BBB MAGAZINE
CREDIT
-
- ライター
- 執筆
藤原かんいち
-
- 撮影
藤原かんいち
-
- バイク
パッソル
VOL.32 『 灼熱のトルコ南部そしてシリア 』[アジア大陸編]
カッパドキア殺人事件
カッパドキアの"ギョレメ"は、奇岩に囲まれた谷間の静かな町だった。観光地だけに小さなペンションタイプの宿がたくさんあるが、基本的には小さな田舎町、ゆっくりするにはもってこいだった。僕たちは月に1度、1ケ所に4~7日間ほど滞在をして原稿を書いているのだが、今回はギョレメに決定だ。
ギョレメ滞在6日目の夜。宿で働いているお調子者のあんちゃんが「この町で殺人事件があったんだよ...」と涼しい顔で言う。内容を聞くと、ある兄弟のお兄さんの奥さんを弟が奪って逃走。ふたりの行方を探し回っていたお兄さんが、ギョレメのレストランでふたりを発見。興奮したお兄さんが、持っていた銃で弟と妻を銃殺したというのだ。そういえば昼間、爆竹のような爆音が聞こえたなぁ...あれが銃声だったのか。それにしても宿から100mも離れていない場所で殺人事件とは、恐ろしい!
さらに驚いたのが翌日そのレストランへ行ってみると、何事もなかったように普通に営業していることだった。日本なら現場検証の警察がいて、周りにはテープが張り巡らされていて、立入り禁止になっているはず...。それがまるで何事もなかったように、のんびりしている。う~ん、トルコという国がますますわからなくなってきた。ただひとつわかったのは、"男女の愛の縺れは怖い!"のは世界共通ということだった。
灼熱地獄、気温40度を越える
「うへ~っ、ついに40度越えたよ!!」 「本当か? 人間の体温だったら倒れているぞ!」 8月下旬。トルコの南部はまさに灼熱地獄だった。周りはカラカラに乾いた半砂漠地帯。南下するに伴って一日一日と気温が上昇、シリア国境に近いアンタクヤでついに41.5度を記録した。それも走行中の気温なのだから、凄まじい。
木も生えていない不毛の大地、休める木陰がないためひたすら走り続ける。携帯しているペットボトルに口をつけると、カップヌードルができそうなほど熱いお湯になっているのだからたまらない。時折、ガソリンスタンドを見つけては飛び込み、日陰にバイクを止めて息を整え、冷たい水を買ってがぶ飲みする。
「ぷぅはぁ~、生き返る~」 そんな様子を見ていたスタンドの店員が笑いながら「ここに座りなさい」と椅子を持ってきてくれたり、甘いチャイを入れてくれたり、何かと気を使ってくれた。トルコ人の優しさが心に染みる。
宿についてもまだホッとできない。荷物の量が人の3倍以上もある僕たちにとって、実は荷物を部屋へ運ぶ作業が1日で一番きついの肉体労働なのだ。特にエレベータのないところは大変(ほとんどない)で、3階や4階の部屋とバイクまで、階段を3往復しなければならならず、終わったときにはTシャツは絞れるほどグッショリ。顔と髪はまるで水を浴びたようにびしょ濡れになっている。荷物を全て運び終えると、気を失うようにベッドへ倒れこんだ。
シリア人の素顔
トルコからシリアに入る。最初に訪れたアレッポはシリアで二番目に大きな町。中心部に入るとまさに中近東という雰囲気で、道路はポンコツカーが大渋滞、小さな店がゴチャゴチャと軒を並べている。けたたましいクラクション音、動く度に舞い上がる砂埃、忙しそうに行き交う人々、活気に満ち溢れている。
ホテルのある小さな路地に入ると、むさくるしい男にワッと囲まれた「日本人か?」「日本からバイクで来たのか?」「なぜ大きなバイクに女が乗っているんだ?」等々質問の嵐。しかし、みんな威圧的ではないので、いやな感じはしなかった。
水やジュースを買いにお店に入ると、必ずどこの国から来たんだ?と聞かれる。そこで日本人をわかると喜び「それはグットだ」と笑う。(その理由は定かではない)またしばらく町に滞在をして顔見知りになると、店の前を通るたびに、ニッコリ頷く。素朴で穏やかな人が多かった。
アレッポを出てハマへ向かっている途中。路肩でバッテリー交換をしているとバイクが止まった。何か話しているがアラビア語なのでよくわからない。だがその様子から「その向こうに僕が住んでいる村があるから、家でお茶でも飲んでいかないか?」と誘ってくれているのがわかった。なんとも嬉しいお誘いであった。
とにかくシリアのバイク野郎たちは僕たちに興味津々で、追い越して行くときにも必ず一度振り返り、僕たちの顔をまじまじと見る。そして、ウンウンと頷き納得すると、嬉しそうに走り去って行く。またバイクを並行して走らせながらアラビア語で質問してくるバイクも多かった。特に多いのが指を擦るゼスチャーをして「そのバイクいくら?」という質問。2000ドルだと応えると、けっこうするんだなという顔をして走り去って行く。さらに、時折、速度の遅い僕たちの後ろをスピードを落としてずっとくっ付いてくるストーカーまがいの暇人ライダーまでも! とにかくシリア人はみんな好奇心旺盛なのである。
レバノン杉は遠かった
この旅のテーマである巨木に会うため、レバノンへ向かった。レバノン北部の山中に、聖書にも出てくる貴重なレバノン杉の森があり、世界遺産にもなっているのだ。しかし、杉まで後3日のところで予想外の情報が入ってきた。レバノンを旅してきた日本人旅行者が、レバノン北部の国境は閉鎖され、起点となるトリポリの町も危険で入れなかったというのだ。南部はイスラエルとの問題があるので情勢がよくないというのは聞いていたが、北部の方が危険だったとは知らなかった...
そこでわかったのが、実はレバノン北部にあるパレスチナ難民キャンプに潜むイスラム過激組織とレバノン軍と間でかなり激しい戦闘があり、それがトリポリ市内まで飛び火している、ということだった。その話を聞いたヒロコは一気にトーンダウン。危ないからレバノンは止めよう、と眉を曇らせた。でも、木があるのは山の中だから大丈夫だよというが、「そんなの行ってみないとわからないじゃない」とすっかりナーバスになっている。ここまで来て引き返すのは辛いし、行きたいのは山々だが、ヒロコがあの状態では...。どうするべきなのか?頭の中で葛藤が続く。
一日考えた結果。命がなくなったら元も子もない、きっとまたチャンスはあるだろうと頭を切り代え、断腸の思いでレバノン行きを諦めることにした。
ネムルトダーゥ
シリアのハマから北上。再びトルコに入る。「メルハバ!」「テキシュレデリム!」わずか5日間離れていただけなのに、トルコ語が懐かしく感じる。 トルコに再入国して3日目、なだらかな起伏の荒野の中にポツンとある、砂の舞う小さな町キャフタへやって来た。さあ、ここからトルコ後半のハイライト、"ネムルトダーゥ"へ行くのだ。ネムルトダーゥは標高2000mを越える山の名で、その山頂には紀元前1世紀のコンマゲネ王朝時代に造られたとされる巨大な神像がある。
山頂までの道は厳しい急斜面の続くと聞き、バイクではなくツアーに参加することにした。たまにはバイクを離れるのもいい気分転換なるだろう。 偶然にも世界一周旅行中だという日本人、志田さん夫婦と同じ車になり、日本人だらけの楽しいツアーとなった。カラクシュ、ジェンデレ橋、アルサメイサ...など石像やレリーフを見学した後、ネムルトダーゥへ向かう。激しい急カーブと急坂の山道を、砂埃を巻き上げながら登り続けること1時間、ついに待望のナムルトダーゥが見えてきた。
駐車場で車を降りると後は歩き。石がゴロゴロと転がる足場の悪い山道を20分ぐらい歩いただろうか、神像が並ぶ場所へたどり着いた。
「ついたぞ。おおおっ、すごい!」 岩のかけらを積み重ねた山頂を背に5体の神像とワシとライオンの像が並んでいる。巨大な首は地震で転げ落ちたそうだが、まるで生きているような存在感があった。今にも目を開いて、僕たちに何か語りかけてきそうだ。
「この神像たちは、この夕日を何世紀も見守り続けているのか...」 途方もない大きな時の流れを肌で感じる。僕たちはその場に佇み、空を赤く染める壮大な夕日と、それを見つめる神秘的な神像が創り上げる、ロマンチックな時間をゆっくりと楽しんだ。
現在地:トルコ・キャフタ(2007年9月12日付)
総走行距離:38,769km(アジアの走行距離:2,162km)
今回のルート:Goreme→→Nigde→→Dortyol→→Antakya→→(SYRIAシリア入国)→→Aleppo→→Hama→→Aleppo→→(TURKEYトルコ再入国)→→Gaziantep→→Kahta
訪問国数:36カ国
文/写真:藤原かんいち&ヒロコ
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