマン将軍の木」があると聞いて、会わずにいられるわけがない。
僕たちはキングスキャニオン国立公園内に宿を取り、隣接するセコイヤ国立公園へと向かった。両公園を結ぶジェネラルズハイウエイは標高2000m付近を走っているため、4月下旬だというのに、雪がまだチラホラと残っていた。さすがに冷えこむなぁと思いマジェの温度計を覗くと、何と5℃。日本の真冬並みの寒さではないか。しかし、これから憧れていた「シャーマン将軍の木」に会えることを思うと不思議とあまり寒さを感じなかった。
駐車場にバイクを止めて森の中を歩いて行くと、木々の間から明らかにほかの木とは違うパワーを発している巨木が見えてきた。きっとあれだ...興奮しながら近寄って行く。
「おおおっ、シャーマン将軍だぁ! うわぁぁぁぁ、デカイ!」
全体が見えてくると、僕の驚きはさらに大きくなった。セコイヤの木はどれも大きいが、その中でも「シャーマン将軍の木」はとてつもなくデカかった。樹皮は赤茶けていて、表面もゴツゴツしている。
僕は何だかとんでもないものを見ている気がしてきた。それは木を見ているというよりも、まるで森の中で生きているはずのない恐竜に出会ってしまったような感覚に似ていた。
体積は約1487m、高さは83m、根元の幹周りは31m、推定樹齢も2300~2700年だというから、何もかもが桁違いの巨木である。しかし、そんな数字では表現のできない、巨木の持つ存在感や溢れる生命力の大きさを感じると同時に、タイムスリップをして太古の昔の地球を彷徨い、歩いているような気分になっていた。
取材・文/藤原かんいち&ヒロコ (2004/04/30)
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