BBB MAGAZINE
CREDIT
-
- ライター
- 執筆
藤原かんいち
-
- 撮影
藤原かんいち
-
- バイク
パッソル
VOL.37 『 ついに東南アジア突入 』[アジア大陸編]
ヒロコ、まさかの骨折
人垣を掻き分けると、道の端でヒロコが苦しそうにうずくまっていた。
「おい、大丈夫か!?」
「......」
あまりに痛いのか、返事がない。
「どうしたんだ? 自転車にぶつかったのか?」
「ううん、ぶつかりそうになったところでバランスを崩して......」
「コケたのか?」
「足が倒れたバイクの下敷きになって......」
これまでも何度かバイクを倒したが、今回は打ち所が悪かったらしい。見たところ血は出ていないが、よほど強く打ったのか、なかなか動かない。捻挫だろうか? 少し動かしただけで、激しく顔を歪ませる。しばらく様子を見て、立てるようなったところでヒロコが軽いパッソルに乗ってホテルへ向かった。
片足を引きずりながら、どうにかホテルのベッドへたどり着く。さあ、どうする。バングラデシュのビザの有効期限は明日まで。もし捻挫程度なら、多少無理しても走って明日インドへ入りたい... 大怪我じゃないし、何とか走れるなら...軽い気持ちで言ったところ
「ちょっと、あんた。血も涙もない薄情男ね! もう、信じられないっ!」
ヒロコの怒り大爆発。ふたりの間にひんやり冷たい空気が流れた。ふ~っ... 確かにそうだ。わかった。この際明日のインド行きはキッパリ諦め、何はともあれ病院へ行って足を診てもらおう。今後をどうするかはそれからの話だ。
翌朝、リキシャに乗ってジョソール公立病院へ。とても近代的とはいえない病院だが、すぐに車椅子が出てきた。これで写るの?と頭を傾げたくなる年代物のレントゲン機で撮影。とりあえず、これで骨に異常がなければいいんだよな... まあ2、3日休めば走れるだろう... などと思いながら、フィルムを蛍光灯に照らした瞬間、時間が止まった。
「えええっ? ウソだろ...」
信じられないことに、左足の甲、小指から伸びている長い骨が、真ん中辺りでポキリと折れているではないか。
「あははは... 折れてるじゃん...」
ふたりで顔を見合わせると、もう笑うしかなかった。
威厳のなさそうな医者が頭をボリボリ掻きながら、フィルムを指し、ここが折れているね。骨が付くまで、まあ3週間以上はかかるかなぁ... 淡々と説明した。
<ヒロコが骨折した><3週間は動けない>ふたつの言葉が頭の中をグルグルと駆け巡る。それからふたりで話し合い、結局、車にバイクを載せて設備の整ったダッカの病院へ行くことにした。ダッカなら以前お世話になったバングラデシュ・トラベル・ホームズの千鶴さんもいるので安心、こうなったらしばらくダッカで治療しよう。
旅は大きく方向転換した。
一路ダッカへ。ゲストハウスの日々
ジョソールからダッカまでの250kmは、何と、救急車で行くことになった。
いろんな人に色々相談しているうちに、救急車(こっちは個人所有)を借りればパッソルも載せられる上、車よりも安く行けることがわかったのだ。
5日振りに懐かしいバングラデシュ・トラベル・ホームズに戻ってきた。もう来ることはないと思っていた場所なのに、予想外の展開だ。会いたかった千鶴さんは帰国中でしばらく不在らしいが、ゲストハウスと日本食レストラン(開店準備中)のメンバーが、突然の骨折と再訪に驚きながらも笑顔で迎えてくれた。それから1ヶ月間、治療滞在することになったゲストハウスは個性的なメンバーが揃っていた。
まずハウス支配人のミントゥ、外見はゴツイが性格はきわめて温厚。5タカ(9円)のリキシャ代も節約するほど経済観念が発達!? 僕たちのいろんな相談にいつも親身に乗ってくれる、頼れる母親のような存在。グァハハハ...笑いが特徴。
トラベル部門担当のカーン。日本留学経験が有り日本語がベラベラ。叩き上げのミントゥとは逆に、お坊ちゃま。博学なのか、ひとつの質問に、その何十倍もの答えが返ってくる。話が長すぎる上に脱線するのは難点だが、僕たちの質問にいつも一生懸命に答えてくれる。バングラでは珍しい、6時になるとすぐに帰る、定時の男だ。
客室&ネットカフェを担当しているのがシャヒーン。24歳らしいが童顔なので高校生にしか見えず、たまに「マイ、ファザァ~!」といって僕に甘えてくる。とにかくいつもニコニコ笑顔なのがいい。すぐに僕の日本語を覚え、「あれ~?」が口癖になっていた(笑)。
客室担当のメー。実は二十歳を過ぎているらしいが(戸籍がない!)小柄なのでどう見ても中学生。日本語が少し分かり、僕がフォークで髪の毛を梳かす振りをすると「それはクシではありません!」と真顔で教えてくれるのが面白くて、よくからかって遊んだ。
さらに日本食レストランを開店するための準備に来ていた日本の調理人、ゼンさんとコンさん。毎日おいしい日本食を作ってくれたお陰で(さらに骨折で動けない)、僕たちはすっかり太ってしまった。
そして最後、このメンバーをまとめているのが、ここのドン、千鶴さん。明るくパワフルな人で、彼女がいるだけで周りがパッと明るくなる。僕たちと年代が近いこともあり、とても親しくしてくれた。せっかく時間ができたんだからと言って、ヒロコが骨折していることも忘れて(笑)、集まりや食事などいろんな場所へ連れて行ってくれた。
生まれて初めての骨折、確かに不安もあったし不自由な1ヶ月間だったけど、周りのみんなのお陰で楽しい時間を過ごすことができた。もし怪我をしていなかったら... みんなとこんな深い付き合いにならなかっただろう、そう思うと不思議な縁を感じる。
さらにゲストハウスのメンバー以外にも、親身になって骨折の治療をしてくれた形成外科のラビ先生。思い出のテレビ出演の依頼や、自宅に招いておいしい食事をご馳走してくれたサリムさんなど、貴重な出会いがたくさんあった。僕たちを支えてくれた皆さん、本当にありがとうございました。
ついに東南アジア突入
ビザを2度も延長。結局43日間もの長期滞在となったバングラデシュを離れ、飛行機に乗ってマレーシアへと向かった。しかしヒロコの足はまだ完治していないため、足はキプスを巻いたまま、松葉杖を使っての移動となる。
「おおおっ、すげーっ、近代的!」
朝8時。マレーシアの空港に降り立つと、予想以上に近代的な設備に驚く。これは日本以上かも。そして窓も壁も床もトイレもピカピカ! とても衛生的とはいえないインドやバングラデシュを旅してきた僕たちの目には別世界のよう。
バングラデシュを立つ直前、バイク輸送を頼んだ運送会社から、マレーシアは空港に到着して30時間以内に引き取りに来なかったら約30万円の罰金と聞いていた僕たちは、大慌てで別の空港のエアカーゴ倉庫へ向かった。
東南アジア独特のムッとする暑さの中、滝のように汗を流しながら広大な敷地の中を行ったり来たり、3時間かけてようやくバイクを引き取った時には、その場に倒れそうなくらい疲れ果てていた。
クアラルンプールは高層ビルが立ち並ぶ大都会だが、計画的に造られているためどこもゆったり、公園や緑も多く過ごしやすい町だった。マレー系、中国系、インド系と多人種だが、日本人に似た顔もよく見かける。日本へ近づいている事を実感する。
だが何より嬉しいのがおいしい食事。もちろんカレーも大好きだが、やはり食は東南アジア。マレーシアには肉、魚、シーフード、野菜、果物などとにかく素材が豊富。さらに味付けも中華風、マレー風、インド風、さらに西洋料理まであるのだからたまらない。これがまた安くて、ご飯におかずが3品で200円。ラーメン一杯120円で食べられるときている。次は何を食べよう?想像するだけで胸が弾む。
クアラルンプールの病院で再診察。レントゲンの結果、骨はOKということで、ついにギプスとはオサラバとなった。やったぁ! と大喜びだったが、1ヵ月半使っていなかった左足の筋肉は落ちていて、すぐに思うようには歩けなかった。まあ当然か、生身の体は機械のように「はい直りました」というわけにはいかないもんな。ゆっくりと旅を続けながら、あせらず少しずつ戻してゆこう。
気が付くと僕たち長かった旅も残り2ヶ月となっていた。
現在地:マレーシア・ペナン島(2008年2月29日付)
パッソルの総走行距離:48,328km(アジアの走行距離:11,432km)
今回のルート: Bangladesh/Dhaka......飛行機......Malaysia/Kuala Lumpur→→Ipoh→→Batu Ferringhi
訪問国数:41カ国
文/写真:藤原かんいち&ヒロコ
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