BBB MAGAZINE

  • 藤原かんいち電動バイク世界一周

    2007.11.01 / Vol.15

    電動バイク世界一周の旅『 グリーンカードへの長い道 』

CREDIT

VOL.15 『 グリーンカードへの長い道 』[ヨーロッパ大陸編]

藤原かんいちの冒険ツーリング

グリーンカードへの長い道

グリーンカード を手にした
行動6日目にしてようやくグリーンカード を手にした。長い道のりでした

世界一周の第3ステージ "ヨーロッパ大陸横断" のスタートの地であるポルトガルのリスボンでは、いきなりの試練が待ち受けていた。

「また断られちゃったねぇ...」
「このままじゃ自動車保険に入れないかもなぁ...」
「ええっ、ヨーロッパを走れないの!?」
全身の力が抜けていくのがわかった。

ヨーロッパにはヨーロッパのほぼ全部の国をカバーする "グリーンカード" と呼ばれる自動車保険があるのだが、ポルトガルで登録されたナンバーではないという理由から保険会社に加入を断られてしまったのだ。


ヨーロッパ大陸最西端ロカ岬
ついに来た。ヨーロッパ大陸最西端"ロカ岬"。後ろに見える十字架が岬の先端だ

最初に訪ねたポルトガルの自動車連盟(RAP)が紹介してくれた保険会社は3社。だが2つに断られてしまった。もし次も駄目だったら、完全にアウトだ。そこでRAPから、もし断られたら行くようにと言われていた、保険組合事務所へ先に行ってみることにした。
そこは曇りガラスの仕切りのあるカウンターが5つ並んだ、相談所のようなところだった。番号を呼ばれてイスに座ると僕たちは保険会社に断られたことを説明して、持っていたバイクの登録書とパスポートを手渡した。

しばらくして女性がカウンターに戻ってくると、保険会社から断られたその内容を書いた証明書(デクラレーション)をもらってきてください、そしたら何とかしましょうと言われる。
ええっ、あの保険会社をまた一軒一軒歩いて回るの!? 保険に入りたいことを説明するのも大変だったのに、今度はその内容を書いてもらうのか、これは大変だ。

考えるとぞっとしたが、それで "グリーンカード" が作れるのなら、やるしかない。
翌日。とりあえず残りの1社に行くと案の定、同じ理由で断られた。それからはほとんど通じない英語と片言のスペイン語でしどろもどろに状況を説明して、1日がかりで3社のデクラレーションを集め、再び保険組合事務所を訪ねた。


小さな町の古い水道橋
小さな町の古い水道橋をくぐり抜けるヒロコとマジェスティ。ポルトガルらしい風景だ

昨日の女性が書類を見ながら、ウンウンと納得したように頷くと2、3日で書類ができるから取りに来るように指示を受ける。これでグリーンカードに入れるのですよね、と確認するが、言葉がわからずよくわからない。まったくもう、どうなってるんだ!? とにかくやることはやった、あとは天に任せよう。

週が明けた3日後に事務所へ行くと書類を渡され、それを持って前回訪ねた保険会社へ行きなさいという。なんだかよく分からないがその書類を持って指定された保険会社へ行くと、あの苦労した"グリーンカード"がまるで魔法のように出来てきたではないか。
「わぁ、ついにグリーンカードが手に入ったぞ!」

両手を取り合い大喜びするふたり。保険会社のおじさんも嬉しそうに見ている。言葉が通じないので最後まで何がどういう経緯で保険に入れたのかよくわからないが、とにかく無事にヨーロッパを走れることになった。ああ、それにしても疲れました。

グラシアス、ロベルト!

ビラ・リアル・デ・サンオ・アントニオの町
ポルトガル最後の夜を過ごしたビラ・リアル・デ・サンオ・アントニオの町。静か...

ポルトガルはこれまでのアメリカ、オーストラリアに比べると、まるで時代を逆戻りさせたような風景が広がっていた。小高い山の頂に古い城壁が残り、その周りを取り囲むように白壁にオレンジ色の瓦屋根の家が並んでいる。とても21世紀とは思えない、絵のような風景があちらこちらに散らばっていた。

また、どこにでもある普通の町なのに、路地に迷い込むと中世にでもタイムスルップしたような風景なるので、次はどんな町なのか? 想像するだけで楽しくなった。

期待に胸を膨らませながらスペインとの国境を越えると、町の様子は一転した。壁はペンキを塗ったように真っ白になり、民家も敷地も一回り大きくなった。商店も大きなウインドーにたくさん商品が並んでいて近代的。そして道路に沿ってカラフルな花が植えられている。なんだか一気に豊かになった。


どこまでも続く青い空
どこまでも続く青い空に、綿菓子のような雲たちが気持ちよさそうに浮かんでいる。

アメリカやオーストラリアも州で多少変ることがあるが、やはり国だと全然違う。
スペイン南部のアンダルシア地方を東へ向かう。セビーリャからコルドバまで約170kmの道程。以前なら2日間かかる距離なのに、このヨーロッパから容量が1.5倍になった05年版の新バッテリーに替えたため、1日で着いてしまった。すごいぞ新バッテリー。

こんな劇的変化は普通のバイクではありえないこと、これもハイスピードで進化を遂げているバッテリー、そして未来バイクの電動パッソルだからこそのエピソード。
しかし、省エネのための時速30km走行だけは相変わらず、時間がかかるのは変わらない。コルドバに着いたときにはすでに午後6時を過ぎていた。


親切にしてくれたロベルト
親切にしてくれたロベルトは陽気でおしゃべりなアミーゴ。楽しい時間をありがとう

あわてて宿を探すが、満室だったりバイクの置き場がなかったりでいい宿が見つからない。1時間以上ウロウロしたが結局見つからず。郊外で探してみようということになり、広い道に入ると、横に並んだ車の窓から男が顔を出し
「それは電動バイクなのか? それで世界一周してるのか? すごいな!」

興奮気味に話しかけてきた。なんだかずいぶん興味シンシンだ。それから少し先へ行きバイクを止めると、その人は車からあわてて降りてきて、
「写真を撮ってもいいかい!?」

と嬉しそうに尋ねてきた。もちろんOKということで一緒に記念撮影。彼はロベルトという男で、ついでにいいホテルを知らないかと尋ねると、今週末は町のお祭りだからどこも満室じゃないかという。そうか、これは困った。ならばキャンプ場はないかと尋ねると、わざわざ通りがかりのバイクに聞いてくれ、さらに一緒に駅のインフォメーションまで確認に行ってくれた。実はロベルトはコルドバではなくマドリットの人だったのだ。


コルドバとメスキータ
コルドバとメスキータをバックに記念撮影。スペインはどの町にも見所がたくさんある

なんだかとても楽しい人でそれからすっかり意気投合。もうすぐここに友人が来るから、というので一緒に待つことにした。ロベルトは、マドリッドは車が多いから気をつけろと目を細め、サッカーはやはりリアルマドリッドだと熱く語る。そのひとつひとつのジェスチャーが大きい。そして友人が来ると、友人は状況も分からないまま車に乗せられ、すぐにキャンプ場へ向かった。

レセプショに入ると受付のお姉さんは英語で説明しているのに、さらにロベルトがそれを英語で僕たちに通訳をするので、思わず苦笑した。
最後にマドリットに来たらいつでも電話をしてくれと言い残すと、車でブーンと嵐のように去っていった。ちょっとせっかちだけど、最後までとても親切なロベルトなのだった。

これがスペインタイム

美しい風景
こんな風に絵になる美しい風景に毎日のように出会えるのがスペインの旅の魅力だ

グラナダの町で12時すぎにレストランへ行くと、客はひとりもなくガラーンとしていた。そうか、ここはスペインなんだ...と気がつき、飲み物で胃袋をごまかした。ここスペインでは昼食は正午ではなく、午後2時からが普通だったのだ。
それ以外もスペインではいろんなことで時間が狂いっぱなしだった。

一番大きいのはやはり食事で、朝食の時間が朝9時ごろからで昼食は2時から、夕食は8時過ぎと全てが日本より2時間も遅いのだ。
そんなわけで日本やアメリカにいるような感覚で12時過ぎにレストランへ行くと、まだ準備中だったり、6時ごろ夕食を食べようと思ったら、開くのが8時からだったり。初めは自分の時計が間違っているのかと思ったほど。この時間に慣れるまでは苦労した。


ヨーロッパは食が豊か
アメリカ・オーストラリアに比べるとヨーロッパは食が豊か、そして料理がおいしい!!

それからほとんどの商店や会社が2時から5、6時頃まではシエスタ(昼休み)でクローズというのにも驚いた。さすがにガソリンスタンドや大型のスーパーマーケットは開いているが、郵便局はその時間は人手不足になるので、かなり待たされることになる。

そして町が活気づくのは夜9時ごろからと遅いのもスペイン。町の繁華街も6時7時は人が疎らで、こんな状態でお店はやっていけるのか心配していたら、9時近くになって人がドッと町に押し寄せてきて、まるでお祭りのように賑やかになるのだ。

ある日「まだやってるかなぁ?」と心配しながら、夜10時過ぎにマクドナルドへ行ったら、うそーっと思うくらい客が溢れかえっていて、小学生くらいの子供が普通に食べていたのでビックリしたことがあった。それから客が少なくなるどころか、どんどん増えるのだからさらにビックリだ。

またフラメンコなどのショーが始まるのも9時過ぎで、終わるのは深夜12時過ぎることもざら、電車はまだあるのか? とにかくスペインの夜は長いのだ。

取材・文/藤原かんいち&ヒロコ(2005/06/01)

人気コンテンツ