BBB MAGAZINE
CREDIT
-
- ライター
- 執筆
藤原かんいち
-
- 撮影
藤原かんいち
-
- バイク
パッソル
VOL.04 『 化石の森を訪ねて 』[アメリカ大陸編]
コンセントを探せ
「えーっと、コンセントは...ここと...ここだな!」
「あっ! ベットの横にもあるよ」
「おおおっ、いいね。これなら大丈夫だな」
モーテルに入ったらコンセントの差込口を探し、すぐにバッテリーを充電。何よりまず充電が先決。何たって今回の旅は電動バイク、自動車やバイクがガソリンを入れなくては動かないように、バッテリーの充電ができなければこの旅は一歩も前に進まないのだ。
これまでのバイクの旅では、次のガソリンスタンドまでの距離や燃費を気にしていたが、今回の旅ではまず充電ができるかどうか。とにかく何があっても電気のある場所に泊まって、何時間もかけて充電をしなくてはならない。それが電動バイクの旅なのだ。
いつもと調子が違うので旅を始めた頃は戸惑いもあったが、そんな毎日が2ヶ月も続くとさすがにそれも習慣化してきて、食事をしたり、シャワーを浴びたりするように、充電も自然と旅生活の一部に組み込まれて行った。
ボイチェフとの出会い
というわけで充電はとても重要なのだが、限りある旅資金なので節約もしなくてはならない。一番お金のかかる宿代を少しでも安く上げるため、アリゾナ州の東部にあるホルブルックという町に入ると、僕たちは安くて快適そうなモーテルを探し始めた。
メインストリートに沿ってモーテルがズラッと並んでいる。名の知れたチェーン店モーテルから、半分廃墟のような怪しいモーテルまで、10軒以上ありそうだ。まずは中レベルの「RAMADA INN」へ行ってみるが思ったよりも高い。少しレベルを落として「MOTEL6」へ行くと、値段はOKだがインターネットができないという。この町に4、5日間滞在して日本へ原稿を送る予定があるので、インターネットができないは困る。
次に「BEST INN」というモーテルのドアを開いた。ニコニコと笑顔に愛嬌のある中年のおじさんが出てきた。度の強いメガネをしているからか、どことなく雰囲気が外国人タレントの「ケント・デリカット」似ている。聞くと値段も手頃で、通常値段の上がる週末も同じ値段にしてくれるという。部屋も広くてきれいなこともあったが、何よりケント似のオーナーの感じがよかったので泊まることにする。おそらく前に訪ねたモーテル2つの受付が、サービス業とは思えないくらい無愛想なこともあっただろう。実は宿探しでは宿主のキャラクターも重要なのだ。
それから部屋にこもっての原稿書きが始まった。ずっと部屋にいるので、ケント...じゃなかったオーナーともすっかり仲良くなる。毎日忙しそうにバタバタと走り回っているオーナーのボイチェフさんは7年前にポーランドから来た移民だが、今は奥さんや子供たち3人をニューヨークに残して単身で来ているという。また、このモーテルのオーナーになってまだ3ヶ月の新米で、以前は繊維会社に勤めていたとか。
ニューヨークといえば世界を代表する大都会、そこからこんな何もない荒野の、人口3千人余りのど田舎へいきなり来たのでは、さぞかし都会生活が恋しいのだろうと思いきや、毎日知らない人に会えるのが楽しくて仕方がないという。どうやらこれが天職のようだ。
滞在5日目。ようやく原稿の目処が付いたので駐車場でバイクを洗っていると、ボイチェフが僕たちのところへやって来て、「宿泊代はいらないから、よかったら明日もう一晩泊まっていかないか!」と言うでないか。宿なのにお金を取らないなんて...こんなことは初めてだ。本当は明日出発しようと思っていたが、せっかくの厚意なので、言葉に甘えてもう一泊させてもらうことにした。
「ありがとう、そうさせてもらうよ!」
「ゆっくり休んで、疲れを取って行きなよ」
いつものニコニコ笑顔で嬉しそうに頷くボイチェフ。もしかしたらボイチェフは生まれた土地を遠く離れて長い旅している僕たちに、自分と同じ何かを感じたのかもしれない。
そして出発の朝、ボイチェフと僕たちは抱き合って別れを惜しんだ。
モーテルを始めてまだ3ヶ月だが、笑顔の絶えないボイチェフならきっと成功するだろう。そんな気がした。そしていつかまた、この土地を訪れることがあったら、どこより先に「BEST INN」のドアを開こうと思っている。「ハロー、部屋はありますか?」
化石の森をたずねて
バイクを降りると、そこには信じられないような風景が広がっていた。
輪切りにしたような巨木の化石が、荒涼とした大地に無造作に転がっているのだ。それも数え切れないほどたくさん。ここはアリゾナ州ホルブルックの東約50kmにある、「ペトリファイド・フォレスト・ナショナルパーク」。
国立公園内にあるトレイルに沿って歩いて行くと、次から次に巨木の化石が目に飛び込んできた。まるで生きている木のような色のものから、金属のように黒く鈍く光るもの、白くまるで宝石のように輝いているものまで、色も形も実に多彩。投げ捨てられたゴミのようにゴロゴロと転がっている化石の中には、倒れた木そのままの形で残っているものまであった。
この木たちが約2億2500万年前のものだというからさらに驚く。この木たちは遥か大昔、洪水などで倒れた木々が土砂に埋もれ、その中に含まれていた火山灰と化学反応を起こして化石になったという。その後、木々の上に積もった土や砂がどんどん侵食されて、土の中にいた化石たちが浮き上がり今の姿になっていったのだ。そんな途方もない地球の歴史がぎゅぎゅっと凝縮された場所なのだ。
化石が転がる荒涼とした土地を歩きながら、大昔この場所には川が流れ、豊かな森が広がり、恐竜たちが歩き回っていたのかと思うと信じられない気分だった。
どこにも似てないサンタフェ
前方に黄色い看板が見えてくる。おおっ、ウエルカム・ニューメキシコと書いてあるぞ。「やった、ニューメキシコだ!」
僕たちの旅は4つ目の州となるニューメキシコ州へ突入した。パッソルの走行距離もついに2500kmを越えた。
ニューメキシコで楽しみなのは「サンタフェ」と「タオス」。サンタフェはいくつかの異文化が融合してできた、アメリカでは珍しいエキゾチックな町。その北約100kmにあるタオスは、プエブロインディアンが今でも居住している、日干しレンガでできた巨大マンションがあるところだ。
僕たちは期待を膨らませてサンタフェへ向かった。町が近づくに連れて、薄茶色のプエブロインデアン式の建物が増えてくる。町の中心に入るとそこは別世界だった。建物はスペイン風ではあるが、色は全て日干しレンガの薄茶色。また外壁に並んだ梁が突き出ている、この土地独特のプエブロ式の建物も多い。それらが絶妙にミックスされているので例えようがない。まさにここだけにしかない、サンタフェ風の風景なのだ。
観光地らしくほとんどの建物がお土産屋になっている。ヒロコはお気に入りのアクセサリーを探し歩き、僕は絵になる風景を探して写真を撮り歩いた。ふたりそれぞれのサンタフェを楽しんだ。
タオスプエブロが伝えたいこと
乾燥した大地の緩やかな丘をいくつか越え、切り立った渓谷を抜け、緩やかな峠を越えると大きな平原が現れる。よく見ると小さな家がたくさん集まっている、タオスだ。
町はサンタフェに比べると、歩いてまわれるほどこぢんまりとしていた。人も少なくのんびりとしている、いい雰囲気の町だ。そこからさらに4マイルほどバイクを走らせるとタオスプエブロに到着する。
入場料を払って歩いて行くと大きな広場が現れ、その横に何層にも重なった巨大なインディアンマンションが建っていた。とんでもなく大きい。家族が増える度に新しい家を造り足していった結果、現在のような形になったというが、一体何部屋あるのだろう?
見ていると親亀の背中に小亀を乗せて、小亀の上に孫亀を乗せて...という感じがして、何ともほのぼのとした気分になる。これこそ家族の原点。
今はマンションの隣の部屋で殺人事件が起こっても、知らなかったりする時代。もしかしたらこのマンションは現代人が忘れかけている大切な何かを、僕たちに伝えるために建ち続けているのかもしれない。
取材・文/藤原かんいち&ヒロコ (2004/06/25)
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