BBB MAGAZINE
CREDIT
-
- ライター
- 執筆
藤原かんいち
-
- 撮影
藤原かんいち
-
- バイク
パッソル
VOL.28 『 16年ぶりの再会 』[アフリカ大陸編]
緊急入院!?
ブランタイヤで意を決し、病院へ行くことにしたが、どこへ行けばいいのかわからない。とりあえず泊まっている宿のオーナー・マキさんに相談すると「心配だな、それなら僕が知っている病院へ行こう!」とわざわざ車を出してくれ病院まで送ってくれた。
言葉の通じない外国、それもアフリカの病院。さすがに緊張する。設備が整った日本の病院とは雲泥の差ながら、とりあえず清潔そうなのでホッとする。
ところが、体温と血圧を計った後、いきなり注射で血を抜かれる。なんだ、と思ったらマラリア検査だという。なるほど。どうやらマラウイでは、熱が出たらまず最初にマラリアを疑うらしい。それほどマラリアになる人が多いということか。確かに"マラリア"と"マラウイ"似てるからなぁ...あっこれは関係ないか。
数日前から足に小さな傷ができていたことを話すと、ドクターはおそらくそこからばい菌が入ったのだろう、という。何はともあれ重病ではないと診断され、気が楽になる。変な病気じゃなくて本当によかった。アフリカには色んな病気があるからなぁ。
だがこれでは終わらなかった。2日経っても良くならず再び病院へ行くと、なぜか入院することになってしまったのだ! 生まれて初めて車椅子に乗せられ病室へ運ばれると、腕とお尻に注射、さらに点滴が2本。そんなに重症なのか!? 本当は一晩入院するようにと言われたが、僕は夕方には熱も下がりリンパの痛みもなくなったので大丈夫だと自己診断、ドクターにお願いをして強引に退院をした。そう僕は病院が大嫌いなのだ。
日本の常識、マラウイの常識
マラウイに入ってからというもの食堂に入って注文してから、料理が出てくるまで、やけに時間がかかるようになった。1時間近く待つこともザラで、日本だったら昼休み時間が終わってしまうほど遅いのだから、恐れ入る。
僕たちは「きっと注文を受けてから肉をさばいているんだよ」とか「いやいや、まずは生きているニワトリを追っかけているじゃないか!?」と冗談を言い合っていた。
そんなある日。マラウイ南部のリオンデという町のホテルに泊まった。レストランのある宿だったので、前日に明日の朝食(壁には英国式朝食と書かれていた)を注文しておいたのに、明朝テーブルに運ばれてきたのは吃驚仰天、"お粥"だった。英国式って書いてあったのに、お粥ってどういうこと? 何かが違うぞ! 首を捻るもつかの間、コックさんが裏口から出て行き、自転車に乗ってどこかへ行ってしまったではないか。
「おーい、僕たちの朝食はどうなったんだぁ?」
「まさか、お粥だけで終わりじゃないでしょうね!」
ブーイングをするふたり。そして待つこと30分。ようやくコックさんが帰ってきた。よく見るとハンドルにビニール袋をぶら下げている。どうやら卵と食パンを買いに行ったらしい。
「おいおい、普通、レストランなら最低それくらいは常備しているだろ...」
と呆れる。それにしてもまさか、冗談で言っていたのに、ホントにそんな状態だとは思わなかった。その後、他の食堂でも注文を受けてからジャガイモの皮を剥きはじめたり、米を炊きはじめたりするところを何度も目撃。"タイム・イズ・マネー"の日本ではとても考えられないことだが、ここはアフリカのマラウイ。ここにはここの常識があるのだ。
それからは食事をするまで1時間待つことが普通になり、たまに30分ぐらいでできてくると「おおおっ、早い!!」と感動するようになる。ああ、習慣って恐ろしい。
ギブミーが挨拶!?
それにしても...マラウイ、道を歩いている人、自転車に乗っている人が異常に多い。
メインルートを走っていると、次から次に集落が現れ、民家が途絶えることがなかった。こんな国は初めてだ。近年アフリカは人口が爆発的に増えていると聞いていたが、目の当たりした感じだ。そして子供の数がものすごく多い。通学の時間になると道に子供が溢れ返り、道路沿いにある学校にも子供がわんさかいた。その子供たちがバイクを見つけると嬉しそうに手を振るのだが、その姿が何とも愛くるしかった。
胸元で控えめに小さく手を振る子、指をピシッとくっつけてぎこちなく手を振る子、ピョンピョン跳ね回りながら大きく手を振る子、みんなそれぞれ個性豊か。
また学校で習っている英語を外国人で試したいらしく「ハウアユー?」「ワッチュユアネーム?」と声をかけてくる子も多かった。そこで僕が「ファインサンキュー、アンドユー」と応えると、まさか返事が返ってくるとは思っていなかったようで、ドギマギしながら、蚊の鳴くような小さな声で「フ、フ、ファイン、サンキュ...」。本当に純朴。そんな子供たちの純粋無垢な笑顔を見ているだけで、心が癒された。
ところが、首都のリロングェに近づくにつれて子供たちの手の平が、こちら向きから上向きにチェンジした。通りすがりの僕たちに向かって「ギブミーマネー!」と叫ぶ子が現れたのだ。マラウイの英語の教科書には「ハロー」「ハゥアユー」の次に「ギブミーマネー」と書いてあるんじゃないか? というくらい多かった。
あるところでは道端に止まってバッテリー交換をしていると、子供が傍に来て「ギブミーマネー」。さらにおなかを擦りながら「ギブミーフード」。ノーと答えると、穴の開いたシャツを指差して「ギブミー」といって来たので、目が点になった。しかし、悲壮感はあまりなく、まるでひとつの遊びのようだった。
だがその後で、ノーと応えたものの、お金はまだしもクッキーぐらいはあげればよかったか...と後悔する。しかし、そんなことをしてもキリがないだろうし、ただ物をあげるというのはどうだろう? それは僕にとっていつまでも答えの出ない難問のようだった。
16年ぶりの再会
リロンゲェではある人と会う約束をしていた。
ヒロコが昔勤めていた会社の人で、現在タンザニアで農村開発プロジェクトに参加している田村さんが、マラウイでJICAの仕事をしている岡田さんという友人がいるので、会ってみたらどうかと紹介してくれたのだ。
ホテルで待ち合わせをすると、岡田さんがシニアボランティア隊員の本岡さんという方を連れて現れた。さすがに旅人とは違ってきれいな格好をしている。挨拶もそこそこに4人で中華料理店へ向かった。ふたりには初めて会うのだが、気さくな方ですぐに打ち解け、笑顔がこぼれる楽しい場となった。そこで岡田さんが
「バイク旅行か、いいなぁ。そういえばずっと昔、ゴリラという小さなバイクで世界旅行をしている人がいて、家に泊めたことがあったなぁ...」
ポロリとこぼした。確かに5年ほど前、ゴリラでアフリカを走っている知人がいたので、その人だろうと思っていたら...
「いつごろかって? 僕がまだ協力隊員だった時だから、20年も前になるかな...」
「えっ!? 実は僕、ゴリラで1990年にアフリカを走ってるんですよ」
「ホント!? あれは確か任期の最後の年だから...そうだ、1990年だ」
「ええっ。で、どの辺りに住んでいたんですか?」
「タンザニアのムベアという町から北へ80km位の...」
「ああ、思い出した、それ僕ですよ、絶対!」
それからお互いが覚えている微かな記憶を少しずつ組み合わせて行った。そしてついに、95%間違いなく、僕が16年前にゴリラで世界一周のときにお世話になった人であることがわかった。
何という偶然。こんなことがあっていいのか!
ところが、ここで「お、お、おおっ、あのときの!」と思い切り喜べないのが辛かった。何せお互い、名前も顔も忘れてしまっているのだ。16年も前だから、仕方がないと思うが、お世話になった僕が忘れているとは、何て失礼なことか。申し訳なく感じる。
それにしても、16年ぶりの再会がこんな風にやってくるとは、想像もしていなかった。旅とはつくづく不思議なものだと思う。
日本人ライダーが4人大集合
サリマという小さな町で、夕メシを食べようと町中をウロウロしていると、前方から荷物を積んだバイクが2台走ってきた。珍しいなぁ...ツーリングバイクかな?と思っていると「ヒロコさ~ん!」と呼ばれビックリ。んっ? 日本語? もしかして? みっき!?
慌ててブレーキ。ヘルメットを取ると、何とケープタウンからアフリカを縦断、北上しているみっきとリコちゃんじゃないか。何という偶然。10日くらい前のメールでジンバブエにいることは知っていたが、まさかこんなところで会えるとは夢にも思わなかった。
みっきとは海外ツーリングのクラブ(WTNJ)を通して2年位前からの付き合い、しかしリコちゃんと会うのは初めて。ふたりとも関西出身でノリは最高、おまけに美人ときている。だた年齢だけは不詳ということにしておく...。とりあえず、ふたりを僕たちが泊まっている宿に引っ張り込み、祝杯を上げる。カンパーイ! ホントに会えて良かった。
それからしばらく付かず離れずマラウイを北上する。12日にあるワールドカップ初戦、オーストラリア戦に合わせて、ムズズという町で再び合流。そこでリロングェで知り合って青年海外協力隊員の人が紹介してくれた隊員、森さんのお宅へ御邪魔することになる。
午後3時、近所のバーへ行き一緒に観戦。最初に1点を先行して前半はかなり盛り上がったが、後半になってバタバタと3点を取られ、惨敗。5人でガックリと肩を落とし森さんの家へと戻った。思い出す度に悔しくなる。
気分を変えて森さんのところでもう一日お世話になる。そしてたまっていた洗濯をしたり、一緒に夕食を作って食べたり、森さんの貴重なお酒を飲んだり、5人で楽しい時間を過ごした。久しぶりに日本語をいっぱい話し、ストレスを解消する。
翌日、お世話になった森さんにお礼を言って家を出る。そしてその後みっき&リコちゃんともお別れ。ふたりとも気をつけてよい旅を。ケニアでまた会おう!
ルート = (南アフリカ)ネルスプリット→ピーターズバーグ→(ジンバブエ)マスビンゴ→ハラレ→(モザンビーク)テテ→(マラウイ)ブランタイヤ
総走行距離:32,396km(アフリカの走行距離:5,598km)
取材・文/藤原かんいち&ヒロコ
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