BBB MAGAZINE
CREDIT
-
- ライター
- 執筆
藤原かんいち
-
- 撮影
藤原かんいち
-
- バイク
パッソル
VOL.29 『 夢のバオバブ・アベニューへ 』[アフリカ大陸編]
隣の国同士なのに
なんだかんだで、1ヶ月近くもかかってしまったマラウイ縦断。気が付くとビザの有効期限残り2日! もし期限を過ぎたら... 強制退去か!? 罰金か!? とにかく、どうなるかわからないので、大急ぎでタンザニアとの国境へ向かう。
マラウイ北部は見渡す限り田んぼが広がっていた。ちょうど稲刈りの時期らしく、稲穂が頭を垂れている。あちらこちらに人が集まり、束ねた稲を地面に勢いよくバチンバチン叩きつけて脱穀。アフリカは農業もワイルドだ。
残り1日のところでマラウイを無事出国! タンザニアに入ってまず驚いたのが、人の体格がとてもいいことだった。マラウイ人が小柄で細かったせいもあるが、それにしてもみんな肉付きがよく、背が高い。きっと栄養がいいのだろう。
走り出して驚いたのが、頭の上に物を載せている人が少ないこと。マラウイでは頭の上に載せてない人を探すのが大変だったのに... バケツを頭に載せず手に持っていたりすると、なんだか違和感があり、思わず「違うぞ~! 頭に載せなきゃ」と叫んだ。
少し落ち着いたところでバッテリー交換をしていると、たくさんのオレンジを抱えたオバちゃんがいきなり現れ「200シリングでこのオレンジ買って!」と迫ってきた。なんて、積極的なんだ! シャイな人が多いマラウイでは、こんなこと一度もなかった。陸続きの隣国なのに、マラウイとタンザニアずいぶんと違うもんだ。
アフリカの現実
タンザニア最初の町ツクユに入る手前、道路がバリケードで封鎖されていた。どうやら検問らしい。バイクを止めると、私服のポリスが近づいて来る。
アフリカは検問が多く、これまでも僕たちを一目して「なぜ男が小さなバイクで、女が大きなバイクなんだ?」とわけのわからないことを何度も質問された。そんなときは面倒なので「僕と違って彼女はリッチなんだよ~」と応えていた。すると大ウケで、すぐにパスになるからだ。
まあ、そんな感じで今回も簡単だろうと思っていたら、ここは違った。僕が日本人だとわかると、若いポリスがいきなり「俺のスポンサーになってくれないか?」と言い始めたのだ。
最初はどういうことなのか意味がわからず、ポカーンとしてしまった。だがよくよく聞いてみると「ようやく新しいビジネスを始めたいから、スポンサーになって欲しいんだ」と言っていることがわかった。
おいおい、よく考えてくれよ。初対面のどこのどいつともわからないヤツに、お金を出す人がいると思うか? 「そんなのムリ、ムリ......」と断るが、とりあえず住所だけでもいいから教えてくれよ、としつこい。あまりの図々しさに頭にきた僕は、
「日本はタンザニアに橋とか道とか色んなものをスポンサードしているんだよ、なのにさらに旅行者からもむしり取るつもりか!」
強く断ると、渋々ながら開放してくれた。やれ、やれ...
それにしても、アフリカでは子供がいきなり「ギブミーマネー」と手を出してきたり、ポリスが「俺に何かギフトはないのか?」と迫ってきたり、どうしてこうも人から物やお金をもらおうとする輩が多いのだろう?
これはもしかしたら、あまりに欧米や日本がいろんな援助をしたため、アフリカ人がもらうことに慣れてしまったのかもしれない。そう考えると、日本人の僕たちにも少し責任があるのかな、と思うのであった。
ミクミ国立公園をバイクサファリ
日本で「アフリカ」と聞くと、どこを走っていても象やキリン、シマウマなどの野生動物に遇えるようなイメージがある。ところが実際は、ほとんどの野生動物は国立公園や自然保護区に棲んでいるため、ツアーなどに参加しなければ遇えないというのが現実だ。
ところがタンザニアの東部にある"ミクミ国立公園"は、公園の真ん中を一般道が通っているため、バイクでの走行もOK。バイクに乗りながら野生動物に遇える可能性大、と知った僕たちは、公園を通過する前日から、ワクワクソワソワ...落ち着かなる。
「ライオンに会えるかなぁ」
「やだぁ、襲ってきたら、パッソルじゃ逃げられないよ~」
「そうだな。でもパッソルに乗って象やキリンに遇えたら最高だろうなぁ!」
「ホント、楽しみ~っ」
食堂ではしゃいでいると「お前たちバイクであの道を走るのか? 絶対に途中で止まるなよ。ライオンに襲われるぞ。昔、道のすぐ横を歩いているのを見たことがあるんだ」と地元の人に脅かされる。「僕たちは運がいいから、大丈夫だよ...」と笑い飛ばしながらも、心配になる。とりあえずふたりで話し合い、いつでもすぐ逃げられるよう公園内ではエンジンは止めないことにする。
公園に入ると「どこかに動物はいないか...」周りをキョロキョロ注意しながらパッソルを走らせる。30分ぐらい走ったところで100mくらい離れた草原に巨大な物体を発見!
「もしかして... おおっ、すごい、象だ!」
「象がこんな近くで見えるなんて、ウソみたい!」
「おおっ、写真だ、写真だ! 象と一緒に撮ってくれ~っ!」
初めての体験にふたりとも上を下への大騒ぎ。動物園や車のサファリと違って、動物と僕たちの間には柵も、窓もないのだ。これが興奮せずにいられるか!
その後もインパラの大集団を見つけたり、道を悠々と横断するキリンを目撃したり。まさに興奮と感動の2時間であった。
夢のバオバブ・アベニューへ
2006年7月15日。遥か先のことだと思っていたゴール地、ナイロビの高層ビル群がついに見えてきた。いよいよアフリカの旅も終わりだ。
これまではゴールが見えてくると、無事ここまで来られてよかった... もう走らなくていいんだ... とホッとしたもの。ところが今回だけはちょっと違った「もっともっとアフリカを旅していたい」そんな気持ちが込み上げてきたのだ。僕にとっては、それだけ刺激のあるアフリカの旅だったのだろう。
ナイロビの宿泊予定地"ジャングル・ジャンクション"に着くと、旅先から何度かメール交換をしていた、バイク世界旅行中の中澤夫婦が笑顔で僕たちを迎えてくれた。
ふたりは僕たちとほぼ同じ時期に旅をスタート。その後ユーラシア大陸を横断、さらに西アフリカを旅して一足先にナイロビにやって来た。到着の夜には、嬉しいことに料理が得意な中澤夫婦が、肉じゃがを作ってご馳走してくれた。 「ああ、おいしい!」
懐かしい醤油の味が胃袋に染み渡る。やはり日本食はおいしい。そして僕たちはアフリカの旅が終わったことを心から実感... おっと待てよ、アフリカ最高のメインイベントが残っていた。そうだ、これからアフリカ大陸の東に浮かぶマダガスカル、この旅を計画する前からの憧れていた場所、"バオバブ・アベニュー"を訪問しなくては!
アテネへ送るバイクの輸送手続きを整えると、マダガスカルへ飛ぶ。
首都アンタナナリブまで4時間、そこからさらに1時間飛行機に乗り、ムルンダバという小さな海辺の町にやって来た。少しの休憩を挟むと今度はタクシーに乗り込み、さらにデコボコの悪路を1時間。ついに、まっすぐとそそり立つバオバブが、道に沿って何本も立つ"バオバブ・アベニュー"が目の前に現れた。興奮しながら車から飛び降りる。「おおおおっ! これが、あの、バオバブ・アベニューか!」
「写真もきれいだったけど、実物はそれ以上だね...」
見ていると、太陽の光によってバオバブの表情が刻々と変化する。そして西の空がオレンジに染まるそのとき、独特な形をしたバオバブたちのシルエットが、一段ときれいに浮かび上がった。それは息ができなくなるくらい、幻想的な風景だった。こんな美しい風景、いままで見たことがない... 地球上にこんな素敵な場所が存在していたこと、そしてその場所に来られたことが、素直に嬉しかった。
ありがとう、アフリカ。かけがえのない素晴らしい時間をありがとう。
ルート = (タンザニア)モロゴロ→ダリ・エス・サラーム→モシ→アルシャ→(ケニア)ナマンガ→ナイロビ...空路...マダガスカル・アンタナリボ...空路...ナイロビ
総走行距離:35,727km(アフリカの走行距離:8,729km)
取材・文/藤原かんいち&ヒロコ
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