BBB MAGAZINE
CREDIT
-
- ライター
- 執筆
藤原かんいち
-
- 撮影
藤原かんいち
-
- バイク
パッソル
VOL.03 『 誰か充電させてくれ! 』[アメリカ大陸編]
長寿の森をたずねて
「どうしよう、ゲートが閉まってる。もう、これ以上バイクでは行けないね」 「クソ~ッ...でもせっかくここまで来たんだ、行けるところまで歩いて行こうよ」
標高3000mを越える高地のため、世界最長寿の木が住む森へ至る道路は冬期閉鎖中だった。ガイドブックには通常5月下旬には開通すると書かれていたので、5月上旬ならもしかして開いているのでは...と甘い期待を抱いて来たがやっぱりダメだった。
しかし、ここからは見えないが、目と鼻の先に4000年以上も生きているブリックスコーンパインの森があると分かっているのに引き返せない。どうしても諦められない僕たちはバイクを置いて、道を歩いて行くことにした。
まあ、10~20分歩けば森の入口に着くだろう、と軽く気持ちで歩き出したが...20分、30分歩いてもそれらしき場所に出ない。
「まだかな...」
「もうすぐだよ、頑張ろう!」
交わす言葉も徐々に少なくなる。詳しい情報がないため、どれだけ歩けばたどり着くのか見当もつかなかったが、僕たちは次のカーブを曲がったら、その次のカーブを曲がったら森の入口が現れる、そう信じてひたすら歩き続けた。
1時間近く歩いただろうか、遠くにポツンと看板のようなものが見えてきたではないか。
「やった、森の入口だ。着いたぞ!」
僕たちは飛び上がって喜んだ。
森はトレイルが整備されていてとても歩きやすかった。荒れた山の斜面に根を下ろしたマツの木はどれも樹皮が剥がれ落ち、身を捻じるようにしながら延びていた。これほど変わった形をした木を今まで見たことがない。それは木というよりもまるで粘土を捻じ曲げて創られたアートのようだった。
ここは積雪が多く、乾期はほとんど雨が降らない厳しい自然環境の中ため、ここの木たちは体の一部を枯らしながら生き続けているという。また完全に死んでいるのに数百年も立ち続ける木もあるというから驚く。何と不思議な木だろう。
樹齢4000年を越える木が17本もあるという、ここ長寿の森では、42歳の僕など生まれたての赤ちゃんみたいなもの。僕たちは大きな命に見守られているような、幸せな気分でトレイルを歩いた。
死の谷を越え、ギャンブルの町へ
長い上り坂でたまった鬱憤を晴らすように、僕とパッソルは一気に谷底へと下った。周りはゴツゴツとした土と岩の山ばかり。谷底にパラパラと草が生えているが、豊かな緑というには程遠く、殺伐としている。
谷底に近づくと体で感じていた風が、これまでに体験したことがないほど熱くなった。そう、僕たちの旅はついに死の谷と呼ばれる灼熱の大地「デスバレー」へ達したのだ。ここは西半球で最も標高が低く、アメリカで最も暑く乾燥している土地。
「暑い、暑い、暑過ぎるーっ!」
日陰を見つけると一目散に逃げ込んだ。そしてストアに入ると、冷えたジュースとミネラルウォーターを浴びるように飲んだ。ああ、生き返る~っ。この時点でとてもじゃないがキャンプのできる状況ではないと判断してすぐに宿を取った。普段の予算よりも少々高かったが、今回ばかりは仕方がないと思い諦めた。
ホントに暑いので一体どれくらいあるのかと思い、ストアの温度計を見ると43℃を指していたので一瞬目を疑った。43℃って、うそだろ、まだ5月だぞ! そして僕はつい2週間前のキングスキャニオンで、バイクに張った氷を見て震え上がったことを、遠い昔のことのように思い出した。アメリカはどうして何もかも極端なんだ。
とても長居ができるところではないので、1日だけ観光すると逃げるようにデスバレーを後にした。人を寄せ付けない厳しい大自然が広がる「デスバレー」の次に現れるのは、人を磁石のように吸い寄せる、ギャンブルの町「ラスベガス」。これまた極端だ。
日本では競馬、パチンコなどのギャンブルも全くしない僕だが、ここに来たらカジノをしなくては意味がない。しかし、自分はギャンブル運がゼロなことは重々承知しているので、10セントのスロットルに座り、安く長く遊ぶことをモットーに楽しんだ。
ラスベガスはカジノばかりでなく無料で観られるショーも多い、僕たちのお気に入りは「サーカスサーカス」で行われるミニサーカスで、頭上10mのところをビュンビュン飛び交う空中ブランコは、距離近いので迫力満点。ウルトラCのワザが決まるたびに、僕たちは歓声を上げた。
誰か充電をさせてくれ
その日は朝からヒロコともめていた。
地図を見たところ、僕たちがいるコットンウッドから次の町のキャンプベルデまでが約20km。さらにそこからパイソンまでが約100kmの距離だった。
両方あわせて120kmならば、平地で無風(または追い風)の状態であればバッテリー6本で行けなくはないが。今日のルートはアップダウンが多い上に向かい風、1日で行くには厳しい距離であることも事実だった。
「今日はキャンプベルデで一泊して、2日かけてパイソンまで行こう」
という慎重派のヒロコに対して
「1日20kmではあまりに短すぎるよ。もし足りなくなったら途中どこかの町で充電させてもらえばいいじゃないか、一気にパイソンまで行こう」
と僕は楽天的な主張した。
いろいろ話をしたが、結局、コットンウッドを出るときには、余った時間を日記や原稿を書く時間に当てることにして、今日はキャンプベルデまでということで落ち着いた。
それにはヒロコは心配性なので、その方が精神的にもいいだろうと思いもあった。
ところが11時ごろに着いたキャンプベルデのモーテルで、チェックインは午後2時以降と言われ、気持ちが逆転した。外で3時間も潰すのはもったいない。それならもっと進みたいと思った僕は「大丈夫だよ、パイソンまで行こうよ!」と再び意見をプッシュした。
最悪、途中で充電ができなかったら、マジェに空きバッテリーを積んでパイソンまで行って充電して戻ってくるから、ということで最後は納得。このまま先へ進むことになった。
ところが向かい風に加えて、想像以上に急勾配の上り坂が連続。バッテリーの残量は急速に減少。6本目で途中にあるストロベリーという小さな村にたどり着くのがやっとだった。
とりあえず村にたどり着けて助かったが、できればここには泊まらずパイソンまで行きたいと思い、バッテリーを充電させてくれるところを探し始めた。
まずはアメリカでよく見かける、キャンピングカー用のキャンプ場へ行ってみる。ブザーを押すとかなりの老夫婦が出てきた。電気バイクで旅行をしているのですが、もうすぐ電気が終わってしまうので、充電させてもらえませんか?と聞いてみる。
電気代も払いますといったが、今はクローズだからだめだと断られてしまった。何だかめんどくさそうな話だな、という顔していたのであきらめる。
次にストアでお願いしてみたが、私はオーナーじゃないからわからないと首を振られてしまった。うーん困った...さあ、どうしよう。アメリカで充電するのは無理なのか?
隣にパブがあるがパーティの真っ最中らしく、それどころではなさそうだし...結局、最後に残ったのは、その隣にあるモーテルだった。
オフィスのドアを開けると、笑顔の人のよさそうなおばさんが出てきたので、少し期待する。いまの事情を追って話をすると、耳を傾けながら「うん、うん」と何度も頷いた。よかった、どうやら僕がいいたいことは理解してくれているようだ。ひと通り話が終わると「事情は分かったわ、どうぞ使ってください」と言ってニッコリ笑った。
その笑顔を見た瞬間、天にも昇るような喜びがこみ上げてくる。やったぁ。本当に助かります。ありがとうございます。これでパイソンまで行ける。僕は何度もお礼を言い、頭を下げた。
外に出ると心配そうに佇んでいたヒロコの元へ駆け寄り、充電させてくれることになったことを伝える。
「ホントに!? わあ、良かった!」
ヒロコも飛び上がって喜んだ。
さあ、充電をしてパイソンを目指そう。
取材・文/藤原かんいち&ヒロコ (2004/05/29)
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