BBB MAGAZINE
CREDIT
-
- ライター
- 執筆
藤原かんいち
-
- 撮影
藤原かんいち
-
- バイク
パッソル
VOL.34 『 すべての距離が近いインド人 』[アジア大陸編]
ポリスと一緒に町を観光!?
パキスタン最初の大きな町クエッタまで、バイクと共に無事辿り着く事が当面の目標だった僕たちは、クエッタのホテルに入ると、長距離走行の疲れとクエッタに着いた安堵感に包まれ、部屋に入ると糸が緩んだ操り人形のようにへなへなとベッドへ倒れ込んだ。
翌日。クエッタ到着を祝うために郊外の中華料理屋へと向かった。
「よーし、食いまくるぞぉぉぉ!」
「わあっ、何にしよう、迷っちゃう!」
メニューに興奮しながら次々に注文。ワンタンスープに肉野菜炒め、チャーハンなど、狂ったように食べまくる。肉料理に飽きていた僕たちは「アジア人はこれだよ」「うまいねーっ!」一口食べる毎に声を上げた。とにかく、どれも涙が出るほどうまかった。
パキスタンはここ数年、テロや紛争などにより治安が悪化している。場所によっては旅行者にポリスの護衛が付くという話を聞いていたが、クエッタからサッカル間に関しては特に問題はないと聞き、安心して走り出す。
時折ポリスの検問があるが、特に止められることもなく進む。ゴツゴツした岩場の峠の検問で初めて止められる。だが「ほう日本から来たのか、まあチャイでも飲んで行きなさい」とのんびりムード。緊張感は全くなかった。
次の検問に着くと、ポリスが同行するという。えっ! 周りは何もない山なのに? この辺りも危険地帯なのだろうか。銃を持ったポリス(私服なのでポリスに見えないが...)が乗ったバイクの後をパッソルで必死に追いかける。
検問がある度にポリスが代わる。どうやら担当のエリアを越えてはいけないらしい。ポリスは今日はどの町まで行くのか確認すると、その町のホテルまで先導してくれた。チェックインが済むと、明日の予定と出発時間を確認して帰って行った。夜は基本的に外出禁止。翌日になるとポリスが迎えにやって来て、一日の行動を共にする。そんな日が続く。
出発の準備をしていると、田舎のホテルの前に珍しいバイクと日本人をひと目見ようと黒山の人だかりができた。ポリスが「おいそこ、下がれ、下がれ!」と群衆を整理を始める。なんだか来日した外国の人気アイドルのようだ(笑)。
また観光をする日は、ポリスと一緒に観光地を歩く羽目になった。むさくるしい男が4人がぞろぞろとついて来る。ガイドさながらに、このテンプルは...と色々説明してくれてとても親切にしてくれる。せっかく遠くから旅行に来たのだから、精一杯もてなしてあげようという気持ちなのだろう。なんだか嬉しい。こんな風にポリスは気さくで、町の人々の表情も穏やかで平和そうなのに... 危険な状態にあることが信じられなかった。とてもいい国なので、早くポリスの護衛などなく自由に旅行できるようになって欲しい。
一難去ってまた一難か
インドまで数日というところで、充電中の変圧器が突然煙を上げ、壊れた。流れている電圧が安定していないためか、詳しい原因はわからないが、困ったことになった。こちらで簡単に手に入る物ではないので、日本から送るか持ってくるしか方法がない。そこで急遽、親しい友人に相談したところ、ありがたいことに買ってインドのデリーまで持ってきてくれることになった。やはり持つべきものは友達。感謝!
しかし、デリーまでまだ1000km以上ある。動かないパッソルをどうやって運ぼう!? そこで護衛ポリスの車にパッソルを載せてもらってはどうかと考える。確かにそれならお願いできそうだ。マジェスティだけなら走るペースの早くなるし、一石二鳥かもしれない。
翌朝、ポリスに状況を話すと二つ返事でOKが出た。やった、これでパキスタンは行けそうだ。インドに入ってからはまた方法を考えよう。よし何とか先が見えてきたぞ。
ところが...インド国境まで200kmのところで、ポリスの車がストップ。ななんと、護衛はここまでだというではないか。ガーン! 国境まで行くと思っていたのに...まいった。
バイクを載せてくれる車を探さなくては。小さな町をポリスと一緒に探し回る、すると数台と交渉したところで運良く条件の合う車が見つかった。これもポリスのお陰。ありがとう!と手を振りながら走り出したところまではよかったが、10分も経たずに車がパンク。おいおい、まるでマンガじゃないか。
車の歩みは亀のように遅かったが、何とか国境手前のラホールに到着。やれやれと思ったところで、今度は支払い金額で問題発生。2500ルピーの約束なのにドライバーが3500ルピーだと主張し始めたのだ。「あの時ポリスが間に入って一緒に金額を決めただろ!」「いや3500だ」揉めていると人がどんどん集ってくる。代表者らしき人が数名現れ、ふたりの言い分を聞く。すると「この日本人がこう言っているんだ、お前の思い違いじゃないか」という感じで話がまとまった。最終的にみんなは僕たちのことを信じてくれたのだ。嬉しい。周りは全てパキスタン人という状況で、弱い者の見方をしてくれた、心優しいパキスタン人に感謝する。ありがとう。
すべての距離が近いインド人
インドに関しては入「インドへ行ったら騙されるぞ」「町は牛の糞だらけで臭いよ~」とみんなから脅かされていたヒロコ。インド人に絶対負けない臨戦態勢で入国した。
ところが道はきれいだし、道を聞けば親切に教えてくれる、商店はどこも定価で売ってくれる...意外と普通なことにビックリする。それより何より驚いたのが、人や乗り物との距離が異常に近いこと。アムリッツァでサイクルリクシャに乗ったのだが、まず他の乗り物がぶつかるスレスレを抜いてゆくことに驚いた。腕の横5cmをバイクがすり抜け。振り向くと背中から4cmでオートリクシャが止まっているという具合だ。町中は野良牛、歩行者、自転車、オートリクシャ、バイク、車、荷車が混在。それぞれのスピードが違うはずなのに、まるで動くパズルのように、無駄なく隙間なくすれ違い追い越してゆく。それはまるでひとつの芸術品のようだった。
またあるとき。バッテリー交換のため路肩にバイクを止めて作業をしていると、後に人の気配を感じ、ふと振り返ると、鼻がぶつかりそうな距離にインド人が立っていたのでビックリ。何という近さ、恋人の距離より近いじゃないか。アフリカ人やパキスタン人などは人が集ってきても、警戒心があるので一定の距離(2~3m)は置いているのに、インド人はそれが僅か数センチなのだ。
不思議なことはそれだけではなかった、デリーへ向かって走っていると車が一台僕たちに併走してくる。何かと思い横を見ると、窓から僕たちの写真を勝手に撮っているではないか。少しして走り去ったと思ったら車を止めて待っていた。バイクを止めると車からカップルがドカドカと降りてきていきなり写真をバチバチバチ... 「なんだ!?なんだ!?」と動揺していると、満足したのか「グッバーイ!」と手を振り、嵐のように去って行った。そこに残された僕たちは、キツネに摘ままれた気分だった、という具合だ。
ピンクシティからブルーシティへ
デリーに数日滞在すると、待ちに待ったアグラーヘと向かった。国が傾くほど莫大の資金を投入して建設したといわれる、世界一美しい墓"タージ・マハル"を見に行くのだ。入場料1750円もの大金を払い(ちなみにインド人は60円)正門をくぐると、真正面に白亜に聳えるタージ・マハルがドーンと目に飛び込んでくる。
近づくとさらにその大きさと、ふんだんに使った大理石の美しさに圧倒される。これが住むためではなく、皇帝が亡くなった妃のために建てたお墓だというのだから...もう言葉も出ない。愛の力は偉大なり。
砂漠のラジャスターン州に入ると、見所が多くなる。最初に訪れたのがジャイプール。城壁に囲まれた旧市街の建物がピンク色に統一されていることから"ピンクシティ"と呼ばれている。ここではバイクではなくサイクルリクシャに乗って、流れる町並をゆったりと眺めた。
次に訪れたのが"ブルーシティ"ことジョードプル。町に着くとワクワクしながらホテルの屋上へ、ところが思ったほど青くない。「な~んだ...」と少々ガッカリしながら、町の中心にそそり立つメレラーンガル砦へ行く。ここにはマハラジャが所有する王宮や宮殿、マハラジャのコレクションが並ぶ博物館などがあるところ。僕たち庶民にはわからない世界だよ...と思いながら何気なく窓から外を眺めると、目の覚めるような光景が広がっていた! そう、青く染まった町並みが目に飛び込んできたのだ。
「おおおーっ!これぞブルーシティ!」
どうやらさっき見たのとは違う方角に広がっているらしい。眼下にはブルーに塗られた建物の波がどこまでも、海のように続いている。それは今まで一度も見たことがない、神秘的な風景であった。世界には見たこともないすごい風景がまだまだたくさん残っている。
現在地:インド・デリー(2007年11月27日付)
パッソルの総走行距離:43,918km(アジアの走行距離:8,180km)
今回のルート:Delhi→→Agra→→Jaipur→→Jodhpur→→Jaisalmer
訪問国数:39カ国
文/写真:藤原かんいち&ヒロコ
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