BBB MAGAZINE
CREDIT
-
- ライター
- 執筆
藤原かんいち
-
- 撮影
藤原かんいち
-
- バイク
パッソル
VOL.35 『 エロティックなカジュラーホー 』[アジア大陸編]
月の砂漠でキャメルサファリ
ラジャスターン州を東から西へ横断。パキスタン国境に近い、インドの西端にある砂漠の町ジャイサルメールまでやって来た。遥々こんな遠くまで来た理由は、キャメルサファリのために他ならない。また、パキスタンで好きな砂漠を堪能できなかった、その鬱憤をここで晴らそうという目ろみもあった。
ラジャスターン州を東から西へ横断。パキスタン国境に近い、インドの西端にある砂漠の町ジャイサルメールまでやって来た。遥々こんな遠くまで来た理由は、キャメルサファリのために他ならない。また、パキスタンで好きな砂漠を堪能できなかった、その鬱憤をここで晴らそうという目ろみもあった。
東西貿易交路の要所として栄えた時代は遠い昔話。いまでは辺境のひとつの町となってしまったジャイサルメールだが、13世紀の面影を色濃く残す土色の町並みは、いまも魅力に満ち溢れ、異国の旅行者たちを魅了し続けている。
いい宿が見つかり落ち着くと、早速キャメルサファリの準備に取り掛かった。といっても旅行会社がラクダ、ガイド、食事など全て用意してくれるので、身ひとつで参加するだけだが... 考えた結果、1泊2日(2日目は半日)のツアーに決める。
1時間ほどジープに揺られると、何もない荒野にぽつんとラクダ3頭とガイドらしき姿が見えてくる。さあ、いよいよ待望のキャメルサファリの始まりだ。ラクダに乗るのは生まれて初めて、それだけで胸がドキドキする。
立ち上がったラクダの背は思いのほか高く、見晴らしが良い。が、アラビアのローレンス気分でいられたのは、最初の3歩だけ。その後は、内モモに裂けるような激痛が走り続け、さらに鞍の鉄柱に男の大切な部分がグイグイ押し付けられる二重苦が始まった。ひたすら痛みに耐えるSMの世界。雰囲気だけは満点なんだけどなぁ...
昼になるとガイド人「ダルボーイ」が途中で拾った枯れ枝で火を起こし、飛び切り辛いカレーと甘いチャイを作ってくれた。本物のアウトドアの達人が作るランチは、胃袋に染みるようにうまかった。歩き続けること5時間、美しい砂丘が見渡せる場所にたどり着いた。どうやらここが今日の寝床らしい。砂丘の向こうに夕日が沈む、見上げると裸電球のようなお月様が僕たちを優しく照らしていた。
うるさいインドの車たち
ジャイサルメールを出て4日目。ウダイプルへ向かう交通量の少ない国道を走っていると、前方で車が数珠繋ぎになっていた。踏み切りか?それとも道路工事か? ピクリとも動かないので横をすり抜けて先頭へ出てみる。うひゃぁ~ 鉄柱を積んだトレーラーが路肩の草むらに突っ込んでいるではないか。まったく、インドはどうしてこう事故が多いのだろう。
これまで旅してきた中で、無謀運転の数はインドが間違いなくナンバーワン。特に頭に来るのが、対向車線の追い越しの車が、僕たちが見えているのに平気で追い越しを掛けてくること。普通は対向車線に車がいたら追い越しを諦めるのに、かまわず前方から猛スピードで迫ってくるのだから恐ろしい。相手が悪いのにこっちが路肩へよけるのだから、こんな理不尽なことはない。それも違反している向うがパッシングしたり、クラクションを鳴らしたりするのだから、あきれ返る。
逆走車も多く、信号無視は当たり前、ウインカーを点けずに(ほとんどが壊れている)いきなり曲ってきたり、後方を確認せず(ミラーもない)飛び出してくる車も数え切れない。ポリスの取締りが甘いのか、もしかしたら、そもそも正規の交通ルールを知らないのかもかも... なんと、恐ろしい。
そのかわりホーンだけは良く鳴らす。日本ではホーンの音はあまり聞かないが、インドでは常にどこかでホーンが鳴っている。町を抜けるときには、スピードは緩めずにひたすらホーンを鳴らし続け、前の車が遅いと「プップーッ!」。車を追い抜くときに「プップーッ!」。路肩を歩いている人に「プップーッ!」。インド人はまるで会話をするようにホーンを鳴らす。極めつけはほとんどのトラックに、英語で「HORN PLEASE(ホーンをお願い)」「BLOW HORN(ホーンを鳴らして)」と描かれていること。これには笑った。これを見てインド人はホーンがどこまでも好きであることを確信した。
ルピーが...誰か両替してくれ
1ヶ月近くいたラジャスターン州を出て、マディヤ・プラデーシュ州に入る。昼間、何気なく財布の中を見て、目が点になった。何度か両替のタイミングを逃していたので、そろそろ両替と思っていたら、なんと残金が1,100ルピー(約3000円)しかないではないか。インドは物価が安いとはいえ、ホテルは1泊500ルピー。マジェスティを満タンにしたら300ルピーは飛んでゆく。さらに食事をしたら、はい全財産終了!ではないか。えらいこっちゃぁ!
お金の管理は基本的に僕がしているので、そんな状況にあることを恐る恐るヒロコに伝えると「ええっ、うそでしょーーっ!ちょっと、だからもう...」火山大噴火。ヒロコが怒るはごもっとも、のんきな僕は時々こういうポカを起こすのだ。
夕方にたどり着いたシブプリは人口15万の中規模の町。とにかくこの町で何とかしなくては。明日から無一文だぞ~ インド人に相談すると「あそこならできるんじゃないか」とバイクで銀行まで連れ行ってくれた。奥の奥にある、お偉いさんの机までたどり着いた。ああ良かった、ここまで来れば大丈夫。と思ったら、ここではドル現金もトラベラーズチェックも両替はできない、と冷たい言葉が返ってきた。
「そんなぁ...」
途方に暮れているとそのインド人が、キャッシュカードは持っていないのか?と天使のように囁いた。そうか、そうだよ、キャッシュカードがあるじゃないか。どうしてそんな簡単なことに気がつかなかったのかと、照れ笑いしながら、世界中どこのATMでも引き出せるインターナショナルカードを貴重品袋から取り出す。
...ところがそいつを機械に差し込んでも、うんともすんとも反応しない。おかしい、もう一度やってみるが、ダメ。うそだろ。周りのインド人も首を傾げている。ATMの機種によっては使用できない場合もあるとあったが、まさか、こんなタイミングで出会うとは!何という運の悪さ。
うーっ、これは困ったぞ。これで残された道はひとつとなった。この町一番と思われるツーリストビレッジ(ホテル)へ行ってみよう。高級ホテルならほとんど両替ができるし、外貨払のところもある、おそらく大丈夫だろう。
100ルピー分のガソリンを入れ、町から10km離れた国立公園の入口にあるホテルへ向かう。着いたホテルはきれいに整備された敷地にあり建物も立派だ。これなら行けるだろう...と期待しながら、レセプションへ。
すると、ここでは両替はできません、外貨支払いも受け付けません、と予想もしていなかった答えが返ってきたではない。ここが最後の頼みの綱なのに...
「そこをなんとか、ルピーはないけど、ドルとユーロなら充分持っているんですよ。クレジットカードだってあるし... そうだ、明日の午前中に次の大きな町まで行って両替して戻ってくるよ。チェックアウトの時に払えればいいでしょ、ね!?」
必死に頼み込むが首を縦に振らない。その反応は、これがあの何事にもアバウトなインド人なのかと思うほど、冷たい。くそーっ、たかが両替じゃないか。何で、そんなこともできないんだこの国は! 行き場のない怒りが虚しく響く。
完全に行き場を無くした僕たち。とりあえず今夜だけでも宿に泊まろうと、町にある安ホテルへと引き返した。トボトボと受付に行くと、観光地でもないのに、欧米人らしき旅行者が受付をしているではないか。おおっ、これは! 外国人なら多少お金を持っているし、両替をしてくれるかもしれない。よし、これは一か八かだ! ヒロコが思い切って事情を説明、少しお金を替えてもらえないかとお願いをする。
「...なるほど、いいよ!」
なんと、両替してくれるというではないか、やった。僕たちはその旅行者が戸惑ってしてしまうくらい、頭を下げ何度も何度もお礼を言った。その翌日、次の町で無事両替もできた。それにしてもお金が少ないということが、ここまで気持ちを不安させるとは思わなかった。その事件以来、これまでののんきがウソのようにこまめに両替をしている。
エロティックなカジュラーホー
インド北部のほぼ中央、目的地のひとつカジュラーホーにやって来た。この人口2万人弱の田舎町にあるヒンドゥー教寺院は、エロティックな彫刻があることで有名。
町に着いた途端、客引きに囲まれる。「うちのホテルは安い!」「うちにはバイク用のガレージあるよ」あちこちから声が飛んでくる。中には怪しい日本語を話す奴もいる。それにしてもどいつもコイツも胡散臭い。いくつか自分の目で見て歩き、バイクをガレージに置ける小さなホテルに落ち着いた。
僕は2度目の訪問だが、ヒロコは初めて。一体どんなエロイ彫刻があるのか!? という期待でヒロコの胸と鼻が膨らんでいるのが手に取るようにわかる。
主な寺院があるのは西群と呼ばれるエリアで、見上げるような巨大寺院が14も残っている。入場料を払い順に見て行くが、とにかく外壁に掘られた彫刻の量が半端ではない。最も大きなガンダーリヤ・マハーデーグァ寺院に至っては内側に226体、外側に646体、合計872体の像があるという。さらにその高い芸術性にも驚く。彫られている像もインド人の暮らしから、兵士、神、女神、動物など多種多様に渡っているので、見ているだけで楽しくなってくる。
一見ではわからないが、よ~く目を凝らすと、ところどころに曲芸的な乱交を描いた像や、動物と性交渉をしている像があるではないか。さらにその様子を見ている動物や目を覆って見ないようにしている女性までいる。すごい、すご過ぎる。それにしても、こんなにリアルでエロティックな像を、厳粛な寺院の外壁に彫る必要があったのだろうか? もしかして、ただの趣味? それとも深い意味があるの? まあどちらにしても、インドは僕たちの常識を超えた国なのは確か。
寺院を見学した後、ヒロコに感想を聞くと「もっとすごいと思ったのに、数も少ないし、大した事なかったわ...」サラリと言う。おいおいヒロコ、オマエは一体どんな像を想像していたんだぁ~!? インド以上に恐ろしい我妻なのであった。
現在地:インド・バラナシ(2007年12月18日付)
パッソルの総走行距離:45,847km(アジアの走行距離:10,109km)
今回のルート:Jaisalmer→→Udaipur→→Shivpuri→→Khajuraho→→Varanasi
訪問国数:39カ国
文/写真:藤原かんいち&ヒロコ
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