BBB MAGAZINE
CREDIT
-
- ライター
- 執筆
藤原かんいち
-
- 撮影
藤原かんいち
-
- バイク
パッソル
VOL.38 『 タイ・バンコクに到着 』[アジア大陸編]
不運を乗り越えマレーシア北上
クアララルンプールから、骨折を乗り越えて何とか再開を果たしたパッソルの旅だが、状況は以前と大きく変わっていた。
実はバングラデシュからマレーシアへバイクを空輸した際、場所はわからないが、何者かによってバイクと荷物の梱包が壊され、バッテリー2本と充電器1個が盗まれていたのだ。クアラルンプールの空港倉庫でそれがわかった瞬間、愕然とした。
バッテリー4本では1日の走行距離が180kmから120kmへ減ってしまうが、最終的には旅の残り期間と距離を考えて、手持ちの体制のまま最後まで行くことにした。
もうひとつは運転するバイク。骨折から2ヶ月。骨が付いたとはいえまだ完全ではないヒロコが、この足で重いマジェスティを動かすのは不安だという。そんな状況から僕がマジェスティ、ヒロコがパッソルを運転することにした。とにかく電動バイク世界一周をふたりの力で成し遂げることが最優先なのだ。
マレーシアの道は日本が負けそうなくらい整備されていた。メインルートは道幅が広く、路肩にはバイク用の車線まである。おかげで速度の遅いパッソルでも安心して走ることができた。さらに、マレーシアは原付でも高速道路が走れるという高待遇。(高速にはバイク専用の雨宿り所まで!)。それなのにバイクの通行料は無料!というのだから、ライダーのとっては夢のよう... これはもうアイ・ラブ・マレーシアなのだ。
マレーシアは、緑豊かなジャングルと森林、揺れるヤシの木、抜ける様な青空、頬を伝う熱風...これぞまさに熱帯という風景がどこまでも続いていた。
走っていると路肩を歩く体長50cmもありそうなオオトカゲ! 急ブレーキをかけると、驚いてガサガサと茂みの中へ逃げて行った。さらに走ると、今度は森の木の枝にサルが腰かけ、パパイヤをおいしそうに食べている。これぞまさにリアル版ジャングル・ツーリングであった。
タイで日本を感じる
陸路で42カ国目となるタイに入国。"ほほえみの国"と言われるだけあって、国境の人たちも穏やかな笑顔で迎えてくれた。
これまでのインドやバングラデシュは、バイクを停める度にドドドッ...と野次馬が集ってきたがタイはどうなのか? 心配していたら... あらららっ、誰もよって来ないぞ。それどころか、食堂の店員などは僕たちが外人だとわかると、目も合わせないではないか。そんな光景にふと日本を思い出す、そういえば日本も外国人を見たらこんな感じかもなぁ~。どうやら日本と同じくタイもシャイで控え目な人が多いらしい。
日本と似ているのはそれだけではなかった。国道沿いにはコンビニが氾濫。こんな国は初めだ。店内に入ると、日本でも御馴染みのお菓子が並び、緑茶ドリンクは日本名。さらにカウンターの横には、肉まんの保温機まで...これじゃ、まるきり日本じゃないか!これにはビックリ仰天だった。
タイは道も良く、人は穏やか、物価も安く、何でもある。いいこと尽くめだが、僕たちを一番感激させたのは屋台だった。日本では姿を消した屋台が、タイでは現役バリバリ。公園や市場の周辺、バスターミナルなど夕方になると屋台がビッシリ並ぶのだ。
屋台にはラーメン、焼きそば、串焼き、総菜屋、から揚げ、フルーツ、ジュース、デザート、お菓子、とうもろこしから虫の佃煮など。日本のお祭りなど比較にならないほど種類が豊富。それが一品100円以下で食べられるのだからたまらない。今日はこれ、明日はこれ、と食べ歩き。お陰で食いしん坊の僕たちのお腹は、膨れ上がる一方だった。
戦場にかける橋とアユタヤー
バッテリーの盗難で1日100kmしか進めなくなったことで逆にいいこともあった。
外国人の来ない素朴な町を訪れたり、静かなビーチで過ごしたり、小さな漁村の漁船を覗いたり、地元市場を歩いたり、大きく進めないことでタイ人の普通の暮らしに触れることができたのだ。お陰でこれまで以上に濃い旅になった。
マレー半島を3週間かけて縦断、ミャンマーとの国境に近い、カンチャナブリーに到着する。ここまで来たらバンコクも目と鼻の先だ。
安宿に荷物を置くと、映画「戦場にかける橋」の舞台にもなった、クウェー川鉄橋へ向かった。林の中にひっそりとあるのかと思ったら、お土産屋やレストランが並ぶ観光地になっていた。橋の上を引き切りなしに観光客が行き交い、写真を撮り合っている。そこには悲惨な戦争の舞台となった場所とは思えない、平和な空気が流れていた。
だがその後に訪れた、JEATH戦争博物館には捕虜たちによる、病気で苦しむ人や拷問などの様子を描いた絵などが展示。絵を見ながら当時のことを想像すると胸が痛くなった。
次に訪れたのがアユタヤー。1350年から約400年に渡って栄えたアユタヤー王朝の中心地だが、度重なるビルマの攻撃によって、寺院や仏像のほとんど破壊されてしまった。
町に入ると崩れたレンガ積の建物が次々に現れる。だが、僕がここで一番会いたかったのは遺跡ではなく... 苔むしたレンガ積みの横を通り過ぎると
「おおおっ、これだ!」
そこには僕が5年前から会いたいと思い続けていた、巨大な木の根に包み込まれて眠る、仏像があった。
目の前に立つと不思議なオーラを感じる。悲惨な侵略・戦争の歴史を見てきたはずなのに、それはまるで人を優しく包み込むような柔らかいオーラだった。木の根に囲まれた仏像が「奪い合うことよりも、もっと大切なことがあるだろう?」そう語りかけているような気がした。
ついにバンコク到着、そして...
計画当初は、バイクでカンボジアのアンコールワット遺跡まで行く予定だったが、最近アンコールワットと基点となるシムリアップの町が、外国人のバイク運転が禁止になってしまったため、ゴール地をバンコクに変更することにした。
2008年3月23日。アユタヤーを出てバンコクへ向かう。残り約80km。大きなトラブルでもいない限り、今日中にたどり着くはずだ。長かったバイクの旅も残り1日というのが信じられない気持ちのまま、バイクを走らせる。
バンコクが近づくにつれて交通量が激増。バスの運転がひどく、隣にバイクがいるのをわかっているのに、車線を変更しながらどんどん迫ってくる。頭にくるが、こんなところで事故に遭ったらシャレにならないので、慎重に進む。
乱立する統一感ないビル群、その間を通る高速、慢性渋滞、バンコクの町は東京そっくりだった。「なんだかもう日本に帰ってきたみたいだね」とふたりで笑う。
バンコクの中心となる"王宮"が見えてくると、到着記念の写真が取れそうな場所を探して周辺をウロウロ走り回る。ようやく見つかったのがワット・ポーの近くの路肩。三脚を立ててカメラをセッティング、到着の瞬間を写真とビデオに納める。ここでようやくバンコクに着たんだ、という実感が湧いてくる。そんな感激に浸る暇もないまま、次は宿探し。バイクが置ける宿がなかなか見つからず、1時間以上かけて探し回り、ようやくホテルが見つかった時には日が大きく傾いていた。
夜になり、これが最後のバッテリー充電か...などと感慨に耽りながら、バッテリーを床へ置こうとした瞬間、腰がグキッ! 激痛が走った。えっ、なに、うそ! それからあまりの痛さで体が動かせなくなってしまった。スローモーションのようにしてベッドへ横たわる。記念すべきゴールの日に、人生初のギックリ腰なんて、ひどすぎる!!
ベッドでうーうー唸っていると、シャワー室から出てきたヒロコが、僕の様子を見て大笑い。
「おい! 笑ってる場合じゃ... あっ、イタタタタ...」
「うふふふ... 腰痛は辛いのよ~」
腰痛持ちのヒロコが嬉しそうに笑う。しかし、まさか記念すべき日にこんな仕打ちが...いやハプニングが待っているとは、夢にも思わなかった。でも、こんなずっこけたゴールも、僕たちらしくていいかもね、などと思うふたりであった。
僕たちはバンコクにゴールをしたが、本当の意味での世界一周のゴールはまだ先。
ここバンコクから飛行機でアンコールワットへ行き、そしてさらに台湾の巨木に行くのだ。その後、日本へ帰国。そして5月には最後の国として日本(大阪~神奈川・自宅まで)をパッソルとマジェスティで旅するのだ。ふたりの珍道中、日本版。旅はまだまだ続く。
現在地:タイ・バンコク(2008年3月28日付)
パッソルの総走行距離:49,726km(アジアの走行距離:12,830km)
今回のルート: Batu Ferringhi→→THAI入国→→Hat Yai→→Surat Thani→→Prap Khiri Khan→→Kanhanaburi→→Ayutthaya→→Bangkok
訪問国数:42カ国
文/写真:藤原かんいち&ヒロコ
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