BBB MAGAZINE
CREDIT
-
- ライター
- 執筆
藤原かんいち
-
- 撮影
藤原かんいち
-
- バイク
パッソル
VOL.12 『 カウリの巨木を訪ねて 』[オーストラリア大陸編]
桁外れのキャンプ場
オーストラリア第2の都市であるメルボルンまで2日と迫った日の夕方、トーキーという町に着いた。
海辺に広がるこの町はサーフィンのメッカで、ハイウェイ沿いにはカラフルなサーフィンの店があちこちに立っていた。しかし、バイクツーリング&カナヅチの僕たちにはあまり興味の沸かない場所。とりあえずツーリストインフォメーションでホステルの場所を確認しようと、案内の人に声を掛けると、ななんと、今日はどの宿も満室で泊まれないというではないか。これだけ大きな町なのに空き部屋がひとつもないなんて...
「しまった! 今日は1月最後の週末なんだ!」
そう、南半球は夏真っ盛り。そして明日が、小中学校の夏休み最後の週末だったことを思い出した。おそらく夏休み最後をビーチで過ごす家族で宿はどこも満員なのだろう。
「うう~ん、これはマイッタ...」
ならばキャンプ場は? と思い尋ねると、キャンプならたぶん大丈夫、と嬉しい返事。2キロほど走り紹介してくれたキャンプ場に着くと、またビックリ!
キャンプ場入口には踏み切りを思わせる巨大ゲート。さらにキャンプ場の中に2車線の道路がドーンと通っている、なんて超巨大なキャンプ場だ。
驚きながら受付に入ると、壁に町の地図らしきものが貼ってあった。ところが近くで見ると、それは町ではなくキャンプ場の案内地図だった! さらによく見ると、キャンプ場内にあるひとつひとつの通りに名前まで付いているではないか。すごいなぁ... キャンプサイトにナンバーが振ってあるので、そのナンバーを順に辿ってゆくと...
「なに~っ、640サイト!?」
なんと640サイトもあるじゃないか。
僕たちが泊まるサイトのナンバーを聞き、案内図に行き方を描いてもらったが、あまりに複雑なため、向かっている途中で道がわからなくなってしまった。近くにいた人に聞き、ようやく自分たちのサイトを発見する始末。こんなこと初めてだ。
それにしても、宿泊施設もテントからキャンピングカー、キャビンまでなんでも揃っているし、トイレ&シャワー&ランドリーも7棟もある。さらに大きな運動広場にキッチンコーナー、ゲームセンター等などまであるのだから...
「これ、キャンプ場じゃなくて町だよ!」
「ホントだね」
オーストラリアらしい、なんともスケールの大きなキャンプ場なのであった。
カウリの巨木を訪ねて
メルボルンに着くと早速、敦子さん&マイルス宅を訪ねた。
ふたりは直接的な知り合いではないのだが、敦子さんの元旦那さんである高橋さんが僕の友人で、「メルボルンへ行ったら訪ねてみなよ」と紹介してくれたのだ。
訪ねたその日のメルボルンは何十年振りかの記録的な大雨で、カッパも役に立たないほど激しい雨だった。夏とは思えない寒さに震えながら、ようやく家にたどり着いたときは、ふたりに飛びつきたくなるほど嬉しかった。
ふたりは世界一周バイクツーリングの経験者。それだけに聞きたい話は山ほどあったが、その前に、バイクを一時預かってもらいニュージーランドへと飛んだ。
ニュージーランドはオーストラリアの東南に浮ぶ島国で、国土は日本の約4分の1。しかし、人口は約380万人と少なくて人口密度は日本の約24分の1あまり。主な産業のひとつが酪農で、羊は日本でも有名だ。徐々にその数は減少しているというのだが、それでも5000万頭と人間の10倍以上もいるのだからやっぱり羊の国なのだ。
北島と南島の二つがメインアイランド。僕たちは巨木が残る北島の玄関口オークランドへと降り立つと、数が減り貴重になったカウリの森が残るノースランドへと向かった。
波のようにどこまでもウネウネと広がる緑の丘を延々と走り続けた後、ようやく森が現れる。トラウンソン・カウリフォレストだ。キャンプ場に着くと早速、運がよければ野生のキーウィに会えるという、夜の森を歩くツアーに参加した。
懐中電灯を片手に冒険気分で歩いてゆく、ガイドさんが立ち止まるとキーウィの様子を探るため、明かりを全て消すように指示される。すると辺りはシーンと静まり返り怖いくらい暗かった。あまりに暗くて隣でヒロコが立っているのがわからない位だった。
2時間ほど歩いたが、結局キーウィには会えず。しかし、なかなか会えないポッサムや巨大なカタツムリや昆虫などに会えたこと、そして夜の森が体験できただけでも、十分に意義のあるツアーだった。
翌日、ニュージーランドで一番会いたかったカウリを訪ねるときがやって来た。
大きなシダや雨林が生い茂る緑豊かな森を20分ほど歩くと、周りの木々を圧倒するようなパワーを持った 巨木が姿を現した。"テ・マトゥア・ナヘレ"だ。マオリ語で「森の父」という言う意味なのだが、ドーンと存在感があってその姿はまさにファザー。それも今のナヨナヨした父親ではなく、小さなことには動じない、堂々としている大黒柱のような親父ようだった。
次に向かったのが現存するカウリでは最大の"タネ・マフタ"。「森の神様」と言う意味らしいが、果たしてどんな木なのか...
10分ほどで到着すると、少ししか離れていないのに、こちらは道に沿って観光バスと車がビッシリ。さっきの木は人が疎らだったのに、この違いは一体だ? どうやらこっちはかなり観光地化されているようだ。
少し興醒めしながら木道を歩いて行くと、木々の間から白くて大きな木がチラリと見えた。
「んっ、あれだっ!」
急いで歩み寄ると、おおおっ、これは大きい...ここまでカウリに何本か会ってきたが、高さといい、太さといい、スタイルといい別格。見る人を圧倒する存在感があった。
カウリは幹の下方の枝が自然に落ち、枝のない太い幹が天に向かってグーンと伸びて、その上方で枝が豊かに葉を茂らせているのだが、このタフネ・マフタはそのバランスがまさに芸術品級だった。
しばらく眺めていると、ふと3年前に訪れた屋久島の縄文杉を思い出した。そう、樹齢2000年を越えるというこのタネ・マフタ、どこか縄文杉に似ているのだ。そのことを話すとヒロコも同じようなことを感じていたという。周りに豊かな自然が残っていなければ生きられない。だが、もしかしたら世紀を超えて生き続ける巨木には、人間にはわからない共通した「何か」があるのかもしれない...
そんなことを思いながら、木を眺める僕たちなのであった。
未知の体験
その後さらにトタラの巨木を訪ね。ニュージーランド先住民族マオリの文化に触れ、トンガリロ国立公園ではトレッキングを楽しみ、再びメルボルンへ戻ってきた。
荷物とバイクを預かってもらっていた敦子&マイルスの家へ行くと、僅か2週間離れていただけなのにとても懐かしかった。ふたりのバイク世界旅行のことやふたりの出会いなど、夢中でおしゃべりをした。
家へ戻ったその翌日、何とマイルスのハングライダー仲間であるシェーンが、僕たちを軽量飛行機に乗せてくれるというので、僕たちは大喜びでメルボルンから250km北にあるワンガラッタという町へ向かった。
シェーンが持っている超軽量飛行機は、周りを仕切る壁や窓はなく運転席が剥き出し、見た感じはまさに空を飛ぶバイクだった。これに乗るのか! 前後2つシートがあるのだが、嬉しいことに前に乗せてくれるという。期待80%・恐怖20%で乗り込む。
ババババババッ...
「おおおっ、浮き上がった!」
もう、大興奮だ。それは普段乗っている旅客機とはまったく別の世界。全身で流れる風を感じていると、なんだか鳥の気分だった。だけどいつもは見上げている鳥たちが、いまは僕の下を飛んでいる。痛快だ。湖が近づきグーッと高度を下げたと思ったら、地面スレスレを水平飛行。ヒャホーッ! 地面が近いと自分が飛んでいることをさらに実感した。
1時間の飛行はあっという間だった。 さらにその次の日はヒロコのうん十回目の誕生日で、敦子&マイルスが郊外にあるお母さんの家に招待してくれた。丘の上にあるオシャレな家の庭で一緒にバーベキュー、その後には何とケーキとバースデーソングのプレゼント。その後は敦子さんの馬で乗馬までさせてもらい、もう最高に幸せな誕生日だった。
敦子さんとマイルスさんのお陰で心に残る、素晴らしいメルボルン滞在となった。
取材・文/藤原かんいち&ヒロコ (2005/02/28)
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