BBB MAGAZINE
CREDIT
-
- ライター
- 執筆
藤原かんいち
-
- 撮影
藤原かんいち
-
- バイク
パッソル
VOL.26 『 素朴なレソトの子供たち 』[アフリカ大陸編]
これぞまさにベストタイミング
ポートエリザベスから単調な道を走り続けること8日間、ようやく南アフリカのど真ん中、ブルームフォンテンに到着した。ここはフリーステーツの州都なので高層ビルが立ち並ぶ大都会を想像していた。
ところが目の前に現れたのは、ノッペリした広いエリアにポツリポツリとビルが立つ、広大な田舎町だった。
町に着いたら宿探し。原稿書きで5日間は滞在するので、ここではいい宿に泊まりたい。
最初に訪ねたのがバックパッカーズ。これがなんだか倉庫を改築したような、おかしな宿だった。部屋を覗くと部屋に汚い二段ベッドが4つ。ううっ、まるで難民キャンプだ。さらに上を見ると天井がない。筒抜け状態、これじゃ隣の声も丸聞こえ、プライバシーもあったもんじゃない。さらに熱がこもりやすいのか、サウナのように蒸し暑い。これでひとり1600円は高すぎるだろ、ということでサヨナラ。
次の宿はベッドがあるだけのシンプルな部屋。しかし、窓が小さくて陰気臭い。それでもさっきよりはマシなのでチェックインしないが、一応キープ。
次に町外れにあるチェーン店ホテル"フォームミュラー1"へ行く。するとビックリ、料金がガイドブック(3年前)の2倍に値上がりしているではないか! こんな非常識な値上げ、日本じゃありえないぞ、とキレる僕たち。もちろん却下。
う~ん、困った... バッテリー残量は減るのに、いい宿が見つからない。
そして、4軒目にしてようやく理想的な宿に遭遇。大きな家が経営しているゲストハウスでバイクは敷地内、さらにトイレ・シャワー付き。中庭にはきれいな芝生が広がっている。これなら原稿もはかどるぞ。
ところが残念なことに値段が300R(朝食付)と高い。僕たちは200R以下を目安にしているので1.5倍だ。気のよさそうなオーナーのおじさんにお願いして、何とか240Rまでまけてくれたが... 「朝食は食べなくていいので、何とか200Rにしてもらえませんか?」
「いや、だめだ、これ以上はまけられない...」 「そこを何とか...」 「うーん、無理だなぁ...」
どうやらここが限界らしい。環境的には最高なんだけどなぁ...。そこでいままでの経験から「他を探してみるよ...」と立ち去ろうとすると、「待ちなさい、わかった安くしてあげよう」とオーナーが引き止めてくれたことが何度かあったので、諦めて出るふりをしてみることにする。
声をかけられることを期待しながら「わかりました、他を探します...」と寂しそうな顔で歩を進める。そろそろ声をかけてくるはずだが... あれ? おかしいな? えっ? うそーっ、止めてくれーっ。...なんと、そのまま外に出てしまったではないか。 「あははは... やっぱり世の中そんなに甘くないか...」
頭ポリポリ... 仕方がない。バッテリーが残り少ないパッソルとヒロコをそこに残し、マジェスティで他を探すことにする。だが30分走り回ってもいいところが見つからない。すると次第に「朝食付で240Rなら高くないかも...」と思えてくる。よし、あのゲストハウスに泊まろうと引き返すと、玄関の外でさっきのオーナーとヒロコが何か話しをしている。
「いまオーナーが出てきて、200Rでもいいよって言ってくれたんだよ」 「ええっ、マジで!? やったぁ!」 「絶妙なタイミングだったね。でも、もしかんいちが5分早く戻ってきていたら、240Rで泊まることになってたよ」 「あははは...確かにそうだ。運がいいなぁ!」
どこまでも悪運が強いふたりなのであった。
素朴なレソトの子供たち
ブルームフォンテンの快適な宿でスラスラと原稿を書き終えると(ウソだーっ)、四方を南アフリカに囲まれた小さな国"レソト"へ向かった。レソトはソト族(バソト)が99%以上、国土の大部分が標高2000mを越えるという高地の国。
国境を越えてレソトに入ると、雰囲気がガラッと変わった。
ウイルダネスでは、町の中心から離れた丘にある、古い農家を改造したBPに宿泊した。6人部屋だったが僕たちの他に宿泊客はなく、とても静か。窓の外は豊かな林が広がり、夜は満天の星が広がる。あまりの心地よさに2泊もしてしまった。南アフリカはまるでオセロのように黒人と白人が住むエリアが分かれていた。そして家がギュッと集まった住宅地から一歩出ると、集落もなく広大な農地が延々と広がっていた。ところがレソトでは丘の斜面に小さな家が無造作に点在、さらにその周りには小屋があったり、小さな畑があったり、牛を放牧していたり、自由奔放に生活している。何だかすごく平和そうだ。考えてみればこれが当たり前。僕は改めて南アフリカは特殊な歴史を持った国だということを実感した。
さらに人々の表情も変わった。特に子供たちは走っているバイクを見つけると、みんな嬉しそうに手を振る。そしてこっちが手を振り返すと、キャッキャと無邪気な声を上げて喜ぶ。きっとテレビのヒーローを見つけた気分なのだろう。
また時折、路肩を歩いている子供に走りながら「ハロー!」と笑いかけると、とんでもなく幸せそうな笑顔が返ってくる。子供の笑顔は宝石のようだというがまさにその通りだった。そんな笑顔が見たくて、僕は子供の姿が見えるたびに大きく手を振った。
そんなあるとき。バッテリー交換で止まっていると、僕たちを見つけた子供たちが走って集まってきた。無邪気だなぁと思って見ていると、何と手を差し出し 「ギブミー1ランド(現地のお金)」「スイーツ(飴ちょうだい)」 とねだるではないか。なんと、無邪気な子もいるけど、こういう現実な子もいたのだ。きっと以前の旅行者の誰かが子供たちに飴やお金をあげたのだろう。
どうしようかと思ったが、このときはあげないことにした。大人が知り合いの子供にお菓子やお小遣いをあげるのは日本でも普通の感覚。ただ、たくさんの子供にばら撒くようにあげるのは、ちょっと抵抗があったからだ。でもこれはとても難しい問題。これからこういう場面は増えるはず。いつか自分なりの答えを出してみたいと思う。
やっぱり僕は生馬よりも鉄馬!?
レソトで一番の目的地"マレアレアロッジ"に到着した。山の中にあるこのロッジは、ポニートレッキングができることで有名。僕たちはいつもの鉄馬をしばらく休ませて、生馬に揺られトレッキングへ出かけることにした。
出発したのはいいが、僕のポニーは道草ばかりでなかなか進まない。周りはおいしそうな草がわんさか生えているので、確かに食べたくなるのもわかるけど... 3歩進んでムシャムシャ、5歩進んでバリバリ。これじゃ日が暮れちゃうよ。
最初は鞭を持たされなかったが、こりゃダメだと思ったのか初老のリーダーが「動かなくなったら、これで尻をビシビシ叩け!」と鞭代わりに木の幹をくれた。
「こらっ、走れ!」「いいぞ、いいぞ、その調子!」
鞭の効果か、それから徐々に自分が思うように動いてくれるようになった。あははは
なるほど、人間も馬も同じ「アメと鞭」というわけか。
それでも慣れている鉄馬と違って、生きている馬を乗りこなすのはなかなか難しかった。相手も意思を持った生き物だから当然だ。だが逆に、お互いの意思が通じて思うように動いてくれたときの喜びは格別。乗馬も奥が深い。
トレッキングのルートはこれまで見たアフリカの風景の中で一番じゃないか、と思うようなパノラマ風景の中を進んで行った。岩山、草原、渓谷、川、滝、広い青空...ため息が出るような絶景が連続する。馬の背に揺られながら、すばらしい風景を眺める気分は最高だった。ポニー、最高。
無邪気な子供たちの笑顔と馬の背から見たこの風景を一生忘れないだろう。
野生動物も人間も同じ地球生命
レソトの次に向かったのが、これまた日本では馴染みの薄い"スワジランド"。南アフリカとモザンビークに国境を接する国で、国土はレソトよりさらに小さく、北南約300km、東西約200kmしかない。車なら半日で通過しまう小さな国だ。
ここまで小さいとみんなどうやって生活しているのか? 仕事はちゃんとあるのか? 国として大丈夫なのか? なんだか心配になってくる。
まずはエズルウィニ渓谷にある"ムリルワネ野生保護区"を目指す。この地区の中にバックパッカーズがあり、そこから歩いてサファリができると知ったからだ。
ガタガタ道をしばらく走ると、草木を重ねて作ったかまくら(半球型)ような小屋とゲートが現れる。ここからが保護区。周りは腰の高さ位の草がズーッと生い茂っている。ゲートから1kmで宿に到着。この周りは木々に囲まれた別世界。きれいな建物に広い芝生、そしてプール。ベンチの並んだテラスもある。なかなか居心地が良さそうだ。
一泊した翌朝、早速トレッキングに出かける。だが10分歩いても何も見当たらない。
「何だよ、動物なんて全然いないじゃん!」
文句を言っていていると丘の中腹に動く物体... おおっ、シマウマが2頭いる。優雅に草を食べている。すごい、すごいと大興奮。さらに進むと、今度は黒い物体が草むらでガサガサと動いた... むむっ、今度はイボイノシシだぁ。これまた不恰好な...。でも何だか愛くるしい。丘の上に出ると、いるいる。僕たちの先10m位のところにインパラ(鹿類)の群れがワサワサ歩いているではないか。こんなに近くで見られるなって、大感激。
さらに30分歩き、カバが出るという池までやって来た。それらしい足跡、それらしい唸り声と水の音は聞こえるが、姿は見えない。カバちゃん、出てきて! それから1時間以上待ったが、結局カバは姿を見せることはなった。
残念だったが僕は不思議と満足していた。それはきっと人間も野生動物も同じ大地に立ち、同じ空気を吸い、同じ時間を共有しながら生きている、ということを感じることができたからだと思う。アフリカの大地はいろんなことを教えてくれる。
ルート = 南アフリカ/ブルームフォンテン → ネルスプリット
総走行距離:30,235km(アフリカの走行距離:3,237km)
取材・文/藤原かんいち&ヒロコ
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