BBB MAGAZINE
CREDIT
-
- ライター
- 執筆
藤原かんいち
-
- 撮影
藤原かんいち
-
- バイク
パッソル
VOL.40 『 素晴らしい旅をありがとう 』[アジア大陸編]
元気な日本の巨木たち
バンコクから送ったバイクを大阪南港で受け取ると、日本の旅がはじまった。
大阪滞在でお世話になった友人に見送られ、大阪の町を走り出す。僕の下にはいつもの小さなパッソル、後ろを振り返えると荷物満載マジェスティとヒロコ。これまでずっと見続けてきた当たり前の光景なのに、ここは日本だと思うと不思議な感じがする。 神奈川まで約800km。大きなバイクで高速を使えば1日で着く距離だが、バッテリーが4本しかないこともあるので、2週間くらいかけて行こうと思っている。
まずは大阪府門真市の三島神社にあるクスノキ「薫蓋障」を目指す。大阪で一番有名なクスノキなのだが、2002年の日本縦断で会って以来6年ぶり。どうしているだろう? 病気になっていないだろうか? いや、いや、1000年も生き続けている長寿の木、きっと元気にしているさ。 住宅地を抜けると... 懐かしい姿が見えてきた。緑が青々としている、よかった、元気そうだ。クスの木は神社の天を覆うように大きく枝を広げている。6年前と変わらない。ただ見ているだけで気持ちが大きくなる木だ。お互い元気で再会できたことへの感謝の意味を込めて、手を合わせた。
愛知県の蒲郡市にも負けず劣らず、魅力的なクスノキがあった。みかん畑が広がる、のんびりとした田舎町の狭い道をトコトコと進んで行くと、大地に太く強く根を張った大きなクスノキがのびのびと枝を広げていた。これもまた樹齢1000年の長寿だ。 木を眺めていると、犬を連れた女性がやって来た。近所の人らしい。この辺りは昔、大クスの林が広がっていたが、いま残っている大木はこの一本だけだという。
そんな話をしていると、今度は農作業を終えた息子さんが現れた。クスノキから会話が広がり、僕たちの旅の話になる。そこで実は息子さんも無類のツーリング好きであることが判明、おしゃべりは無限に広がった。思わぬ出会いから楽しい時間を過ごすことができた。この木を訪れなければ、ふたりと出会うことはなかっただろう。それはまさに巨木が結んだ出会いだった。
なつかしい再会
僕たちは5月17~18日(1泊2日)で世界一周の達成を記念するキャンプを計画。事前にメールやホームページなどを通じて呼びかけていた。17日の昼過ぎ、静岡県の秋葉神社キャンプ場に到着。山の谷間、気田川の河原に面した自然豊かなキャンプ場だ。誰が来てくれるのか楽しみに待っていると、バイクが次々にやって来る。
旅先で会った当時大学生だったカップルは立派な社会人に、埃まみれだった旅人はこざっぱりとして別人のようになっていた。オーストラリアを歩いて旅をしていた男は日本徒歩旅の途中だった。この旅の恩人ともいえるOR誌の編集長もバイクで駆けつけてくれ、同士の様に応援を続けてくれたT氏も遠くから来てくれた。こんなにたくさんの人たちが僕たちの旅を見守っていてくれたのかと思うと、感謝の気持ちでいっぱいになった。 旅報告の後は無礼講。とても今日始めて会ったとは思えないくらい、みんな話が弾んでいる。飲めや、食えや、騒げや、大宴会。笑い声は深夜まで途切れることはなかった。
その翌日、静岡県磐田市にあるヤマハ発動機本社を訪問。拍手と花束で出迎え、世界一周達成を祝福してくれた。お世話になった方々を前に旅の様子などを報告。それまで世界一周旅が終わる実感がなかったが、昨日のキャンプと今日の訪問で、ようやく実感がわいてきた。順調に行けば後4日ほど走れば自宅へたどり着ける距離まできている。泣いても笑っても、もうすぐ僕たちの旅は終わるのだ。
日本を再発見
実は、日本の旅を始める前に心配していたことがあった。それはパッソルの低速走行に後続車がイライラして煽ってきたり、強引な追越しをかけてくるじゃないかという不安だ。海外では大丈夫だったのに、自国で事故に遭ったのではシャレにならない。 道が狭くて、車が多い日本の交通事情を考えるとかなり恐怖だったが、実際に走ってみると、これが大きな間違いであることがわかった。想像以上にみんな安全運転。無理な追い越しはないし、クラクションを鳴らすこともない。日本の交通事情を考えると、かなりのストレスがあるはずなのに、さすが日本人は我慢強い。交通マナーは他のアジア諸国と比べたら雲泥の差。日本のマナーレベルの高さは世界に誇れるものだった。
そしてもうひとつ再確認したのが、豊かな自然。新緑の季節というのもあるが、「ええっ、日本のこんなに緑が多かったの!?」というくらい、日本は緑が溢れていた。また、1日走っただけで海あり、山あり、川あり、湖がある。これほど自然の変化に富んだ国は他に見当たらない。海外は一日走り続けても砂漠だったり、荒れ果てた土地が広がっている国が多いのだ。日本では当たり前の自然が、実は外国ではとても貴重な存在なのだ。 特に日本は水が豊かだと感じた。途中で立寄った静岡県三島市にある、日本一の湧水量を誇るとされる「柿田川湧水」はその代表。大地から透明な水が懇々と湧き出す光景は、感動を覚えるほどだった。実は僕たち日本人は自然に恵まれた、豊かな国に住んでいるということをこの旅は教えてくれた。
素晴らしい旅をありがとう
小田原から国道1号を走り、大磯から車の少ない県道で北上する。途中で見つけた和食レストランに立ち寄り、寿司と天ぷらで一足早い祝杯を上げる! しみじみ思う、やっぱり日本食はうまいなぁ...。膨らんだお腹を擦り、満足感に浸った。 「よし、行こう、自宅まであと少し、ラストスパートだ」 2008年5月23日、午後3時30分。我が家にたどり着いた。ついに、僕たちは電動バイク世界一周を最後までやり遂げたのだ。とにかく、ふたりとも大きな事故もなく、バイクに乗って帰ってくることができた。それだけで幸せだった。
おわりに
世界の巨木たちが教えてくれたこと。それは美しい巨木たちを守ることは地球の自然を守ることであり、それは結局、人間を守ることでもあるということだった。地球はひとつ、そこに生きる全ての人間は運命共同体なのだ。そこには国境も人種もない、全てはひとつ。全ては繋がっているのだ。 この世界一周で僕たちは、現地の人たちから信じられない位たくさんの親切を受け取った。子供たちの無邪気な笑顔は僕たちのビタミン剤だった。お陰で世界中にたくさんの友達ができた。みんなと過ごした時間は、忘れられない僕たちの宝物となった。 そして、旅を終えたいま、この旅は決して僕ひとりの力ではできなかったということを実感しています。妻のヒロコの協力はもちろんのこと、家族、友人、スポンサー各位、周りの人たちの理解と協力があったからこそ、この旅は実現できたのだと思っています。よき理解者に恵まれたことに感謝しています。ありがとうございました。 最後に、この旅をスポンサードしていただいた株式会社ビーディーエス様には大変お世話になりました。心から感謝しています。おかげさまで旅を成し遂げることができました。ありがとうございました。 ホームページを通じて電動世界一周を応援してくれた皆さん、ありがとうございました。次の旅で、また会いましょう!!!
現在地:日本(2008年6月17日付)
パッソルの総走行距離:50,552km
今回のルート:大阪→→京都→→近江八幡→→岐阜→→安城→→浜松→→島田→→小田原→→相模原(自宅)
訪問国数:44カ国(日本は含まず)
文/写真:藤原かんいち&ヒロコ
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